第4章魔剣騒動
❘❘炎獄苑城下町の城門前❘❘
黒ドラと里見は、石畳が敷き詰められた城下町の入り口に立ち止まった。
門前には古びた石造りの城壁がそびえ、鉄製の扉は厳重に閉ざされている。
軒を重ねる木造の商屋や屋台からは、夕暮れの薄明かりに照らされた煙突の煙がゆらゆらと立ちのぼっていた。
旅立ちの直前里見の表情が一気に陰り、手がそっと僕の手から離れた。
里見さんの瞳に浮かぶのは、不安と悲哀が複雑に交錯する、長い時間をかけて積もった痛みだった。
その刹那、城門の向こう側から不気味な気配が襲いかかる。
「魔能ポイズン・ウォーター!」
「魔能闇風!」
紫色の毒水が雨のように降り注ぎ、黒い竜巻が城下町の狭い路地を突き抜ける。
屋根瓦が砕け、木戸や窓が軋みながら粉々になり、叫び声があたりに響き渡る。
「危ないっ!!」
黒ドラは大きな翼を広げ、古びた石畳の上から跳躍し宙に舞い上がった。
里見も咄嗟に身を翻し、崩れた屋根の陰へと身を隠す。
土煙が舞い上がる中、攻撃の発信源を見据えると❘❘そこにいたのは、路地裏で対峙した
青髪と緑髪の二人だった。
だが彼らは禍々しい剣を振るい、憎悪の魔能を身にまとっていた。
その瞳は凶暴に光り、城下町の静寂を切り裂くような不敵な笑みを浮かべている。
「フハハ……これはたまらん。まるで“七英天竜”の力を授かったようだな」
「早く決着をつけるぞ。長引けば、炎帝騎士どもがまた押し寄せてくる」
二人は石畳の隙間にひび割れを走らせながら、
攻撃の姿勢を整えた。
「……このまま放っておけない。周囲の人々を守らなきゃ」
黒ドラは静かに空から急降下する。
それを見た青髪の男は頬笑を浮かべ、叫んだ。
「さっきはボロ雑巾みてぇにやられたが、今度はそうはいかねぇ!!
魔能水薙・闇!!」
黒くねじれた水の腕が勢いよく伸び、勢いよく伸び、黒ドラを力強く叩き落とす。
彼は石畳に激しく叩きつけられ、砕けた瓦礫を四方に飛び散った。
「黒ドラくん!!」
里見が駆け寄ろうとしたその瞬間、緑髪の男が鋭く叫ぶ。
「魔能闇風・斬!!」
黒い旋風の刃が城下町のせまい路地を舞い荒れ狂い、里見さんを直撃する。
里見さんは必死に両手を構え防御したが、強烈な風圧で吹き飛ばされ、近くの石壁に叩きつけられた。
「ぐっ……!!」
衝撃で意識は揺らぎ、頬に血が滲む。
もはや、あの二人はただのてきではなかった。
白いフードの青年が授けた魔剣は、増悪と欲望によって、“変質”し、呪われた契約と化していたのだ。
「お前の相手は俺だ……! 今度こそ、金髪の女をぶちのめしてやる!!」
青髪と緑髪の男は、古びた城壁を背に禍々しい剣を振りかざし、勝ち誇った表情で里見さんに迫る。
その刹那、城下町の夕闇が戦慄に染まった
その時。
バシュンッ!!
まるで銃声のような鋭い音が響き、弾丸が二人の足元を撃ち抜いた。
瞬間、彼らの足元が“凍結”し、まるで地面に張りついたかのように動かなくなる。
「なっ、足が……動かねぇ!?」「チッ、誰だ……!?」
混乱した声を上げながら、二人は必死に周囲を滲みつける。
「こそこそ隠れてないで、出てこいッ!!」
僕はよろよろと体を起こし、目を凝らす。
遠くに銃を構えた白髪の人物の姿が一瞬見えた。
あの人が、僕たちを助けてくれたんだ。
だが今はそれどころじゃない。目の前の
“敵”を倒さなければ。
僕は手にした刀に黒炎をまとわせ、強く呟く。
「魔能黒炎斬り(こくえんぎり)!!」
同時に里見さんも強烈な魔能に解き放つ。
「魔能ルピモネ!!」
二人の魔能が交差し、爆破のように広がった。
僕の黒炎が青髪の男の身体を深く裂き、
里見さんの魔能が緑髪の男を強く弾き飛ばす。
カンッ!!パキィィンッ!!
