第20章金を与える代償は命。砂に潜む悪魔の正体
遺跡の深部は、ただ静寂と黄金の塵が舞うだけの空虚な空間だった。時折、壁の穴から砂が噴き出す不気味な音だけが響く。
「……何もないわね。でも、この『無』こそが一番不気味だわ」
里見さんの言葉に頷き、僕たちは一旦、あの不穏な壁画に背を向けて地上へと戻った。
翌日。僕たちは別の遺跡を目指し、再び陽炎の立つ灼熱の砂漠へと踏み出した。
半日ほど歩き、目的地である第二の遺跡が視界に入ったその時――砂が爆ぜ、昨日見た金色のコブラが地中から躍り出た。
「シャアアアアアッ!」
毒液を撒き散らしながら襲いかかる金色の影。里見さんは冷徹な動きで毒をかわし、コブラの首を掴んで岩壁へと叩きつける。ホワイトドラゴンとクリウスアーナの銃弾と矢が正確に急所を穿ち、僕の刀がその胴体を断った。
だが、安堵の暇はなかった。遺跡の影から、一人の女性と、地を埋め尽くすほどの金色のコブラが姿を現したのだ。
「私の黄金郷を穢す不届き者ども……! 命でその罪を贖いなさい!」
女性の叫びと共にコブラが一斉に牙を剥こうとした、その瞬間。
突如、地面が巨大な口を開けたかのように陥没し、蟻地獄のような巨大な渦が発生した。
「な……何よ、この穴は!?」
女性の悲鳴も虚しく、誇り高き黄金のコブラたちが次々と砂の深淵へと吸い込まれていく。主を助けようと羽ばたいた個体さえも、逃れられぬ重力に捕らえられ、闇の中へと消えていった。
穴の底から、グチャリと肉を咀嚼する音が響く。やがて吐き出されたのは、無惨に食い荒らされた蛇と「人の一部」だった。
蟻地獄は飢えた獣のようにその範囲を広げていく。
「逃げるわよ! 早く!!」
里見さんの号令で、僕たちは死に物狂いで砂の上を駆けた。
「ウヴァ……ウヴァ……ッ」
背後で、地響きのような鳴き声が上がる。
頭には禍々しい角、全身はヤマアラシのような毒棘。頭の突起物から黄金の塵を撒き散らしながら、その「砂漠の悪魔」は僕たちの後を追って地中を猛スピードで移動し始めた。
一時間ほど走り続け、ようやく草原の境目が見えてきたところで足を止める。
「ここまで来れば……っ」
肩で息をする里見さんの言葉を、クリウスアーナが遮った。
「いや、見てみろ。砂の中から金が噴き出している……。あの壁画の通りだ」
「間違いない……。あれは、この砂漠を支配してる魔龍よ!」
地面を割り、姿を現した魔龍が突進してくる。クリウスアーナとホワイトドラゴンが弾幕を張るが、魔龍は背の棘を弾丸のように射出し、反撃してきた。
「グッ……!」
鋭い棘が僕の肩を掠め、熱い痛みが走る。このままではジリ貧だ。
(……何か、突破口は……!)
再び、僕たちの足元に巨大な蟻地獄が形成され始める。
「今だ!!」
僕は背中の羽を広げ、急降下してクリウスアーナの腕を掴み、あえて蟻地獄の中心部へと飛び込んだ。
「黒ドラ!? 自殺する気か!」
「違います! クリウスアーナさん、あの穴の『喉元』に向けて、最大火力を叩き込んでください!」
僕の意図を察したクリウスアーナが、不敵に笑った。
「なるほどな……やってやる! 魔能月螺の迷戦(げつらのめいせん!!」
獲物を待って大きく開かれた魔龍の口内へ、無数の光の矢が濁流となって流れ込む。
「ウヴァァァァァァ!!」
内部を焼き尽くされた魔龍が悶絶し、蟻地獄が消失した。
「おまけだ! 百波苦乱の矢!!」
地面に突き刺さった矢から赤黒い竜巻が発生し、魔龍の巨体を空中に巻き上げる。
僕は着地し、トドメを刺そうと刀を構えた。だが、竜巻が消えた瞬間、魔龍は死に物狂いのラストスパートで僕に肉薄してきた。
(しまっ――!)
回避が間に合わない。そう確信した瞬間、右から里見さんが、左からホワイトドラゴンが僕の肩を力強く掴み、引き寄せた。
「行かせないわよ!」
「死なせはしない!」
二人の強大な魔能が、僕の体を経由して一点へと集束する。
バチッ、と激しい静電気のような衝撃が走り、僕の手にあった刀が虹色の極光を放った。
「これは……!?」
刀は一瞬にして、身の丈を超える巨大な虹色の大剣へと変貌を遂げた。
僕は吸い込まれるように、その大剣を横一文字に振り抜く。
閃光。
次の瞬間、砂漠の主であった魔龍は、その巨体を真っ二つに断たれ、倒れる。
虹色の大剣は、幻だったかのようにすぐに元の刀へと戻った。
静まり返った砂漠に、僕たちの荒い呼吸音だけが響いていた。




