琴音さんからケーキを食べさせてもらう至福の時間
「道広くん、どうぞこちらへ♪」
ニコニコしているけどプレッシャーがすさまじい。
この状況で断るだなんて絶対に不可能だ。
「ぐぬぬー……こ、これから、あたしの目の前で『あーん』されるのかー……はぁはぁ」
一香の息遣いが荒くなっているのは気になるが、今は琴音さんに集中せねば。
「りょ、了解です!」
とにかく俺は琴音さんの隣の席にまで移動した。
琴音さんとケーキの甘い香りが合わさって、思考力が低下していく。
「ふふふ♪ 道広くん、それではこちらを向いて口を開けてくださいますか? はい、あーん♪」
琴音さんは天使のように微笑みながら優しく促してくる。
うむ、これは抗えない。
「あ、あーん……」
つい口に出して言ってしまった。
こんな情けない間抜けな姿を一香に見られてしまうとは……!
「うわー……道広ったら、あんな大口開けちゃってー……」
一香から呆れたように言われてしまう。
これはなんという羞恥プレイ。
バカップル的な行動はふたりっきりで楽しむからいいのであって、他人に見られながらだと苦行にしかならないのではないだろうか。
もちろん、凪咲さんからも注視されている。
無言で、無表情で。
これはこれでプレッシャーを感じる!
そんな中、琴音さんは笑みを絶やすことはない。
いつから無敵キャラになったのだろうか。
「ふふふ♪ それでは、次は食べさせてあげますね♪ はい♪ あ~ん♪」
琴音さんは一口サイズに切り分けたチーズケーキを再び俺の口に移動させていく。
うおおおおおおお! 恥ずかしい!
しかし! 俺は! やり遂げるっ!
……といっても、やっていることと言えば、ただアホ面を晒して口を開いているだけなのだが……。
ともあれ。
「あむっ……もぐもぐ……」
俺は琴音さんが口の中に運んでくれたチーズケーキを受け入れ、咀嚼する。
モグモグと口を動かすたびに芳醇で濃厚なチーズの香りが広がり味覚が幸福感で満たされていく。
至福! その一言に尽きる。
十数年ロクなものを食べていなかったぶんを取り戻すように、ここのところ俺は極上の食べ物ばかり口にし続けている。本当に幸福だ。
「お味は、いかがでしょうか?」
超至近距離で琴音さんから訊ねられる。
超絶うまいケーキ&超絶美少女の琴音さん。
ついこの間まで超絶貧乏で肉体労働に明け暮れていたのが嘘のようだ……。
「夢のようです……いや……うまいです、とても」
つい思っていたことが、そのまま口に出てしまった。
「そうですか♪ ふふふっ♪ よかったです♪」
琴音さんは慈愛に満ちた笑みを浮かべてくれる。
もう、こんな至近距離でそういう笑顔を見せないでほしい。
ノックアウトされてしまう。