「大きくなったら、お兄ちゃんと結婚するっ!」
葉菜はしっかり者なだけに、色々と考えてしまうのかもしれない。
そうじゃないとこの齢で入水自殺なんて試みないよな……。
二度とあんなことを起こさないように気をつけないと。
「葉菜、あのな……もし、辛いことや悲しいこと、悩んでいることとかあったら遠慮なく相談してくれよ。ひとりで抱えこまないでほしい」
「う、うんっ……だ、大丈夫だよっ……嬉し泣きみたいなものだからっ……」
「そうか」
「うんっ、心配しないで。もう二度と入水自殺みたいなバカなことは考えないからっ」
優秀な妹には俺の考えていることはすべてお見通しだった。
ほんと、葉菜はよい子すぎる。それに引き換え俺の無能っぷりは。
自己嫌悪になりかけるが、兄である俺がしっかりせねば。
「葉菜のことは俺が絶対に幸せにしてやるからな!」
「……ふえぇっ!? そ、それって、つまり……葉菜がお兄ちゃんと!?」
しまった。これでは誤解を招くような台詞になっているかもしれない。
「え、えっと、これからも一生、葉菜がなに不自由なく暮らしていけるようにがんばるからな!」
「お兄ちゃん、そ、それって……ずっと葉菜を養ってくれるってことっ!? つ、つまり、やっぱり、結婚っ……」
なんでそうなる!
まぁ、幼い頃の葉菜は「大きくなったら、お兄ちゃんと結婚するっ!」と言っていたからな。
あの頃の葉菜も、かわいかった。
めちゃくちゃ、かわいかった。本当に、かわいかった。
大事なことなので三回繰り返した。
「落ちつけ、葉菜。俺たちは実の兄妹だから結婚なんて無理だから。というよりも、俺はそんなアブノーマルな兄ではないから」
「そ、そそそ、そうだよねっ! あはは、葉菜、ちょっとパニックになっちゃったっ!」
普段は優秀そのものなんだが、ときどき思考と行動が暴走するよな、葉菜は。
そこがかわいいところでもあるのだが、兄としては気をつけねば。
「まあ、ともかく……葉菜は俺にとって世界で一番大事な妹だから。それだけは忘れないでくれ」
「はわわわわわっ……!」
なんだか葉菜の顔がすごい勢いで真っ赤になっていっている。
……って、今の俺の発言もちょっとおかしかったかな……。
「お、お、お、お兄ちゃんのバカーーーーーーーーーーーッ!」
なぜか罵倒されてしまう。
「もう知らないっ!」
そして、葉菜は居間から出て行ってしまった。
といっても狭い家。
向かう場所は洗面所だったが。
「葉菜も難しい年頃だな」
というよりも俺がアホなだけなのだろうか。
でも、葉菜が俺にとって大事な存在なのは間違いない。
もし俺ひとりだけだったら借金を返すどころか、それこそ俺が自殺していたかもしれない。
葉菜がいてくれたからこそ、がんばってこれたとも言える。
「……もうシリアスな時代は終わったんだ。これからは幸せにならないとな。というよりも葉菜には絶対に幸せになってもらわないと」
それが兄としてすべきことだろう。
「よし。んじゃ今日は俺がメシを作るか」
頭の悪い俺にできることは限られている。
とにかく料理スキルだけでも磨いておこう。
「とりあえず、生姜焼きでいいか」
レパートリーが少なくて申し訳ない。
でも、葉菜も好きだしな、生姜焼き。
俺は台所へ向かった。
そうして俺たちは兄妹水入らずで今夜も一家団欒(といっても兄妹ふたりだけだが)を楽しんだのだった――。
葉菜「はわわ……! お、応援よろしくお願いしますっ……!」