凍りついていた足元が砕け散り、二人は勢いよく吹き飛ばされた。
だが、それでも戦いは終わらない。
「くそがぁぁぁあ……!!」
「負けてたまるかァァァ!!」
二人は怒りに震え、手にした魔剣を
自らの胸に深く突き刺した。
ズブリッ……!!
その瞬間、彼らの身体が脈打ち始め、異形へと変貌を遂げていく。
「マウガアアアアアアァァァッッ!!!!」
獣のような咆哮が轟き、黒い瘴気が辺り一帯を覆い尽くす。
地面は激しく揺れ、空気が震えた。
一体は空へ向けて無数の火の玉を放ち
空が炎に染まる。
もう一体は、体を激しく回転させ巨大な竜巻を巻き起こし、
瓦礫が舞い上がり、建物が崩れ始めた。
「ぐっ……!」
僕も里見さんも傷だらけだった。
なんとか攻撃を避けてはいるが、反撃に回る余力は、もう
(……このままじゃ、町が……!)
必死にそう思った瞬間、脳裏にふと映像がよみがえる。
焼け落ちた村の惨状
虚ろな目をした、二人の黒髪の人物。
(……あれは、記憶……? 僕の……?)
我に返り強く意識を取り戻す。
目の前には、足に火傷を負い動けなくなっている里見さん。
そして、その彼女に向かって、猛烈な勢いで竜巻の化け物が突進してくる。
(まずい! 間に合わない!!)
竜巻の異形が、火傷で動けない里見さんへ猛然と突進する。
だが、僕の足は鉛のように重く、息は乱れ、腕すら上がらない!
その刹那
「魔能熱烈拳ッ!!」
ドゴォォォンッ!!
紅蓮の拳が、空気ごと弾け飛んだ。
竜巻を生み出していた異形が吹き飛ばされ、石壁に叩きつけられ地面をのたうち回る。
瓦礫の向こうから現れたのは、機械仕掛けの義手を携える女性。
オレンジ色の乱れ髪を鉢巻で束ね、包帯に覆われた腕には戦いの痕跡が刻まれている。
だが、その瞳は揺るがず、真っ直ぐに前を見据え、命の火を燃やしていた。
「ヒーロは遅れてやってくるもんでしょ!!」
彼女は力強く拳を天へ突き上げる。
「ピンチに颯爽登場これぞお約束!
七英天竜の一角灼熱の天竜、ザグリエル登場!!」
彼女の声とともに、地面は微かに揺れた。
まるで彼女の存在自体が炎と共に降臨したかのように感じられた。
ザグリエルは振り返り、僕たちに指を刺す。
「少年、そこのお嬢さんのお二人さん! 今すぐここから退くんだ!!
これ以上火遊びに巻き込まれたら、命が危ないぞ!」
しかし、その言葉に被さるように、別の魔物炎をまとう異形がすぐ傍で火の玉を生成し始めた。
強大な腕から灼熱のエネルギーが轟音とともに降り注ごうとした、その瞬間
「魔能エメラルドスラッシュ!!」
ズバァァン!!
鮮やかな緑の斬撃が一直線に閃き、火の玉の腕を真っ二つに裂く。
斬撃の直後、白銀の影が空からすっと舞い降りた。
剣を手にした銀髪の女性が静かに着地する。
その姿はどこか冷たく、それでいて絶対的な安心感を漂わせていた。
「ザグリエル……ヒーローごっこは、よそでやってくれない?」
低く落ち着いた声は、鋭利な剣のように切り込んでくる。
「今はね……困った部下たちの尻拭いで手一杯なの」
「ラファエル! だからこれは“ごっこ”じゃなくて、信念って何度も…!」
「はいはい、またあとで聞くわ」
銀髪の女性閃光の天竜、ラファエルはため息つきながらも、視線は化け物から一瞬たりとも外さない。
ちらりとこちらを振り返り、
「君たち、大丈夫? ……あの“ヒーロー気取り”の言うとおり、ここから逃げなさい」
そう告げると、再び剣を構え灼熱の異形へむかって走り出した。
ふとポケットに触れると、指先に冷たいものがあたった。
地図だアルフ博士から託された、研究所の座標。
あそこなら、安全なはずだ。いや、行かなければならない。
「里見さん!行きましょう! 今はここを離れなきゃ!」
僕は里見さんに手を差し出す。
しかし、里見さんは地図に一瞥をくれただけで、ゆっくりと首を振った。
そして小さく呟く。
「……一人で行って」
僕の手を振り払うその瞳には、決意と何かしらの覚悟が混じっていた。
そのときだった。
ズゥン!!
