スキンシップ係から恋人係へ!?
「……その『彼氏係』というものは、どういうものなのでしょうか?」
「え、えっとー、それはー、彼氏のフリをしてをしてもらうというかー」
「具体的には、どういうことをするのでしょうか?」
琴音さんは再びニコニコ笑顔になっているが圧力がすさまじい。
さっきよりもプレッシャーが増している。
「そ、それは、そのー、ええとー……」
具体的なことと言えば『ほっぺたにキス』とかになるのだろうが、それを言うのは一香もマズイということはわかっているらしい。
でも、琴音さんに対して俺は嘘をつけない。
訊ねられたら、応えるほかない。
「道広くん、答えていただけますか?」
やはり俺にも矛先が向いた!
ここは観念しよう。
「え、ええと……ほ、ほっぺたにキスとかされてました。あとは弁当を食べるときに食べ物を口に運んでもらったり」
「わー、わー!」
一香が顔を赤くして騒いでいる。
しかし、いずれも自分からやってきたことである。
まぁ、プライベートを他人に聞かせるというのはまた違った羞恥心があるか。
発言している俺自身もメンタルにダメージが出ている。
「……ほ、ほっぺたにキス……お弁当を食べるときに食べ物を口に運ぶ……」
琴音さんはショックを受けたような表情で、俺の言葉を繰り返す。
いかん。これでは『スキンシップ係』を解雇されてしまうかもしれない。
『スキンシップ係』をしているのに『彼氏係』をやるのは間違っていたかもしれない。
「これはあたしが無理に押しつけた係なので道広に非はないというか全部あたしが悪いんですごめんなさいー!」
一香が土下座せんばかりの勢いで謝罪の言葉を叫ぶ。
「い、いえ……お気になさらないでください……ちょっと羨ましいなって思っただけですから……」
しかし、語尾から『♪』が感じられない。
命の恩人である琴音さんに多大なる精神的ダメージを与えてしまったようだ。
ここはなんとかせねば。
「こ、琴音さん、もちろん俺に同じことをしてもらって大丈夫ですから!」
そうだ。
一番の恩人である琴音さんの望むことにはなんでも応えるのが俺の義務だ。
「あたしも軽率でした今すぐここで道広には『彼氏係』をやめてもらいますからー!」
俺と一香が揃って頭を下げる状況になった。
「い、いえ……道広くんの学園での生活まで制限するのは本意ではないですから……もちろん、その『彼氏係』を続けていただいて大丈夫です……」
ぜんぜん大丈夫そうじゃない。
このままで琴音さんの精神状況が不安定になってしまう。
それは絶対に避けないといけない。
なんのために俺が存在するのかわからなくなってしまう。
ならば――俺の採るべき手は、ひとつ。
「琴音さん! なら、俺は琴音さんの『恋人係』になります!」
頭に浮かんだアイディアをそのまま口に出した。