XX年後…
ロス家の屋敷では、朝一番から男女の怒声が響き渡る。
「あんたが遅くまで起きてたせいで眠れなかったじゃない!」
「いびきかいて寝てたお前が言うな!」
「でたらめ言わないでよ!第一、聞こえるわけないでしょう!?」
「僕だって隣にまで聞こえる物音を夜中に立てたりしない!」
十代半ばの少年少女は互いによく似た顔立ちをしていた。黒曜石のような髪と、パライバトルマリンを思わせる碧眼の持ち主達は、出歩けば父親に似ていると絶賛される。溜息が漏れるほどの美男美女と名高いのだが、如何せん地声が大きい。
しかしこの屋敷には、彼らの上をいく声量の使い手がいるのだ。
「寝間着姿で何をやっているのよ!!」
「お母様!?」
「母上!?」
燃えるような緋色を逆立てるのは、言わずもがな双子の母親である。
「クローディア!女性たるもの、乱れた服装で殿方の前に出てはいけないわ。たとえ屋敷の中でも、身なりはきちんと整えなさい」
「はい…お母様…」
「ギルベルト!夜更かしは感心しないわね。体に悪いから、今後は控えるように」
「はい…母上…」
「それから、むぐっ!?」
まだ続きそうに思われた母の苦言は、後ろから伸びてきた無骨な手によって遮られた。彼女の口元をがっちり覆っていたのは、寝室を共にしている夫、もとい双子の父親だ。
「おはようございます!お父様」
「おはようございます!父上」
「ああ、おはよう。二人とも喧嘩は構わないが、もっと声量を落とせ。誰かさんみたいに噂されても知らないぞ」
意地悪く口角を上げた父は、そのまま寝室に引っ込んでしまった。中から母の抗議の声が聞こえる。声が大きいので全部筒抜けだ。扉を閉めた意味がない。
───いつの話を持ち出してるのよ!
───今でも話題に上がるが?屋敷の外までお前の声が届くってな。
───なんですって!?
───騒いでないで、こっちに来い。まだ支度が終わってないだろう。
───おっ、終わってるも同然よ!
さっき出てきた母は、双子と違ってすでに着替え終わっていたように思うが…クローディアとギルベルトは揃って小首を傾げるのだった。
二人は母の首元が涼しげだった事に気付いていなかった。
注意された通り身なりを整えた双子は、一番乗りで朝食の席に着いていた。お揃いの黒髪を揺らしながら、両親について語り合う。ちょっとした所作までタイミングが揃うあたり、腐っても双子ということだ。
「父上って、僕とクローディアには『静かにしろ』って言うくせに、母上には言わないよな。騒がしいって揶揄うだけで」
「何でもいいからお母様と喋っていたいんじゃない?」
「うへぇ…」
ロス家の伯爵夫人は、母として子に厳しい…というかすぐ怒る。家族の中で誰よりも大きな声で怒鳴られるのは、鼓膜どころか腹にも響く。だがしかし、勉強で理解できない分野があっても、ダンスの練習ですっ転んでも、彼らは叱られた試しはない。母が厳しいのは、人としての行いに関してだけだった。試験で良い点がとれず先生に渋い顔をされても、母は落ち込まなくていいと慰めてくれた。ワルツのターンで思い切り失敗しても、母はあなたならできるようになると励ましてくれた。仏頂面だけど優しい温もりで包んでくれる、そういう人なのだ。故に、子供達は心から母を慕っていた。とはいえ、最も母にべったりなのは子供達ではない。ギルベルトが舌を出した理由はそこにある。
「そんな顔をするのはやめなさいよ。お父様だって、お母様には勝てないんだから」
「我が家で母上に敵う人はいないだろ。母上を泣かせたら悪魔が召喚されるんだぞ」
「あれは今でも体が震えるわ…」
たとえ怒ってなくても怒っているように見える母と違い、父が子供を叱ることは殆どない。あるとしたら静かに諭す程度だ。そんな父だが昔に一度だけ、激昂して特大の雷を落とした事がある。
それは双子が今より幼い頃、ふざけあって遊んでいた時の話だ。外ではきっちり、内ではのびやかに、が両親の教育方針であったので、口喧嘩で咎められる事は少ない。そもそも叱る側の両親がほぼ毎日些細な事で口論しているので「喧嘩するな」とは言えないに違いなかった。兎に角、いけなかったのは双子が遊んでいた場所である。母の言いつけを忘れ、階段のすぐ近くで戯れていたのだ。案の定、バランスを崩した二人は二階から一階まで転がり落ちた。幸いにも頑丈さを受け継いでいた双子は軽傷で済んだ。ところが姉のクローディアだけは、階段の角で頭を打っており、軽い脳震盪を起こしてしまった。すぐに意識は戻ったものの、母にいたく心配をかけてしまったのだ。
