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アウトサイダー  作者: 君島極
第二章:噛み合わない世界 | 第二節:測られる側
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第1話:夏休みの約束

――夏休み最初の土曜日/龍胆家・道場


夏休みに入ったばかりの朝。


窓の外では蝉の声が絶え間なく続き、開け放たれた道場へ熱を含んだ風が流れ込んでいた。


汗で湿った道着が肌へ張りつく。


床へ落ちた雫だけが、ゆっくり乾いていく。


夏休みへ入る直前まで、三人の日々はほとんど訓練で埋まっていた。


放課後になれば学校へ残り、魔法やユニオン・アーツの自主練。


土日は家で、ひたすらユニオン・ブレードの型を反復する。


彰も毎日、木刀を振り続けていた。


魔法も、少しずつ形にはなっている。


風属性の魔法も一つだけ、まだ制御は甘いが発動までは届き始めていた。


けれど――剣だけは違う。


踏み込みや重心、流れ。


今井先生に直された箇所は、もう何度も反復した。


それなのに、身体へ落ちきらない。


「……っ」


木刀を振り抜く。


踏み込みに合わせたはずなのに、剣筋がわずかに流れた。


半拍ぶん、身体が噛み合わない。


(くそ……)


汗が頬を伝う。


床へ落ちた雫が、小さく散った。


止めた瞬間、置いていかれる気がする。


だから彰は、また木刀を構え直した。


そのとき――


ピコン。


訓練場の隅へ置いていた端末が震える。


彰は呼吸を整えながら画面へ目を向けた。


【凱】:<おーい! アキ訓練やってっか?>


【凱】:<遊び行こうぜ! 夏休みだぜ?>


彰の口元が、わずかに緩む。


すぐ次の通知が届いた。


【陽菜】:<私も行きたい!>


【陽菜】:<どこいこうか?>


木刀を壁へ立てかけ、タオルへ手を伸ばす。


額の汗を手の甲で拭い、彰は道場の隅へ歩いた。


ルーンが淡く光る壺から、冷えた水を一本取り出す。


指先へ張りつく冷たさに、小さく息を吐いた。


冷えた水が喉を落ちていく。


その間にも――


ピコン。

ピコン。

ピコン。


通知が止まらない。


【凱】:<遊び行こうぜ! 夏休みだぜ?>


【凱】:<遊び行こうぜ! 夏休みだぜ?>


【凱】:<遊び行こうぜ! 夏休みだぜ?>


【凱】:<遊び行こうぜ! 夏休みだぜ?>


彰が吹き出しかけた、その直後。


【凱】:<聖女もブチ切れてるぜ無視してっから>


【凱】:<鞭も準備してるって>


「は?」


思わず端末を見直す。


数秒後――画像が送られてきた。


入学初日に撮った集合写真。


その中の陽菜だけが不自然に切り抜かれ、なぜか手へ鞭が合成されている。


しかも妙に雑だった。


【陽菜】:<ちょっと! なにこれ!? ひどい!>


【凱】:<ヤバイ! やられる!?>


【凱】:<ぐあああああああああ>


彰はとうとう噴き出した。


どう見ても自作自演だった。


肩を震わせながら、ようやく端末を打つ。


【彰】:<何やってんだお前wwwwwww>


すぐ返信が返ってくる。


【凱】:<お! やっとか? 既読無視はバレてるぞ!>


【彰】:<わりぃ。汗ふいてた>


【陽菜】:<相変わらずだね。でも無理しないでね>


口元へ浮いた笑みが、そのまま消えなかった。


【凱】:<んで、どこ行く?>


彰は少しだけ考え、それから打ち込んだ。


【彰】:<そうだな。陽菜はどうしたい?>


数秒後。


【陽菜】:<マナ・メビウス・ドーム!>


【陽菜】:<どうだろう?>


【凱】:<おお! いってみてぇ!>


彰は端末を見つめたまま、小さく息を吐く。


凱は剣も強い。


陽菜は魔法をどんどん使いこなし始めている。


木刀の柄へ視線が落ちる。


踏み込みと一緒に振っているはずなのに、どこか剣筋だけが遅れる。


まだ、うまく噛み合わない。


けれど――


端末の向こうでは、二人が待っていた。


自然と、口元が緩む。


【彰】:<いいね。俺も行ってみたいわ>


【陽菜】:<じゃ、決定!>


【凱】:<来週でいいよな? 月曜>


【陽菜】:<月曜日大丈夫>


【彰】:<おっけー!>


通知音が止まり、道場へまた静けさが戻った。


彰はそのまま、メビウス・ドームの情報ページを開く。


巨大な魔法迷宮や魔法アトラクション、光のショー。


気づけば、スクロールする指が少しだけ速くなっていた。


(三人で遊ぶの、久しぶりだな)


そういえば、最近は訓練ばかりだった。


道場と学校の訓練場を往復する毎日が続いている。


生活の中心は、いつの間にか訓練になっていた。


けれど今は、その先に楽しみがある。


だから――


彰はもう一度、木刀を握り直した。


「……よし」


足を開き、重心を落とす。


呼吸を整え、そのまま踏み込みと一緒に剣を振り抜いた。


二人に置いていかれるわけにはいかない。


その日、彰はいつもより遅くまで道場へ残り続けていた。

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