頭上から灼熱の火の玉が落ちてくるのが視界に飛び込んだ。
「ッ!」
考える間もなく、僕は咄嗟に彼女の腕を掴む。
「今は逃げるんです!!
嫌でも、まずはその傷を治さなきゃ!!」
火の粉が降り注ぐ中、僕は里見さんの手をしっかり握りしめ、全力で走り出した。
背後では、ザグリエルとラファエルの激しい戦闘が轟音を響かせている
僕たちは研究所へ向かい、走り続けた。
その頃城下町の大通りに立つラファエルは瓦礫の影を見渡し、短く息を吐いた。
「……よし、人はいないわね。
おい、“ヒーロー気取り”。今だ、決めるよ」
「“ヒーロー気取り”って言うなッ!!」
ザグリエルは若干ㇺッとした表情で拳を握る。
しかしその顔には、いつもの笑みを浮かんでいた。
「これは信念よ、私の“ヒーロースタイル”ってやつ!」
彼女は地を蹴り、炎の羽根を広げて空へと舞い上がる。
背中の炎は翼のように広がり、宙を切り裂いていく。
右足が燃え上がり、まるで灼熱の竜の頭部に変貌した。
「魔能灼熱ドラゴン(しゃくねつどらごん)!!」
巨大な火竜の方向が響き、真紅の彗星のように回転しながら飛び回る化け物を貫いた❘❘!
ズドォォン!!
轟音とともに、竜巻を巻き起こしていた化け物の胴体に、ぽっかりと巨大な穴が開いた。
内部は灼熱に焼かれ、蠢く瘴気がまるで悲鳴を上げるかのように弾けた。
爆破する肉体の中から、ボロボロになった人間の男が転げ出てきた。
その傍らには、黒く光る禍々しい魔剣が落ちている。
ザグリエルは空中で一回転し、軽やかに地面へ着地した。
「これでひとまず片付いたと言いたいところだけど……」
視線の先には、もう一体の化け物が火の玉を生成しようと腕を振り上げていた。
「……ラファエル、頼んだ!」
「言われなくても」
ラファエルは静かに剣を横に構えた。
「魔能天地革命一撃斬」
一泊遅れて、空気を裂くような鋭い“音”が走る。
彼女の身体は風とともに掻き消え、まるで瞬快移動したかのように化け物の目前に現れた。
剣を振るう音さえ聞こえない。
ドガアアァン!!!
火の玉が砕け散り、爆風とともに化け物の上半身が吹き飛ぶ。
崩れ落ちその肉塊の中からも、一人の男と黒い剣が転がり出た。
ラファエルは無言で黒い剣に目を落とし、眉をひそめた。
「……また、このタイプか」
ザグリエルも歩み寄り、その剣を見下ろす。
「まるで意思を持っているみたいだよね。
人間や竜人の欲望にして、“怪物”を作り出している……もはやただの兵器じゃない」
「その通りだ。問題は……これを誰が流しているか、だね」
夜の闇の中、ふたりの天竜が静かに佇んでいる。
背後の城下町の灯りが揺れ、住民たちは息を潜めていた。
ラファエルは剣を鞘に納め、静かに呟く。
「……あの二人には関わらせたくなかったけど。
間違いなく、中心にいる。あの黒髪の少年と、“里家”の生き残りが」
ザグリエルも無言で頷いた。
空に漂う瘴気がゆっくり霧散していく中
地面の上には黒い魔剣が、不気味な存在感を放っていた。