『女に怪我を負わせるな!!護るのが男の責務だろう!!』
目覚めたクローディアが見たのは、弟の頬を打つ父の姿であった。父が子に手を上げたのは、後にも先にもこの時だけだった。
『次また、命懸けでお前達を産んでくれた人を、悲しませる真似なんかしてみろ。此処には二度と帰れないと思え!!』
背筋が凍るほど低い声で、容赦なく怒号をぶつけられた双子はわんわん泣いた。その日の恐怖は、何年経っても体に刻まれている。そして、いつもなら怒る役目を担う母が、小さなクローディアの体を抱きしめて肩口を濡らすだけだった事が、子供ながらに胸を抉られたのを覚えている。
そういう訳で、双子は絶対に両親には逆らえないのである。特に母の涙には致命的に弱い。容姿だけでなく中身も父親に似たようだ。
「それにしてもお父様達、遅いわね」
「睦み合ってたりして」
「馬鹿じゃないの。フィリーネを起こしに行ってるんでしょう」
フィリーネとは双子より六つ歳下の妹であり…
「おねえさま、おにいさま、おはようございます!」
「おはよう!フィリーネ!」
「今日もフィリーネは可愛いな!」
どちらが先に抱きしめるかで小競り合うほど溺愛しているのである。
産まれたばかりのフィリーネの瞳を見た瞬間に「マスカットみたい!」と双子は声を揃えてはしゃいだものだ。その時、もし彼らが背後を振り向いていれば噴き出す父と、ムッと唇を尖らせる母を見つけていただろう。
双子が父親似なら、妹は母親似だった。輪郭は丸くてまだ幼いが、顔つきはキリリとしていて、声も性格もまっすぐである。とりわけ母譲りの鮮やかな赤髪を、クローディアは羨ましく思っていた。
「おいで、フィリーネ」
「おい!昨日譲ったんだから、今日は僕に譲れよ!」
「ふん!今日も明日も姉の私に譲りなさい!」
「こんな時ばっかり姉の面をしやがって!」
「おねえさま、おにいさま、けんかしないでください…」
「!!してないわ!喧嘩なんて!ねぇ?ギルベルト!」
「そうそう!僕達はとっても仲良しだよ!」
たった一人の妹にかかれば、華麗な手のひら返しなど朝飯前だ。爽やかな笑顔を張り付けて肩を組む姉と兄を見て、フィリーネは天真爛漫に喜んでいた。大笑いすることのない母と違い、フィリーネは大輪の花が咲くようによく笑う。それがまた可愛くて可愛くて、双子のみならず父や屋敷中の人間までもめろめろなのだ。
さて父は今日、夕方まで商談があるという。そのため屋敷には母と子供達が残ることになる。家族に見送られる父は、心なしか行きたくさなそうにしていた。
玄関と扉が閉まれば早速、妹と一緒に遊ぼうとして我先に駆け出す双子であったが、母によって止められてしまう。フィリーネは午前に算術の勉強、午後に絵の勉強があるそうだ。
「算術なら、私だって教えられるのに…」
「先生がいらっしゃるから、あなた達はお呼びじゃないの!」
不服そうに渋る双子に対し、母は取り付く島もない。腰に手を当て、どう見ても不機嫌な顔つきをされては、押し黙ることしかできなかった。けれども、への字に曲がった唇から発せられる語調は、徐々に和らいだものへ変わっていく。
「下の子の面倒をみるのは立派な事よ。いつも助かっているわ。でもね、フィリーネはあなた達の行状からも学んでいくの。あなた達が己のやるべき事を放り出すなら、フィリーネもそれを真似するようになる。だから良いお手本になれるよう、頑張りなさい」
「はい!お母様!」
「はい!母上!」
「休憩時間になったら、四人でゆっくりお茶にしましょう」
四人でお茶をする、その希望を頼りに凄まじい集中力を発揮して机に齧り付く、双子の姿があったとかなかったとか。
待ちに待った休憩時間になると、双子は母が準備しているお茶の席へとすっ飛んで行った。妹のフィリーネはすでに着席しており、幸せそうにクッキーを食べている。誰がフィリーネの隣に座るかという論争は、決着のつかない不毛な泥試合になる事が明白だったため、母の横が固定となっているのは余談だ。
