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アウトサイダー  作者: 君島極
第二章:噛み合わない世界 | 第一節:違和感のある教室
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第6話:揺れる掌、試される光

――休憩後/インサイダー養成学校・中等部・魔法実習室


キーンコーン――


開始のチャイムが教室へ響く。


生徒たちが慌てて席へ戻り、重森先生が再び教壇の前へ立った。


「――それでは始める」


その声だけで、少し緩んでいた教室の空気がまた静まっていく。


「いきなり実習!?」


「なんか手ぇ震えてきた……」


小さな笑いと緊張が入り混じる中、水筒のふたがカチリと鳴り、前の席では小袋の包み紙がかすかに擦れた。


休憩の余韻はまだ残っている。


けれど、生徒たちの意識は少しずつ“授業”へ戻り始めていた。


「アキ、緊張してる?」


陽菜がそっと覗き込む。


彰は首すじのこわばりをほぐしながら、小さく頷いた。


「ちょっとな。でも、やる」


「俺は派手に決める。見とけ」


凱が拳をコツンと当ててくる。


骨の感触が指先へ残り、その熱が身体の芯へじわりと落ちていった。


彰はその感覚を逃がさないように拳を握り込み、ゆっくり息を吐く。


(ここからだ。やってやる)


その時――


パン、と重森先生が手をひとつ打った。


それだけで教室の空気が締まり、後方では台車がぎし、と低く揺れる。


載せられた兵装同士が触れ合い、高い金属音が小さく重なった。


「――では短く“実習”を挟む。《マナ・リリース》だ」


前列の生徒たちが、思わず身を乗り出す。


天井ルーンが淡く脈を打ち、その光が机の縁をゆっくりなぞっていく。


空気まで薄く震えた気がして、彰は無意識に息を止めた。


並べられていたのは六菱製の模擬装備だった。


柄へ触れた瞬間、内部からかすかな脈動が返ってくる。


普通の金属とは違う。


淡い光と金属の冷気が春の陽射しへ重なり、教室の空気そのものが、少しだけ重みを帯びたように感じられた。


「これ……普通の剣じゃないのか?」


誰かのつぶやきに、何人かがさらに前へ身を乗り出す。


重森先生は短く首を振った。


「仕組みが組み込まれている兵装だけが反応する。普通の剣では何も起こらん。扱いを間違えるな」


そう言いながら、重森先生は教室後方の実習スペースへ歩いていく。


半透明の標的が並ぶ前で立ち止まり、模擬剣を軽く持ち上げた。


「魔導具と同じく魔力を流し込めば動く。だが、必要な魔力量と放出のタイミングが違う」


ざわついていた教室が、少しずつ静まり返っていく。


「一定量の魔力を、正しい瞬間へ合わせて放出して初めて発動する。どちらかがズレれば立ち上がらん」


重森先生は、半透明の標的へゆっくり剣先を向けた。


「――砕け」


次の瞬間――


ドンッ!!


刀身から放たれた魔力の塊が一直線に飛び、標的へ激突する。


衝撃が防壁へ響き、床板が低く震えた。


金属の焦げた匂いがふわりと立ち、足裏へじんと波紋が広がる。


彰は反射的に背筋を伸ばした。


「うわっ!」


前列の生徒が思わず一歩引き、椅子の背を握る指へ力が入る。


「見たな。威力は装備の設計で固定されている。魔力量を増やしても変わらん」


「じゃあ……どうすれば強く?」


後方から手が上がる。


肘が机へ軽く当たり、慌てて離れる音が混じった。


重森先生は教室を一巡り見渡し、短く告げる。


「大事なのは“タイミングと扱い”だ。重心、振り抜き、接地。武器を使いこなせ」


重森先生はそこで一度、教室全体を見渡した。


「――まずは基礎だ」


模擬剣と盾を軽く示す。


「剣は攻撃。盾は防御だ。好きな方を選んで試せ」


その言葉に、教室の空気がざわりと揺れた。


「盾はその場で構えていい。剣を選ぶ者は、後方の標的へ向かえ」


重森先生は実習スペースを指差す。


「順番に行え。焦るな。感覚を掴め」


その声を合図に、生徒たちが一斉に動き始めた。


模擬剣を握って標的へ向かう者もいれば、その場で盾を抱え呼吸を整える者もいる。


張り詰めた空気の中、掌を制服へ擦る音や肩を回す小さな動きがあちこちで重なっていく。


「よし……いけっ!」

「くそ、光らない……!」

「おいおい、腕ブン回しすぎだって!」


茶化す声に、周囲がくすっと揺れた。


「う、うるさいな……わかってるよ……!」


返した声の端が荒くなり、空気がわずかに熱を帯びる。


成功した歓声と、うまくいかなかった吐息が交互に飛び交った。


模擬剣が空を切る乾いた音に、噛み殺した舌打ちまで混ざり始める。


肩を落としたまま標的を睨む者もいれば、その場で何度も握り直す者もいる。


焦りで浅くなった呼吸が、熱気の残る教室へ少しずつ重なっていった。


「魔力込めたのに! なんでだよ!」


苛立った声と、机を叩く音が続く。


その直後、どこかで低い舌打ちが跳ねた。


椅子の脚が床を擦る音まで妙に近く響く。


重森先生は模擬剣の柄を、指先で軽く叩いた。


カン、と乾いた音が教室へ残り、わずかに遅れて耳の奥へ引っかかった。


「これは自分の中の魔力を“意図して放出”しなければ――立ち上がらん。振り出しで溜めろ、当たる瞬間に合わせて解放し、抜きで崩すな。三つをずらすな。形が揃えば力は立ち上がる」


その中で――


凱が模擬剣を握る。


足幅を決め、踵で床を感じ、腰を切る。


一歩、豪快に踏み込み――


「砕けぇッ!」


――ドンッ!


