幕間ーキャロライン
女主人公の上司の思惑が少し明かされます。
園遊会の翌々日、メアリ母さんが私を訪ねてきた。
「お疲れ様、いろいろ園遊会の手配が大変だったでしょう」
「もうある程度、慣れていますし、宮中女官や侍女もいますから」
私達は、まずは当たり障りのない会話をした。
「池の畔の小亭で、母子水入らずの会話で疲れを癒さない」
メアリ母さんの提案に、私は肯き、侍女に小亭でのお茶の準備を命じた。
お茶の準備が整い、母子2人きりになった。
メアリ母さんの表情が変わり、秘密を共有する者同士の表情になった。
やはり秘密の相談事だ、メアリ母さんが符丁を言った。
「いつ来てもここは気持ちいいわね。姪っ子」
「伯母さん、例の件を調べたのね」
メアリ伯母さんは、周囲を見回し、誰もいないことを再確認すると、肯いて話を始めた。
私が、メアリ母さんが単なる養母では無く、血のつながった伯母であることを知ったのは、物心つくかつかないかの頃だ。
私の本当の母、アン母さんは嫁ぐ前に、私をしばしば訪ねてきては、
「私が本当の母と名乗れなくてごめんね」
とそっと私にささやいていたからだ。
その時は、それがアン母さんだとは分からなかったが、成長するにつれ、そうささやいていたのが、メアリ母さんの妹、アン叔母さんだと分かり、私の出生の秘密を知った。
私はジョン皇帝の皇貴妃として嫁ぐ前に、メアリ母さんにその出生の秘密を確認した。
メアリ母さんは私が察していることに気づいていたのだろう、あっさり肯定した。
エドワード達、ヘンリー大叔父とアン叔母さんとの子は、私の異父弟妹なのだ。
夫のジョンと初夜を迎え、抱かれた後で、私は気づいてしまった。
この男にとって、所詮、私は子供を作るための道具にすぎないのだ、と。
幾ら私が努力しても、この男が私を妻として愛することはあるまい。
それなら、私もそれなりの対応をさせてもらう。
血のつながった異父弟であり、それを知らずに私に求婚してきたエドワードのことを、私は第一に考えて行動させてもらう。
私は表面上は、皇貴妃としてそつのない態度を執りつつ、ジョンのことは私が子供を産むための道具だと割り切ることにした。
メアリ伯母さんは、ヘンリー大叔父が大公家当主の頃から、大公家の裏の顔を取り仕切っていたらしい。
らしい、というのは私にもメアリ伯母さんは完全な真相を明かさないからだ。
チャールズ父さんが大公家当主になってからは、チャールズ父さんは完全に裏の顔については、アンタッチャブルだ。
エドワードでさえ、メアリ伯母さんのこの顔を知らない筈だ。
メアリ伯母さんは、私に大公家の裏の顔を引き継いでほしいらしい。
私も引き継ぐ用意がある。
チャールズ父さんやエドワードにとって必要なことだからだ。
「あなたの思った通り、あのアリスの兄ダグラスは、地方でボークラールの血を引いていて口の堅い者に書状をいろいろ送っているわね。それは確認できた。ジョン皇帝の方は」
「私から警告しておきました。全く、あのボンクラ亭主、大公家の目をかすめて、帝室に力を取り戻すという夢を忘れていないようです」
「ジョン皇帝が、その警告で諦めてくれればいいけどね。ダグラスの書状の内容が掴めないから、どこまでのことを企んでいるのか」
メアリ伯母さんは首をひねりながら、言葉をつないだ。
「ところで、アリスの方はあなたのことを疑っていないの」
「あの子は人がいいから疑っていませんね。あの子をここに来ざるを得なくしたのは、本当は私なのに」
私は微笑みながら言った。
メアリ伯母さんも笑い返して言った。
「余り情を移さないようにね」
「分かっています。所詮、人質なのですから。ま、人質が義妹になっても構いませんが」
私は笑いながら言った。
メアリ伯母さんも笑った。
幕間の終わりです。
次から第3部に入ります。