「二人ともお疲れ様」
「ごめんなさい。出来立てだったので、がまんできなくて、先に食べてしまいました…」
明るい表情から一転し、しょんぼりする妹に、双子は食い気味に励ますのだった。
「いいのよフィリーネ。微塵も気にすることないわ!」
「出来立てが一番美味しいんだから!」
「きちんとごめんなさいができて偉いわ!」
「もっとたくさん食べるといい!厨房から持ってこよう!」
上二人はそうでもないが、フィリーネは食いしん坊の血を引いていた。普段の食事も、大人顔負けの量を平らげる。可愛い妹が喜ぶならばとギルベルトがそう勧めた瞬間、母が「駄目よ」と鋭く釘を刺した。
「お茶菓子は決まった量だけ頂くのが、我が家のルールでしょう。今日は一人につきクッキーは二枚までよ。いまお腹いっぱい食べて、食事が入らなくなったら困るんだから、それ以上欲しがってはいけないわ」
「母上、菓子の一つくらい、大目に見ても良いのでは…」
「小さなルールを守れない人は、大きなルールも守れないの。わかったわね?」
きつく言われてしまったフィリーネは、眉を下げて唇をきゅっとする仕草をした。父や双子なら一発で撃沈する仕草も、唯一母には通用しない。このいじらしい顔を見て耐えられる母はすごいと、双子は毎度ながら感心する。しかし言い換えれば、母は三人の子供に分け隔てなく接しているという事だ。そして子供達に辛抱を教えるためなのか、自分だけ茶菓子を食べないでいる母親に、返せる言葉など無いと思われた。
「このお茶菓子は使用人の皆も食べるのよ。独り占めしたら行き渡らなくなるわ。自分の事だけじゃなくて、みんなの事も考えるようにしなさい」
「はい…おかあさま…」
母には逆らえない。言ってる内容も正論だから尚更。だが、しゅんとする妹をそのままにしておくこともできなくて、双子は同時に立ち上がるのだった。
「では母上!僕の分を譲渡するのは良いですよね?」
「そうですわお母様!私達がフィリーネのためにしてあげたいと思う事ですもの!」
必死の形相で食い下がる双子を見て、母は口元を緩めた。なにかと顰めっ面が多い彼女だが、家族が増えてからというもの、こうして慈愛の微笑をたたえる事も増えた。
「あなた達に配られた分をどうするかは、あなた達の自由よ」
「感謝します!さあフィリーネ、私のクッキーも食べていいわ!」
「むしろフィリーネに食べてほしいな!」
満面の笑みと共にクッキーを差し出されたフィリーネは、きょとんした後で破顔した。そう、我々はこの笑顔が見たかったと、双子の心の声がシンクロする。
「ありがとうございます!本当にいいのですか?このクッキー、すごくおいしいんですよ?」
「美味しいなら尚のこと、フィリーネに食べてもらいたいわ!」
「僕達のことを思い遣ってくれるなんて、フィリーネは優しいなぁ!」
「うれしいです!でも一枚は、おねえさまとおにいさまが食べてください!ひとりじめはしません!」
「なんて良い子なの!可愛い!」
「可愛すぎる!」
ふんすふんすと得意げに胸を張るフィリーネに、姉と兄は感激に打ち震えながらそれぞれ一枚ずつクッキーを渡した。顔全体を使って大喜びしている事を表し、両手で丁重に受け取ったフィリーネだったが、不意に「あっ!」と声を上げたのだった。
「フィリーネ?」
「どうしたんだい?」
「わたし、この間すごい発見をしたのです!おはなししてもいいですか?」
「もちろんよ!」
「ぜひ教えてくれないか!」
可愛い妹のお願いを断る理由など無い。いや、断れる奴がいたら出てこい。
身を乗り出す勢いの双子の目の前で、フィリーネは二枚のクッキーを四つに割った。その後、三つの欠片を母と姉と兄のソーサーに乗せていく。小さな手が一生懸命動く様子を見守っていた双子は、ぽかんと間抜け面を晒すのだった。
「こうすると、とびきりおいしくなるんです!!」
その笑顔の輝きといったら。双子は天を仰いだ。一番小さな欠片を自分の手の中に残したフィリーネが、眩しすぎて直視できない。「それは素晴らしい発見だったわね」と母に頭を撫でられれば、フィリーネの笑顔がいっそう光る。
「もはや国宝だわ…」
「ここが楽園か…」