規格通りの衝撃波が一直線に走る。


空気が裂け、的が鈍い音でぐわんと揺れた。


風圧で紙が舞い、歓声が一瞬かき消える。


「おおっ!」


椅子がきしみ、息を吸う音が重なった。


凱は鼻を鳴らし、大剣を肩へ担ぎ直す。


「ふっ……まあ、こんなもんだろ」


模擬剣の腹で肩を軽く叩き、口の端を吊り上げた。


その横で、陽菜はそっと盾を抱える。


まぶたを閉じ、呼吸を整えながら指を組む。


(……守る)


吐いた息に合わせるみたいに、淡い光膜がふわりと広がった。


やさしい光が周囲を包み、肩口へ触れたぬくもりが心の内側までほどけていく。


「きれい……!」


思わず漏れた声に、陽菜は目を見開いた。


光膜が静かに消えると、みぞおちの奥で圧がひとつ跳ねる。


その感覚がくすぐったくて、思わず小さく笑みがこぼれた。


彰は――模擬剣を選ぶ。


握った瞬間、手の中へ不思議なくらい自然に馴染む感覚が走った。


(……これだ)


口元が少しだけ緩む。


模擬剣を握り直し、軽く息を吐いた。


呼吸と足裏の位置を整える。


視線を前へ向けると、不思議と身体の動きは迷わなかった。


「いける?」


陽菜がまなざしを向ける。


彰は小さくうなずいた。


「うん」


踏み込みと同時に、刀身へスッと光が走る。


鋭い音が一気に空気を裂き、的が鈍く揺れた。


風圧が前髪を揺らし、鈍く震えた標的を見て彰は思わず目を見開く。


「……っ!」


手のひらへ、確かな反発が残っている。


模擬剣を握ったまま、彰は小さく息を吐いた。


(……できた)


胸の奥へ、じわっと熱が広がっていく。


その直後、凱が笑いながら拳で軽く小突いてきた。


「よし、三人ともできたな!」


陽菜もぱっとこちらを向き、目尻を柔らかく下げた。


「よかったね、アキ!」


言ったあと、陽菜はふいに目をそらす。


それでもすぐ、ためらうみたいに顔を上げ直し、口元だけを小さく緩めた。


その照れた笑顔を見て、彰までつられるように笑ってしまう。


(……俺も、ちゃんとやれる)


重森先生が全体を見渡し、静かに口を開いた。


「見ての通り――成功したのは半分ほどだ」


「……やっぱ難しいんだな」


「私も失敗したし……」


落ち込む声に、椅子の脚がきしりと鳴る。


重森先生は教室を一度だけ見渡した。


「誰もが最初は苦労する基礎技術だ。今できなくても問題ない。手順を体に落とし込め」


机の縁を握っていた指がゆっくり離れ、誰かが深く椅子へ座り直す。


木が低く軋み、張っていた空気がわずかにほどけた。


「だが《マナ・リリース》を自在に扱えるかどうかが、インサイダーとしての最初の分かれ道になる。


魔力操作と武器技術――その両方を磨いて、初めて一人前の戦いができる」


模擬剣の先が床へ軽く触れ、澄んだ金属音だけが静まりかけた教室へ細く残った。


「……今日はここまでだ」


重森先生は一度教室を見渡し、続ける。


「次の授業では、《エレメンタル・チェッカー》を行う。各自の魔法属性適性を確認する検査だ」


「マジか、楽しみだ!」


「えっ、もうやるの!?」


「俺、適性なかったらどうしよう……」


金属同士が触れ合う音や、椅子を引く音が教室へ重なった。


重森先生は教壇脇の台車を軽く示した。


「装備は元へ戻しておけ。扱いは丁寧にな」


生徒たちが立ち上がり、模擬剣や盾を順番に台車へ戻していく。


台車へ収まる金属音が静かに重なり、教室も少しずつ“授業終わり”の落ち着きへ変わっていく。


彰も模擬剣を持ち上げ、柄の縁を指でなぞった。


感触を確かめるように一度だけ握り直した瞬間、脳裏へ光を纏った御剣の太刀筋が走る。


遅れて、焔の背中が重なった。


自然と視線が前へ向く。


手のひらには、まだ微かに熱が残っていた。


(――御剣さん、見ていてくれ)


胸の奥で静かに言葉を噛み締めながら、彰は模擬剣をそっと台車へ戻す。


(……俺は、どんな属性なんだろう)


小さく息を吐いた、その時。


短いチャイムが教室へ響いた。


実習用の装備が運び出されると、さっきまでの熱気も落ち着いていく。


椅子を引き直す音があちこちで重なり、生徒たちも次の授業へ意識を向け始めた。


彰は空になった手を一度だけ握り、そのまま教室を出た。


廊下は少しひんやりとしていて、身体へ残っていた熱もゆっくり引いていく。


階段を上がり、いつもの教室へ戻るころには、呼吸もすっかり整っていた。


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