第34章竜化の道
次の日の朝、僕たちの部屋に置き手紙があった。
シャレンティエンさんからだった。
『私はこの道場を出て、森にいる。黒ドラはそこへ来い。里見とホワイトドラゴンは、道場に来るように』
手紙に書かれている通り、僕は一人で森へと向かった。
鬱蒼とした緑の奥へ進むと、そこにシャレンティエンさんが立っていた。
「シャレンティエンさん……」
「よく来たな、黒ドラくん」
「こんな森の中で、一体何をするんですか?」
シャレンティエンさんは答える代わりに、懐から小さな笛を取り出して唇に当てた。
高く澄んだ音が響き渡ると、草むらや木々の影から、ゾロゾロと無数の魔物たちが現れた。
「えっ、魔物!?」
僕は思わず身構えたが、シャレンティエンさんは不敵に微笑んだ。
「安心しろ。皆、私の友達だ」
「そうなんですか……」
警戒を解くと、一部の魔物たちが僕の足元にトコトコと近寄り、甘えるように体をすり寄せてきた。その愛らしさに、僕は自然と目尻を下げて頭を撫でてあげる。
「さて、黒ドラくん。君にはこれから私たちの試練をクリアしてもらい、最大能力である『竜化』を身につけてもらう」
「半竜化、じゃなくてですか?」
「そうだ。まずは完全な竜化を成し遂げなければならない。半竜化というのは、竜化と人間の姿の中間に位置する状態だ。竜化によって解放された莫大な魔能を保ちながら、人間の肉体を維持しなければならないからな。つまり、まずは基本となる『竜化の解き放たれた魔能』を、全て完璧に扱えるようになるのが先決というわけだ」
シャレンティエンさんはそう言うと、一枚の地図を僕に手渡した。
そこには、いくつかの地点に丸い印がつけられている。
そして、火山の絵が描かれた場所には、ひときわ大きく『ゴール』と書かれていた。
「この地図は……?」
「今から、君には私たちの試練を乗り越えてもらう。これをすべて突破したとき、君は竜化へと至るはずだ。この島にあるゴールの火山を目指すにあたり、どのルートを通っても構わない。ただし、地図にある丸い印の場所には必ず立ち寄れ」
シャレンティエンさんは背を向け、森の奥へと歩き出す。
「私はゴール地点で待っている。制限時間は、明日のこの時間までだ。もし間に合わなければ、もう一度最初から丸い場所を巡り直しだ。いいな?」
「えっ、あ、はい!」
僕は地図を握り締め、意を決して森の奥へと足を踏み入れた。
「まずは、一番近いここに行ってみるか」
歩き始めて早々、空から狂暴な鳥が襲いかかってきたり、茂みから仕掛け矢が飛んできたりした。それらを必死に避けながら、ようやく最初の目的地に到着する。
そこには地面にぽっかりと開いた、奥深くへと続く不気味な縦穴があった。
すぐ近くの岩の上に、また紙が置かれている。
『この穴に炎を流し込み、地中に潜むものを焼き出せ。ただし、熱の温度調整を誤れば、地中から怒った蛇が飛び出して噛みついてくるぞ。安心しろ、毒はない。少し痛い程度だ』
「えぇ……」
僕は思わず顔を引きつらせた。
しかし、やるしかない。手から黒炎が出るように集中し、念じる。
「はあっ!」
手のひらから黒炎の渦を放ち、穴の中へと流し込んだ。
だが、火力が強すぎたらしい。
「チッ!」という不快な音と共に、僕の足元から無数の蛇が飛び出し、容赦なく足首に噛みついた。
「グッ……!」
浅い傷とはいえ、鋭い痛みが走り、足元からタラリと血が滴る。蛇たちは目的を果たすと、すぐに地下へと戻っていった。
僕は足の痛みに耐えながら、奥歯を噛み締めて再び立ち上がった。
「もう一回だ……!」
再び炎の渦を作り出し、穴へと流し込む。
しかし、またしても調整に失敗し、飛び出してきた蛇に噛まれてしまう。
それでも僕はめげなかった。
何度も、何度も挑戦を繰り返す。足の噛み傷が増えていくにつれて、感覚が研ぎ澄まされていくのが分かった。炎のコントロールのコツを、体が掴み始めていた。
「次なら、いける……!!」
僕は慎重に黒炎の温度を微調整し、限界まで集中して穴の中へ滑り込ませた。
数秒の後
ジリジリという音と共に、見事にこんがりと焦げた肉の塊が中から飛び出してきた。すると、生き残った蛇がその肉を咥え、満足したように巣の奥へと持ち去っていく。
「これで……いいのかな?」
一筋縄ではいかない試練に冷や汗を流しながらも、僕は次のポイントへと急いだ。次々と丸い印の場所を訪れ、ボロボロになりながらも必死に試練を乗り越えていく。
「15個の丸のうち、10個クリア……。あと、5個……っ」
気づけば、周囲はすっかり帳に包まれ、夜になっていた。
一方その頃、ゴールの火山近く。
シャレンティエンは岩に腰掛け、月を見上げながら優雅に梅酒を煽っていた。
「あいつなら、明日の昼前にはここに辿り着くかねぇ……」
その時、突如として足元が激しく揺れ動いた。
「また地震……? いや、何か嫌な予感がするな…。」
不穏な空気が満ちる中、暗闇から、一人の男が姿を現した。手には懐中時計を持っている。灰色髪のその男の顔を見て、シャレンティエンの目が鋭く細められた。
「クロノス……!!」
「お久しぶりです、シャレンティエン。あの要塞のこと以来でしょうか……」
クロノスは不敵な笑みを浮かべる。
シャレンティエンは油断なく拳を握り、じりっと間合いを詰めた。
しかし、クロノスは焦る様子もなく、懐中時計をもてあそびながら言葉を続ける。
「おやおや、そう焦りなさるな。時の運命……いや、あの方の命令でしょうか?今の君にぜひ見せたい素晴らしいものがありましてね」
クロノスが指さした森の奥から、ガサリと草を分けて一人の女性が現れた。
そのミントグリーンの美しい髪を見た瞬間、シャレンティエンの息が止まる。
「フローラちゃん……!?」
それは、かつて死んだはずの、シャレンティエンの大切な友人『ガイテミア・フローラ』だった。
「そうです。死んだはずの君の友人、ガイテミア・フローラちゃんです。まあ、今は……」
クロノスが言葉を切り替えた瞬間、フローラの瞳が妖しく光り、地面から無数の太い植物の蔦が牙を剥くように飛び出した。蔦は鋭いスピードでシャレンティエンを捕らえようと襲いかかる。
しかし、シャレンティエンはまるで酒に酔ってふらついているかのような、変幻自在の千鳥足でそれらを紙一重で回避した。
「改造して、我らの操り人形ですけどね…。」