クローディアはお祈りのポーズをとり、ギルベルトは目頭を押さえていた。様子がおかしい二人をよそに、赤髪の持ち主達はとびきり美味しいクッキーに舌鼓を打つのだった。
そうこうしているうちに日が暮れ始める。間もなく父が帰ってくるだろう。
夕食前にチェスをしていた四人の中で一人、しきりに窓の外を気にする人間がいた。それが誰かなんて皆まで言う必要もない。
「!席を外すわね。あなた達も片付けてから来るのよ」
お目当ての馬車を見つけたらしい。足早に出て行く後ろ姿を見送った子供達は「はい」と返事をしてからチェスを片付け始める。母のことが大好きなフィリーネは、それが少々不満なようだった。
「おとうさまは、いつもおかあさまをとってしまうから、ちょっとだけきらいです…」
幼な子らしい嫉妬に、苦笑いしか出てこない。一歩屋敷の外に出れば持て囃される完璧な父が、母のことになると途端に大人げなくなる。その姿を今日に至るまで子供達は嫌と言うほど見せつけられてきた。例えば父と子供達が母に抱っこをせがんだとして…父が抱っこされるのは変な話だが、一先ずそれは置いておき。そういう二者択一を迫られた場合、決まって母は子供達に「ちょっとだけ待ってね」と謝って父を優先するだから、子供心に面白くないのも頷ける。
「フィリーネ…それはお父様に言ってはいけないわよ?」
「少なくとも三日は寝込むからな」
「馬鹿ね。一週間は確実よ」
「馬鹿って言うな馬鹿。でもまあ…一理ある」
目の中に入れても痛くない愛娘に「嫌い」などとそっぽを向かれたら、父は卒倒するに違いなかった。子供達が慕う母を奪っておきながら、子供達には好かれたいなんて随分と虫の良い話である。そんな風だから愛娘がぷくっと頬を膨らませることになるのだ。
あの父親は時折、我が子よりも子供っぽい独占欲を仄めかせる。幼いフィリーネにはまだわからないだろうが、多感な年頃のクローディアとギルベルトは何度しょっぱい気持ちを味わう羽目になったか。夫婦仲が険悪でないのが救いと思って諦めるしかない。
「フィリーネはあの二人が社交界で何と言われているか知ってる?」
「"稀代のおしどり夫婦"だってさ」
母の「おかえりなさい」の大声が響いたのを合図に、子供達も部屋を出る。フィリーネを真ん中に三人で手を繋ぎ、父を出迎えに行くのだ。
真っ先に父を出迎える権利と、左手に嵌る指輪。この二つのみ、子供達がどれだけせがんでも、母は一瞬たりとも手離そうとしなかった。父も父だが、結局のところ母も大概なのである。
仲良く並んでやって来る子供達を眺めていたリーンハルトは、沁み入るように呟く。
「また一段とうるさい出迎えになったな」
「いずれはわたし達が見送る側になるのだから、今は素直に嬉しがったらどうなの?」
「やめろ。それはまだ言ってくれるな」
「あの子達が巣立っていくのは寂しいけれど…」
「俺の話は無視か」
「『二人でのんびりするのもいい』ってあなたが言ったの、わたしは忘れてないわ。そうしたいって気持ちもね」
「…ああ。そうだな。俺も同じだよ」
優しく肩を抱かれたオリヴィアは、誘われるまま彼の温もりに寄り掛かった。いつだったかに見せた、ちっちゃなはにかみを湛えながら。
【登場人物まとめExtra】
〜ロス伯爵家〜
◆クローディア
双子の姉。瞳の色以外は父親似の容姿である。社交界きっての美少女だが、本人は母や妹の髪色に憧れている。父の遺伝子が強いためか、無自覚にマザコン気味なところがあったりする。重度のシスコンなのは自覚済み。
フィリーネと比較されるのをもの凄く嫌がる。何故ならフィリーネは国宝と言っても過言ではないのに、その辺の石ころと比べられたらフィリーネの名誉が傷付くから。両親のことは尊敬しているが、比重は母に傾きがち。幼い頃はフィリーネと同じ理由で父に妬いていた。現在では密かに、自分も両親のような夫婦になれたらいいなと考えている。
双子の片割れとは、些細なことで衝突してばかり。口喧嘩は母か妹の一声で即止まる。しかし力を合わせれば、息ぴったりの連携を見せることも。さすがは双子。何だかんだで良き理解者。絶対に言うつもりはないが、ギルベルトの事を「私が知る人間の中で最も容姿が整っている男」と思っている。
地声が大きい。
◆ギルベルト
