最終章-10「解放される力」
「Odd I's」
最終章「オッドアイの英雄」
第46話「解放される力」
女性の口から語られた真実。
九頭堀「兄ちゃんが…おれを……??」
??「…そう……貴方のお兄さんが選んだのよ………」
九頭堀「…………………」
無言が続く。
??「…私には貴方と同じ力があった……あの時すぐにその力を使えばあんなことにはならなかった………どれだけ後悔しても悔やみきれない……あの時からずっと……貴方に謝りたかった……でも……謝る資格すら無いと思って……………」
九頭堀「………………」
女性は泣きそうな声で言う。
声だけで哀しみが伝わってくる。
九頭堀「……おれは別にあんたを恨んじゃいない…。あんたも子どもを失ったんだろ?どんな事情があったか知らないが、真実を知ってもあんたを恨むつもりはない。」
??「……………」
九頭堀「………………どうしておれを選んだんだ………」
??「え…?」
ショックを受け、様々な疑問が頭の中で駆け巡る。だが、その中でも一番気になったのはそこだった。思わず口からポロリとこぼしてしまうほどに…
九頭堀「!……いや……兄はどうして…おれを………そう思ってな…………」
どうして自分が助かる可能性を捨ててまでぼくを生かしたんだ……?
どうして………どうして…………
いくら問いかけても答えが返ってくるはずなどない。
死人の心を確かめる術などない。
……恨んで…いたのか……ぼくに復讐をしたくて……苦しませるためにぼくを…………
*
陽介「おい!みつき!外みてみろよ!」
みつき「え?なに?お兄ちゃん」
陽介「いいからいいから!」
夜空を見上げるとそこには眩く光る虹色の流れ星が輝いていた。
みつき「わぁ…!!」
陽介「な!すげーだろ!?」
みつき「うん!!すごい!!」
その日からその『虹色の流れ星』は七日七晩降り続き、二人は毎晩それを眠くなるまで見続けた。
あんな出来事は一生の内に一度しか体験できないだろう…。皆既日食なんかよりもずっと珍しいものを見た。だから印象に残っているのかもしれない…
考えてみたら一番古い記憶だ。
でも、あの時の会話はそれだけが理由で心に残っているんじゃない。
みつき「だんだん少なくなってきたね……」
陽介「そうだな…もう今日が最後かもな……」
みつき「そっか…残念だね……」
陽介「そうか?」
みつき「え?なんで?」
陽介「だって毎日こんなんだったら飽きるだろ?」
みつき「そうかなぁ?」
陽介「そうだよ。こういうのはたまに起こるからいいんだよ。」
みつき「う~ん……」
陽介「…この流れ星も綺麗だけど月はもっと綺麗だろ?」
陽介が満月に指をさす。
陽介「毎日こんなに明るかったら月がかすんじゃうよ。」
みつき「え~いいじゃん…」
陽介「よくねーよ。明るい時間が来たら、次は暗い時間が必要なんだよ。太陽が沈んだら月が出てくる…その繰り返しがあるからいいんだよ。」
みつき「ふ~ん…よく分かんないや…」
陽介「ははっ、わかんねーか!」
みつき「うん、わかんない!」
二人でニコッと笑い合う。
陽介「……おれとお前も同じだと思わねーか?」
みつき「…?」
陽介「おれが沈んだらお前が輝く。お前が沈んだら今度は兄ちゃんが輝く番だ…!」
みつき「…うん」
陽介「そうやって繰り返して支え合っていけたら…最強だと思わねーか!?」
兄の言っていたことは正直、あの時はよく分からなかったが…
それでも兄との間にかけがえのない絆を感じたのは確かだった。
みつき「うん!サイキョーになろう!」
陽介「…! おう!」
*
兄はいつだってぼくのことを考えていた…
そんな兄がぼくを恨むだろうか…
苦しめたいと願うだろうか……
そんなこと…考えないだろうな…
どこまでもお節介な兄だ…
??「…弟想いのお兄さんだったのね…」
みつき「っ…!」
??「しっかり者で、とても優しそうな子だったわ……きっと…最後の最期まで貴方のことを想っていたはずよ………」
みつき「…………だろうな……自分が助かるくらいなら弟のおれを選ぶ……そんな人だった……」
少し呆れながらも納得する。
??「……私も本当はあの時すぐに力を使いたかった……でも隠していたの……世間では癒丹銀河っていう人だけが超能力を持っていて、その時一緒に居たヒーローは紫雲社が開発した特殊なヒーローギア(ヒーローが使う変身装置や武器などのこと)を使っていただけってことになってたの。」
みつき「………」
??「…力を持っていたから銀河さんは暗殺された…事故に見せかけられてね。…現状を見れば分かると思うけど、あれほどの力を持っていると色んな勢力から狙われることになる。力の存在が知れれば世界の平穏を脅かすことになってしまう……だから、私たち他のバラレンジャーは力を隠して生きていたの……あの時も、沢山の人目がある中で力を使うことはできなかった………本当に…ごめんなさい………」
女性は頭を下げて謝る。
みつき「……もういいですって…さっきも言った通り、おれはあんたを責めるつもりはない……これは恐らく兄も同じだ……あの人なら絶対にあんたを責めたりしない…。」
??「…………」
みつき「それに…この力があって良かったこともある……こんな出来損ないのおれでも運動が出来るようになった…。どんなやつにだって勝てて………」
そういえば運動が出来るようになったからなんだってんだ?
