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ドラゴ・ニック  作者: なんたい生物
序章三部作転竜の章
1/10

プロローグ始まりの夢

夜の深淵突き抜けるように、

また、あの夢が僕をさらっていく。


焼け焦げた大地。裂けた空。

血のにおいが風に溶け、剣戟が空気を裂く。

黒い翼を広げた巨影と、ギザギザの刀を振るう戦士がぶつかり合う。


〈闇紅の厄災(あんこうしょくのやくさい)

〈漆黒の惨禍(しっこくのさんか)


名を知らない彼らの名を胸に焼きついてる。


「まただ。どうして、同じ夢ばかり

見るんだ。」


剣が砕け、翼は破かれ、黒炎が血飛沫あげる。

その瞬間、視界が、真っ白に塗り潰された。


次に目を開けたとき、そこは果てしなく本が積み上がった、巨大な図書館のような空間だった。

静寂の中に立つ金髪の青年が、僕を待ちわびていたかのように優しく微笑む。


「ようこそ、黒田くん。僕は“始まりの竜”」


穏やかな口調だが、その存在感はこの世のものとは思えないほど希薄で、それでいて圧倒的だった。夢の続きなのか、それとも現実の皮を被った何かなのか。


「ここは……?」

「ここは『次元の狭間』の一つさ。僕はこれまでに数え切れないほど……そう、一万を超える次元――世界を生み出してきた。ここは、それらをつなぐための道のような場所なんだ」


「一万以上の、世界……?」

あまりのスケールの大きさに絶句していると、背後の棚から一人の少年が現れた。

白銀の装束に身を包んだ、冷静な瞳の少年。彼は手にしていた本を閉じ、静かに歩み寄ってくる。


「……僕は“全知の神竜”、アポローナー」

アポローナーは始まりの竜を一度見てから、僕を値踏みするように見つめた。

「始まりの竜……本当に、この子で間違いないんだね?」

「ああ、間違いないよ。姫様の見立て通りだ」


アポローナーは僕の鼻先まで顔を近づけた。

「君が見ていた夢は、実際に起きた戦いだ。……信じられるかい?」

「どういうことですか?」


アポローナーは一冊の小説を取り出し、僕に突きつけた。表紙を見た瞬間、心臓が跳ねる。

「それは……僕が読んでいた本!」

「この小説は、僕たちの陣営にいた『裏切り者』が書いたものさ。君が見ていた夢も、そいつの仕業だろう。君を自宅に引きこもらせ、自死へと追い込んだのも、すべてはそいつの計画通りというわけだ」


突然の宣告に、頭が真っ白になる。

「えっ……? 僕が不幸続きだったのは、全部そいつのせいだって言うんですか!?」


今度は始まりの竜が言葉を引き継いだ。

「正確には二つ理由がある。その裏切り者の呪いと、君の体に宿った『もの』のせいだ」

「僕の体に、何かが……?」


アポローナーが僕の肩のあたりを指先でつつく。

「君の体には『黒闇の死厄こくあんのしやく』が宿っている。それは持ち主に際限のない不幸を呼び寄せる厄災なんだ。君は。」

「そんなものが、どうして僕の中に!」


「僕らが、入れたんだ」

始まりの竜は、残酷な事実を淡々と告げた。

「その災厄の力を封印するために、器が必要だった。……詳しくは言えないが、そのために君を選んだ」


「そんな……。じゃあ、僕の人生がめちゃくちゃだったのは、全部あんたたちの都合なのか……!」

僕の叫びに、アポローナーは視線をそらした。

「……どこまでが『死厄』による不幸で、どこまでが君の運命だったのかは、僕たちにも分からない。」


始まりの竜が本題に切り出した。

「君には今から別の次元へ行ってもらう。そこは、君の世界のような魔法や魔力が存在しない世界だ」

「魔法がない世界?」

「ああ。その世界は『魔能まのう』がことわりの基本となっている次元だ。もともとは脳に力を蓄えることから『魔脳』と呼ばれていたが、進化の過程で『魔能』へと変質した。自分の筋力を跳ね上げたり、体から火を出したり、特殊な力へ進化させた者たちが戦う世界だ」


始まりの竜は、僕の目を真っ直ぐに見据えた。

「君にやってほしいことは一つ。夢にも出てきた『闇紅の厄災あんこうしょくのやくさい』を救ってほしい」

「救う……?」

「その子は今、暴走して世界を闇に沈めようとしている。……だが、君なら救えると僕らは踏んだ」


「不幸を呼ぶだけの僕に、本当にそんなことができるんですか?」

「やってみなければ分からない。だが、君にはその資格がある」


僕は拳を握りしめ、少しの間考えた。元の世界に戻っても、待っているのは絶望だけだ。もし、この不幸な体に意味があるのなら。

「……分かりました。行きます。その子を救ってみせます」


「よし、交渉成立だ。姫様も喜ぶよ」

始まりの竜が指を鳴らすと、床から一つの「肉体」が浮かんできた。

「これは……?」

「秘密♡」

茶目っ気たっぷりにウインクする竜に、僕は毒気を抜かれる。


アポローナーは冷たい目線で、始まりの竜の方を見ると、僕に言う。

「悪いね、この体の詳細はまだ教えられない。……だが、この体に移るには代償が必要だ。それは、君の『前世の記憶』。すべてを捨てて行ってもらうが、いいかい?」


(記憶をなくすなら、今の話を聞いた意味がないんじゃ……。いや、でも……)

新しい人生。不幸の元凶を切り離せるなら、それも悪くないかもしれない。

「……いいですよ。お願いします」


「魔能・体移し(まのうからだうつし)」

始まりの竜が呪文を唱えた瞬間、僕の意識はほどけ、魂が新しい器へと吸い込まれていく。

それと引き換えに、僕を構成していた「黒田」としての記憶が、砂のようにこぼれ落ちて消えていった。


僕は光の中に飛び込んだ。

新しい世界、新しい体、そして失われた過去を背負って。

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