とっておきの場所
バイクの方へ戻ると、イースはリラックスした様子で座席に座っていた。
「おかえり~、浮かない顔してるけど、大丈夫?」
能天気な言い方でそう言われ、セナは大きく溜息をつく。
「何よ」
じっと顔を見つめてくるイースを睨みつけながら言う。
「とびきり元気が出る所、連れていってあげよっか?」
楽しそうに笑みを浮かべるイースに、セナはどう言葉を返したらよいか迷う。
「行きたくないならいいけど」
「・・・行く」
そう言うと、セナの予想通り、イースはぱっと明るい表情になる。
「じゃあ後ろに座って、それから、いいよって言うまでずっと目をつむってて、一回でも目を開いたら、その場所には辿り着かないから」
二人乗せたバイクは交通量の少なくなった夜の道を走る。
「ねえ、いつまでこうしてたらいいの?」
「まだまだ、絶対開けちゃ駄目だよー」
やがてバイクは停車した。
それでも目を開けてはいけないとイースは言う。
セナは目をつむったまま、手を引かれて歩く。
途中、古びた金属がきしむような音がした。
それに、フワリと浮くような浮遊感が加わる。
しばらくすると、突然強風を全身に感じた。
「開けていいよ」
そう言われ、セナは恐る恐る目を開く。
「きゃーーっ!!」
それは感嘆の悲鳴というよりは、恐怖の悲鳴に近かった。
足場は直径3メートルほどしかなく、遥か下には海が広がっている。
遠く足元に、光の帯のような物があり、そこに動く光が行き交っている。
「橋を支えてる塔の上!?」
「大正解!」
セナは恐る恐る視線を上げた。
夜の黒々しい空がすぐ側に迫ってるように感じる。
そして、橋の両岸には、宝石箱をひっくり返したような凄まじい輝きを放つ、東京の街が広がっている。
「きれい・・・」
その言葉が口をついた。
イースはそれを聞いて、満足そうだ。
狭い場所だったので、二人は背中合わせに座る。
「ピクニックしようと思って」
そう言って、イースはバックから食べ物やペットボトルの飲み物を取り出す。
セナは大変空腹だったので、遠慮なくそれに手をつける。
長い時間、二人は無言だった。
ただ、夜風に吹かれ、美しい夜景を眺めていた。
「セナの事、もっと知りたい」
出し抜けにイースが口を開く。
「言っちゃいけない事なのは分かってる、だけどセナの口から聞きたいよ」
セナは表情変えずに遠くを見つめている。
「いいよ」
イースは驚いて後ろのセナを振り返る。
「だけど、絶対に秘密にしてね」
そう言うと、セナは静かに自分の過去について話し始めた。