『恋人係』VS『彼氏係』
「……『恋人係』、ですか?」
「はい! 『恋人係』です!」
咄嗟に思いついた単語だったが、一香との『彼氏係』よりもランクが上っぽいだろう。
まあ、もともとの『スキンシップ係』の時点で恋人がしていることに近かった気もするが……一緒に露天風呂とか、同じベッドで一緒に寝たりとか。
でも、名称も大事だろう。
響き的に『恋人係』>『彼氏係』>『スキンシップ係』だと思う。
「……『恋人係』……ああ♪ とても素晴らしいですね♪ 本当に、そんな係を引き受けてくださるのですか?」
「は、はいっ!」
もうこうなったら背に腹は代えられない!
煮るなり焼くなりレンジでチンするなりすればいい!
「こ、『恋人係』ぃいー……!?」
今度は一香がショックを受けているようだが、今はこの場を収めることが第一だ。
「琴音さんの望むことはなんでも俺が叶えますよ! ドンとこいです!」
「ほ、本当ですかっ?」
「え、ええっ! もちろんです!」
これ以上エスカレートするというのは恐ろしくもあるのだが、俺はどんな役割にも耐えてみせる!
「わあ♪ それでは道広くん、今後は『恋人係』よろしくお願いいたしますね♪」
琴音さんは満面の笑みで頼んできた。
おおう……。
なんだかこれからますますトンデモナイことになりそうな気がする……。
でも、今の俺にはほかの打開策が思い浮かばなかったのだ。
「うぐぅー……敗北、やっぱり敗北かぁー……でも、仕方ないかぁー……」
……すまんな、一香。
でも、これは仕方がなかったのだ。
俺は琴音さんのメンタル第一に動く。
それが俺の役目だから。
そこでドアがノックされて凪咲さんの声。
「ケーキのおかわりをお持ちいたしました」
いいタイミングだ。
凪咲さんが一礼してケーキを載せたカートを運んできた。
「そ、それでは……道広くんっ……! さ、さっそくですが! け、ケーキを食べさせてあげますっ!」
興奮したように頬を紅潮させながら、琴音さんは切り出した。
「……お嬢様?」
席を離れていた凪咲さんは事情を知らない。
不思議そうに訊ねる。
「あ、そのっ、ええと……今日から道広くんには『スキンシップ係』に代わって『恋人係』を務めていただくことになりました。それで、さっそくお務めをしていただこうと」
「なるほど。左様でございましたか。しかし、お客様の前では……」
「あたしなら無問題ですー! むしろ目の前でそういう光景を見させられるほうが燃えるー! バッチコーい!」
どんどん一香が面白エキセントリックキャラになっている気がするが、琴音さんの圧倒的すぎるお嬢様キャラに対抗するためにはこうならざるえないのだろう。
「それでは、遠慮なく♪」
いつもは慎み深い琴音さんも、笑みを深めて断行する構えだ。
『恋人係』VS『彼氏係』――やはり対抗心が芽生えているようだった。
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