あの時は死んだ兄になり代わるために運動能力を見せつけて……
クラスメイトや親に見せていた記憶が蘇る。
みつき「………………」
??「……?」
みつき「…この力を手にして良かったこと……それは簡単に女が抱けるようになったこと……それだけだ……」
少し考える度に言葉につまる。
これまで自分のことについて考える機会がどれほど少なかったのかを思い知らされる。
(もう考える必要などないんだ……考えたってくだらないし、この体たらく……終わりにすると決めたんだ………もう…これで………)
みつき「そういえば…お前は何をしにここに来たんだ?」
再び銃を構えるみつき。
??「!…私は貴方を呼びに来たの…。さっき数十秒だけテレビで流れたんだけど[橙坂瑚透美]っていう、バラレンジャーの指揮官をやっていた人が能力者全員に呼びかけているわ。全員、AI島に集結するように!って。」
みつき「…そうか…だが、どうでもいいな。おれはあそこにいる奴ら全員に弾丸を撃ちこむ。おれのやりたいことはそれだけだ」
??「待って!もう、そんなことしなくていいのよ。AI島に行けば他の能力者もいるからもう戦わなくて済むし…そもそもこの戦争を止めるために…」
パァン!!
女性の頬をかすめるように弾丸を発射する。
みつき「言っただろう…どうでもいいって…やりたきゃ勝手にやってくれ。おれはここで好きなだけ暴れる。この無意味な人生を終わらせるためにここまで生きてきた。あんたから貰ったこの力…存分に活用させてもらうぜ……」
??「………言っても聞かないみたいね……」
シュゥウン……
オーラに包まれて変身した女性。黄色のユニフォームを身に纏う。
二人の間に緊張が走る。
みつき「……!?」
攻撃を仕掛けようとした一瞬。体に力が入らないことに気づく。いやこれは…
みつき(筋肉が動かない…!?…っ!こいつ……!!)
ガッ!!
魔眼を発動し、動きを止めようとするみつき。しかし…
何事もなかったかのようにスリングショットを構え、軍隊に向けて放った。
バシュッ!!! ガガガガガガ!!!!
4発の弾を同時に発射し、それぞれが跳弾を繰り返して兵器だけを破壊し尽した。
その破壊の規模はみつきの比ではない。一瞬にして兵器だけを撃ち抜く精密性、威力、その全てがみつきの上を行っていた。
眼の周りに筋が浮くほど、能力を込めているのにまるで効いていないかのように、戻って来た弾をポーチにしまっている。
こちらの魔眼に対して向こうからの制圧は凄まじく強い。みつきは手からリボルバーを落とさないようにするのが精いっぱいであった。
みつき(全く抵抗ができない…!!能力者としての格の違いか…?これが…!?)
??「…………その武器と力…それがもたらす邪悪について、貴方には何も説明が出来なかった……何も言えず…顔を合わせることも出来ずにとうとうこの日を迎えてしまった……。」
女性は顔を伏せながら語る。
??「……お兄さんにもそうだけれど…貴方にもひどいことをしてしまったわ………本当にごめんなさい……それも全部…私が弱かったから………」
みつき(……!……弱い……??)
??「でも……受け入れて進む………それが私の『答え』………」
フッ…
みつきの体が自由を取り戻す。
みつき(…っ!)
??「貴方は私を撃つ資格がある……そして私は貴方に取り付いた邪悪を祓う役目がある。…私の答えのために…『ヒーロー』として……!」
みつき(何が「弱い」だ……本当に弱い者の気持ちが分かるものかよ…こんな化け物に…!何がヒーローとしてだ…いきなり現れて好き勝手言いやがって…もうどうでもいいんだよ…!終わりにしたいんだよ…!!こんな時間…こんな人生……!全部全部!!)
バッ! 銃を構え、撃つ!
サッ! 女は避ける。
みつき(跳弾はさせないつもりか…!)
能力の上書きで跳弾はさせてもらえない。
みつきは左手で後ろホルスターに入っているオートマチック拳銃を取り出し、撃つ!