双子の弟。瞳の色以外は父親似の容姿で、社交界きっての美少年。己の容姿に関しては姉共々、父から「お前達の顔は武器になるが過信はするな。有効利用しろ」と諭されてきたので、それ以上の価値は感じていない。彼もまた重度のシスコンで、無自覚なマザコン。国宝を生み出した母は尊敬に値する。父のことも敬う気持ちはあるが、息子の前でイチャイチャするのはやめてほしい…。
姉とは顔を突き合わせるたびに喧嘩するような仲。しかし、父にこっ酷く叱られた過去の出来事が起因し、姉や妹に何かあれば身を呈してでも護る覚悟がある。女性全般にも優しい。なので昔の父並みにモテているが、妹大好きの本人に言わせれば至極どうでもいい。
実は、クローディアが頭にたんこぶを作った理由は、咄嗟に弟を庇っていたから。その事を覚えており、何だかんだで姉には頭が上がらないと感じている。絶対に言うつもりはないが、クローディアのことを「僕が知る人間の中で最も美人な女」と思っている。(※フィリーネは国宝なので比べること事体おかしい)
地声が大きい。
◆フィリーネ
双子より六つ年下の妹。瞳の色以外は母親似の容姿であるが、母と違ってよく笑う、家族大好きな女の子。捻くれたところもなく、純真なまますくすく育っている。彼女を溺愛する人間達から「可愛い」を連呼されているが、客観的に見れば美少女なのは姉の方。でも他所は他所、うちはうち。
母の宝石箱から溢れる装飾品が気になるお年頃。レッドスピネルの指輪以外は快く貸してもらえる。家族はみんな大好きだが、例に漏れずお母さんっ子なので、母を横から攫ってしまう時の父はちょっぴり嫌。それをうっかり言ってしまったら、父は十日間使い物にならなくなった。
母の描く絵にも興味があり、自分も描いてみたいとこぼしたのを、通りすがりの祖父(=アルベール)に聞かれ、翌日にシャロム画伯が講師として連れて来られた。ちなみに画伯もフィリーネにめろめろ。双子に比べてちょっと要領が悪いものの、誰も比較したりしないし、本人が何事にも一生懸命なので問題無し。
三人の中で一番よく食べる。地声も元気いっぱい。
◆リーンハルト
三児の父親。子煩悩なのだが、愛妻家の面が強すぎる。子供達がオリヴィアと遊んでいても、お構いなしに呼びつけたりする。そのため子供達からの好感度を少し下げる結果となった。子供達をあまり叱らないのは、どうしたって泣かれるのに弱いため。息子を叩いた日は、落ち着いた後に寝込んだ。娘達が欲しがるのは母親の私物ばかりなので、やっぱり何もおねだりしてもらえなかった。
双子がまだ赤ちゃんの頃、抱っこしたクローディアにぎゃん泣きされてショックを受けた思い出がある。だが恐る恐るフィリーネを抱っこしたところ、次女はきゃっきゃと笑ってくれた。その瞬間、父は真っ逆さまに転落したので、子供達には平等に接しようとしても、フィリーネだけには甘くなってしまう。妻の髪がこの世で一番美しい色だと思っているため、次女に受け継がれた事に内心では踊り狂っている。
外出先で妻を褒めちぎるせいで"稀代のおしどり夫婦"と呼ばれるようになった。妻が年を重ねるごとに愛らしくなるから困る。
◆オリヴィア
三児の母親。子供達を心から愛しているが、夫が最優先。しかし深く慕う母が大切にしている人間だから、子供達も敬うことを学べたので結果オーライだった。
オリヴィアとしては八人目まで産んでも良かったが、初産がリーンハルトにとってかなりトラウマになってしまったらしく、彼の意志を尊重して現在の家庭の形に落ち着いた。あれは安産だったと医師がいくら説明しても、リーンハルトは納得しなかった。余談だが医師の見立てでは、オリヴィアなら十人でも余裕とのこと。
普段の口調から怒っているのは直らず、教育にも厳しい。だが伊達に寂しがり屋の夫と連れ添っておらず、甘やかす時の見極めが上手。努力してもどうにもならない事があると知っているので、頑張った末の失敗を咎める事はしない。というか子供達は皆、昔のオリヴィアより遥かによく出来るので、社交や勉強面で咎める事がないのが実状だったりする。子供達の声が揃いも揃って大きいため、自然とオリヴィアもレベルアップした。
外で"稀代のおしどり夫婦"と言われると夫を抓る。純然たる照れ隠し。夫が年を重ねても全然老けていかないので不思議。




