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悪代官ごっことランチタイム

※ ※ ※


「お昼だー! というわけで今日も彼氏係よっろしくぅー! お弁当作ってきたよー! 今日は誰にも邪魔されることなくふたりっきりで食べよー!」

「お、おう……」


 裏庭に行くと、一香がすでにレジャーシートを敷いてスタンバイしていた。


「ほらほら遠慮しないで上がって、上がって!」

「あ、ああ……」


 以前のメシを恵んでもらう関係とは違う彼氏係になってから初のお弁当タイム。

 これはこれで緊張感があるな……。


「じゃーん♪ さっそく昨日買った冷凍食品を使ってみましたー! 卵焼きはあたし自作だけど!」


 一香が弁当箱の蓋を開ける。


 確かに弁当の中身は昨日俺が買い物カゴに入れた唐揚げやシュウマイが入っている。

 そんな中、ひときわ目を引く黄色く輝く卵焼き。


「本当は全部手作りにしようかと思ったけど、昨日、ついつい買いすぎちゃったからねー! 安いだけあって賞味期限も一ヶ月切ってたし!」


 まあ食えるのなら賞味期限が近かろうが問題ない。

 ただ、気になるのは――箸がひとつだけしかないことだ。


「ぜんぶあたしが食べさせてあげるからねー!」

「お、おおう……」


 ニッコリと笑う一香に俺はタジタジである。


「なーに? 嬉しくないのー?」

「い、いや、そんなことはないぞ。ただ、プレッシャーが」

「ふふふ、よいではないか、よいではないかー」


 楽しそうに笑い時代劇の悪代官のような口調でふざける一香。

 なんというか立場が逆だ。


「ほれほれ、この卵焼きをあたし自ら食べさせてやろうというのだー」

「あーれー」


 悪代官の演技をする一香に会わせて、俺は帯を回される町娘のように振る舞う。


 なにやってるんだろう、俺たち……。

 これではバカップルごっこだ。


「というわけで! オープンユアマウス!」


 なぜ英語。どんな悪代官だ。国際的な悪代官なのか。

 しかし、いつまでもふざけていたら食事が進まない。


 俺は観念して口を開いた。

 そこへ、ひょいっと卵焼きを放りこまれる。


「……もぐもぐもぐ……」

「どう? あたしの作った卵焼き」


 口の中に拡がる、やや甘めの卵焼きの味。


「うむ、うまい。うまいぞ。一香は料理がうまいな」

「へへへ、ありがとー♪ 毎日のように弟と妹のご飯作ってるからねー!」


 やはり一香はギャルっぽい見た目からは考えられないほど家庭的だ。


「ね、ね、今日は琴音さんのところに行くの?」

「あ、あぁ、まぁ……」

「あたしもついてっていい?」

「え、いや、今日は琴音さん病み上がりなんで見舞いもかねてというか……それに許可はとってからじゃないと」


 琴音さんは一香と会いたがってはいたが、さすがに病み上がりは避けるべきだろう。


「うーん、そっかぁー。じゃ、またの機会に」

「うむ、そうだな」

「でも、ちゃんとつきあうとしたら世界観が違うお嬢様より庶民のあたしのほうがいいと思うけどなー!」


 やはり一香は琴音さんをライバル視しているようだな。

 スキンシップ係VS彼氏係。

 なんで俺がその戦いの中心地にいるんだろうか。


「……まぁ、琴音さんの包容力はすごいから、きっと一香も仲よくなれるんじゃないか」

「あたしも姉御力なら負けないー!」


 姉御力。

 ……まぁ、そうだな。一香にはそういう面がある。

 でも、ふたりには争うことなく友情を育んでほしいと思う俺がいる。


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