右手のリボルバーでもう一発撃ち、その衝撃で回転しながら指から外れて行く…
空いた右手でもう一つのオートマチック拳銃を取り出し、いつもの二丁スタイルに移行する。
その間に、回転したリボルバーが胸のホルスターへと入っていく。
女は弾丸を避けながら接近してくる。
銃の間合いに入り、格闘で仕掛けてくる女。
銃口が向かないように手ではじかれる二丁拳銃。だが、みつきははじかれて銃口が下に向いた流れを利用してナイフを銃の先に取り付けた。
実は、みつきが履くブーツは横に開き、ナイフが収納されている。それを素早く装着して、銃を近接武器に変えたのだ。
ガッ!ガッ!ガ!パァン!!
隙を見て銃弾も発射するが当然のようにいなされてしまう。
グッ!!
蹴りを入れ、距離を取ろうと試みるが躱され、脇の下からリボルバーを盗られる。
パン!パン!
みつき「っ!!」
ゴトッ!ゴッ!カラカラ……
二丁拳銃を弾き飛ばされる。
みつき(クソッ…!さっき体力を消耗していたとはいえまるで歯が立たない……能力を制限してくるせいで動きも鈍すぎる…!)
??「もう終わり…?」
ゴトン…!
リボルバーを投げ返される。
みつき「…なめやがって…!!」
バッ! ダァン!!
??「!」
パ!パァン!
みつきの白眼がオーラを放ち、魔力の込められた弾丸が発射された。
女はそれを手で弾く。しかし、後方で一度跳弾し角度を変えて飛んで行った。
みつき「おれの力はこんなもんじゃない!!」
ズォオオオッ!!!
右手、右眼でリボルバーを構えるみつき。その背後から9匹の蛇の頭が伸びる。
左右上下をあっという間に蛇に囲まれ、逃げ道を失った所に弾丸が真っ直ぐ飛んでくる。
グッ!タァン!!
スリングショットで弾丸を相殺する。
蛇の背を跳び、後退する女。
みつき「ふっ…これがぼくの力だ…!ははっ…!ぼくだけの力だぁ!!」
(もう頼らなくたっていい……ぼくはもう、自分の力だけで………!)
ヒュドラ―の口からスナイパーライフルを取り出し、今度は右眼を使って狙撃する。
白眼から溢れ出るオーラが銃と弾丸を強化する
ドッッッ!!!!!
亜光速で放たれる弾丸。
なんとか避けるが、すぐに跳弾し、同じ速度で跳ね返ってくる。
??「ふっ!」
クルン! ドン!!
体をねじり、避けた弾丸を後ろから撃ち落とす。
みつき「はっ!ならこれはどうだぁ!?」
ドッッ!!!!ドンッッ!!!!!
さらに二発、発射する。
シュゥウウウ……!
女がオーラに包まれ、力を解放する。
跳弾しながら何度も飛んでくる弾丸をさばき、撃ち落とす。
だが、その隙に9匹の蛇が取り囲み、口からガトリングを一斉掃射する!
ババババババババババババババ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
全ての弾丸が跳弾を繰り返し、逃げ場を無くしながら確実に仕留めにくる。
一瞬にして直線状の光が辺りを埋め尽くす
ガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!!!!!!!!
跳弾した弾丸全ての角度を再調整し、弾丸と弾丸をぶつけ合わせる。
そして、一瞬だけ開けた場所から飛び出て弓矢を構える。
ドン!ドン!ドン!ドン!
空中から9体の蛇を射抜く。
??「…?」
みつき「くたばれぇ!!」
バァンッツ!!!
背後から至近距離でショットガンを撃たれる。
手で弾き、直撃を避けるが散弾が真横で跳弾し、向かってくる。
が、それも再跳弾させて身体のギリギリを通過させる。
チャキ…!
上下二連散弾銃のため、もう一発を即座に発射できる。
狙いを再び定めるが…
ガブ!!
女の守護獣がそれを阻止する。
みつき「くっ…!!」
スー―ッ……(落ちていく女)
みつき「ヒュドラアアアアアッ!!!!!!!」
ズルルルルル!!!! シュー――――ッ!!!!!!!!!
9つの首が全て再生し、再びみつきのもとへと集まる。
みつきの白眼が強い輝きを放ち白いオーラが両目に宿る!
魔力が高まっていく…!
みつき「これで終わりだ!!落ちろおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」
10の銃口から一斉に弾丸が放たれる…!!
*
次回、ついに九頭堀の闘いが決着する。
ずっと己を偽り続けてきた彼にはどんな想いがあるのか、
彼にはどんな形があるのか
彼自身の瞳とは…
次回『白銀のオッドアイ』