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17.いつもとちょっと違う朝

五月二十四日 (木)

 今朝は、天気予報を確認する必要もないほどの快晴だった。いつも通り、カーテンの隙間から差し込む朝日で目を覚ます。

 いつもと違ったのは、華怜よりも早く起床したということだ。昨日も一昨日も華怜は僕より先に起きて、朝食の用意をしてくれていた。

 これはいい機会だと思い、起こさないように布団から這い出て洗面所へ向かう。顔を洗って目を覚ました後、すぐに台所で朝食の準備に取り掛かった。

 ベーコンを焼いて、目玉焼きは固めにする。こっちの方が、華怜は喜んでくれるから。

 次いで味噌汁を作ろうとすると、背後から声がかかった。

「おはようございます、公生さん」

「おはよ、今作ってるからちょっと待っててね」

「手伝いますよ」

 まだ寝ぼけているのか、少し足取りがおぼついていなかった。だけど包丁を握ると目が覚めたのか、普段通りトントンと具材を切っていく。

 ふと思い浮かんだことを、華怜に投げかける。

「味噌汁って、作る人によって味が変わるよね」

「そうですか?」

「華怜のいつも作ってくれる味噌汁、すっごく美味しいよ」

 すると僕の言葉に照れたのか、包丁を扱う手が止まった。

「私も、公生さんのお味噌汁は好きですよ」

「僕が作ったことあったっけ?」

「出会った日に作ってくれました」

 そして華怜は「冷めちゃってましたけど」と微笑みながら答える。そういえば冷めた味噌汁を飲ませたことがあったなと、いまさら申し訳ない気持ちになった。

「それに、なんだか……いつっ!」

 突然、華怜は短い悲鳴が上げる。彼女の手元を見ると、具材を押さえている方の指から赤い鮮血が垂れていた。

「消毒しないと」

「これくらい大丈夫ですよ」

「大丈夫じゃないって。バイキンが入ったりしたら大変だから」

 蛇口をひねり、血が出た手を洗う。それからしっかり拭いた後、消毒をして絆創膏を貼った。

 華怜の表情を伺うと、どこか上の空で心ここにあらずといったようだった。

「大丈夫?」

「……あ、はい」

 ワンテンポ遅れて、返事が返ってくる。

僕は華怜の腕を掴み居間へ連れて行き、座布団の上へと座らせた。

「あの、朝ごはんは……」

「僕が作るよ」

「私も手伝います」

 立ち上がろうとしたから、優しく肩を押さえる。優しくしたつもりだったのに、華怜はぺたんと座布団の上にお尻を付けた。

「調子よくないんでしょ?」

「そんなことないです」

「ほんとに?」しっかりと目を見た。

「ほんとです」僕の目をまっすぐ見返してくる。

「僕らが初日に約束したこと、華怜は覚えてる?」

 確認のつもりで訊くと、すぐに華怜は答えた。

「身体に異常があったら、公生さんに相談ですよね。覚えてます」

 頑として、自分の意思を曲げるつもりはないらしい。

 だとしたらさっき指を切ったのも、どこか上の空なのも、ただの思い過ごしなのかもしれない。

 心配性の僕は、救急箱から体温計を取り出す。それは脇に挟むタイプだ。

「一応、これで熱計ってみて」

「熱が無かったら、手伝っていいですか?」

「朝ごはんは僕が作るよ。あとでサンドイッチも作らなきゃだから、熱がなくてもしばらく大人しくしてて」

 鬱陶しくて嫌われてしまうかもと思ったけれど、こればかりは引くことはできない。僕が浮かれて風邪を引かせてしまうなんて、そんなの彼氏として不甲斐なさすぎる。

 それと、華怜は身元を証明できるものが一つもないのだ。病院にかかるとなれば、お金がバカにならない。

 いや、お金なんてこの際関係ない。僕はいつも、華怜に健康でいてほしいんだ。

 彼女は寝巻きをたくしあげて、体温計を脇に挟み込む。心配性の僕は、なるべくしっかりした数値が出るように、肩を軽く押さえた。

 やがて計測終了の軽快な音が鳴り響いて、それを華怜から受け取った。

「三六度五分」

「ほら、熱なんてないですよ?」

「口開いて」

 さすがにムッとされたけれど、素直に開いてくれた。スマホの電燈で口内を照らす。腫れているといった症状は見られない。

「らいよーぶれすか?」

「ごめん、もういいよ」

 口を閉じて、彼女の乱れた衣服を整えた。

 僕はもう一度だけ、釘を刺しておく。

「何かあったらすぐに相談してよ」

「わかってますっ」

「それと、華怜のことを信じられなくてごめん」

「それは心配してくれてるってことですから、嬉しいです」

 ニコリと微笑んだのを見て、僕も頬を緩める。

 残りの準備を済ませてから、机に朝食を並べた。

 初めに味噌汁を飲んだ華怜は「やっぱり公生さんの味噌汁は美味しいです」と感想を漏らす。幸福そうな表情を浮かべていたから、僕ももちろん嬉しくなる。

それからは二人でベーコンとたまごのサンドイッチを作り、タッパに詰めた。比率はベーコン七割たまご三割だ。

 カバンへ入れて、華怜は僕の買ってあげたお気に入りの洋服へ着替える。僕も手早く着替えを済ませ、二人で大学へと向かった。

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