認めたくないと
すみません。どうも最近忙しくて、内容も薄くて、それに遅いです。
今後も暫くこんな感じで投稿になると思います。
その後、卯月は何も言わずに病室を去って言った。僕も混乱てしていたし、おそらく、彼女もそうだったのではと思う。
1人残された病室で、右手を閉じたり開いたり、気づけば無意識にそうしていた。
「…はぁ」
思わず溜息が漏れる。
いったい僕は何をしているんだ。卯月の胸を触って、改めて異性を感じた。
以前と同じ関係に、一緒に馬鹿をやれる親友に戻りたいと思ったのは間違いだったのか。
男と女の間に友情が成り立つ事は無い。
少なくとも僕は、今回の事件で、卯月と僕の間に異性の壁を感じていた。
この世界で、男が女の胸を揉む事の意味はわからない。だが僕にとって、彼女を以前の月影と同じに見ることが出来なくなるには、充分過ぎる出来事だった。
手持ち無沙汰に携帯を弄る。そうしているうちに、ふと、手が止まった。
黄緑色のメッセージアプリを無意識に開いていたことに、少し遅れて気づく。さらに遅れて、その画面に『月影卯月』の名前がある事に気が付いた。
やはり、もう一言謝るべきだろうか。
あの場での謝罪が無意味だったわけでは無い。だが、僕も、おそらく彼女も、納得はいっていない。
『さっきは、ごめん』
そう打つつもりで、スクリーンを撫でる。半分打ったところで、手が止まった。
ついさっき、あんな雰囲気になったばかりなのに、こんなメッセージを送ったらどう思われるだろうか。
もうどうしようも無い関係になってしまわないだろうか。
落花が枝に登り難く、覆水は盆に帰らないように、崩れてしまった関係は元に戻らない。
そんな気がした。
削除ボタンを長押しして、アプリを閉じる。何と無くメールの通知を見てみれば、一通、メールが届いていた。
心当たりは無い。母さんなら、躊躇なく電話してくるだろうし、弥生もメールを使う方ではなかった。
一瞬、卯月である事を期待した。
『橘 皐月』
その名前を見た瞬間、あの言葉が脳裏を過る。
『アタシはあんたが嫌いだから』
暴姦を蹴り飛ばした少女。僕の恩人と言っても差し支えない相手からのメールであった。
卯月でない事に気を落としかけ、一転、肩の力が抜けた。
卯月でなくて、よかったと。
一つ、小さく息を吐き、メールを開く。
『拝啓
朝晩の冷えも収まり、春爛漫の好季節を迎えましたが、いかがお過ごしでしょうか』
「…うん?」
ここまで読んで、手を止めた。目を擦り、頰を叩いてから再びスクリーンに目を落とす。
『妹さんから、睦月さんの御身体に大事が無い事をお聞きしました。
お医者様は、2、3日安静にしておけば問題無いと、仰られたそうですが、具合はいかがでしょうか。
私は、私の配慮が足りていればと、自戒の日々を送っております。あの時の私の言葉にも、配慮が足りていなかったと自覚しております。
一早い御回復を心よりお祈り申し上げます。
敬具』
もう一度読み返した。
「…は?」
当然、その文面が変わる事はなく、二度とも、同じ文章が綴られていた。
拝啓から始まり、敬具に終わる。僕に手紙の礼儀など分かりはしないが、一高校生として、妥当な線を行くのではと思う。
問題はそこでは無い。
もう一度、メールの人物を確かめる。
そこでも当然、文字が変わっているなんて事はなかった。
「…いや誰だよっ!」
僕のツッコミが、誰もいない病室に寂しく響いた。
*****
「ねぇお姉ちゃん聞いて、ウチのクラスにね、すっごくイケメンのお兄ちゃんがいる友達がいるんよっ!」
気に食わないクラスメイトを助け、暴姦を警察に突き出した後の夕飯前。テレビのバラエティ番組を何と無く眺めていた時だった。
アタシの妹、星花が話しかけて来た。
「へぇ」
「写真見せてもらったんだけど、本当にお人形さんみたいだった!」
「ふーん…」
お人形さんみたい、ねぇ。
ふと、1人のクラスメイトの顔が脳裏を過ぎった。
陶器のように白い肌、スッと通った鼻筋に、大きな瞳。窓辺で黄昏る横顔が、何とも絵になる美少年。
…って、なんだよ、やけに詳しいじゃねえかアタシ。
それだとアタシがあいつを、ス、スキみたいじゃねーか。
それ始めた思考を振り払って、妹に言葉を返す。
「ウチのクラスにもいるよ、イケメン」
否、振り払い切れていなかった。
「いやいや、お姉ちゃんが思ってるイケメンとはレベルが違うと思うよ?俳優とかとは全然違うから」
「へーぇ」
「あー!信じてないないな!」
「信じてる信じてる」
「その発言が既に信じて無いっ!」
そう言って星花はアタシからリモコンを奪い取る。
「はいはい、星花。身近にいるかもしれないイケメンに興奮するのはわかったから。リモコンを返しなさい」
信じていないわけではない。ただ、どうしてもあいつが頭の中に浮かんで来て、比較してしまう。
如月睦月、あいつを知っている以上、それ以上のイケメンがいるとは思えなかった。
「…ははぁーん」
「…何、星花?」
リモコンを巡った攻防をしばらく繰り返していると、星花が顔をニヤつかせる。
姉妹として10年以上を共にして来た妹が、こう言った表情をする時、大抵碌な事がなかった。
「お姉ちゃん、恋してるでしょ。そのイケメンに」
「…なっ!」
ほら、言わんこっちゃない。
「アレだよお姉ちゃん。恋は盲目ってね」
「調子にのるなっと」
何故かドヤ顔の星花にチョップを入れてリモコンを取り返す。
適当にあしらって、再度、バラエティに目を向ける。
左端の『CMの後話題のイケメン俳優が⁉︎』と言うテロップに目がいった。
やはりあいつが思い浮かぶ。
「…そんなはずない」
無意識に口から漏れていた。星花には聞こえなかっただろう呟きは、アタシの中で木霊する。
確かに、あいつはイケメンだ。だが、気に食わない筈だった。
いつもスカしていて、滅多に学校にも来ない。周りの女子達が持て囃すから、傍若無人な振る舞いをする。
そんな様に唾を吐いた筈だった。
それに、今日だって『アタシはあんたが嫌いだから』って、堂々と宣言した…筈なのに。
どうしても、その引っ掛かりは胸から取れてくれそうにない。
今日助けたあいつの顔が、何度も何度も浮かんでは消えを繰り返す。
『お姉ちゃん、恋してるでしょ。そのイケメンに』
その様子に合いの手を入れるように、星花の言葉が思い出された。
違う。そんな筈ないのに。
そう思っても、今日のあいつの顔が忘れられない。暴姦に襲われて、恐怖で、混乱して、今にも消えてしまいそうだった弱々しい姿。
あの時、あんな言葉を吐く必要は無かった。
あんな場面で、あの言葉を投げかけるべきでは無いなんて、小学生でもわかった事だ。
今思い返せば、アタシは、あいつに心を動かされたアタシ自身を認めたく無かったのかもしれない。
今みたいに、そんなわけないと、言い訳したかっただけなのかもしれない。
嬉しい忙しさなのがせめてもの救いです。
四月以降、落ち着いたらまた本格的に再開になるかと思います。




