地獄でお嬢様~御恩と奉公~
「うぅ……フカフカすぎてソファに座るの畏れ多いよぉ……」
俺も葉菜とまったく同じ感想である。
天井にはシャンデリアがあるしテーブルも絨毯も調度品もなにもかもがみな高級感溢れている。
俺たちのような庶民にとってはいるだけで息苦しくなるレベルだ。
そんな空間で待つこと、しばし――。
「お待たせいたしました♪」
私服に着替えた琴音さんが来た。水色を基調としていて清純さをより高めている。
もうなんか私服姿でもただならぬ高級感を醸し出していて、周囲が輝いて見えるレベルだ。
続いて――。
「紅茶とケーキをお持ちいたしました」
キャスターのついた移動式配膳台を押して凪咲さんがやってくる。
台の上には高級そうなティーポットとカップ。そして、皿に載ったショートケーキ。
「凪咲さん、ありがとうございます♪」
「お嬢様、どうぞおくつろぎくださいませ」
琴音さんはメイドや執事に接するときも物腰が柔らかく礼儀正しい。
偉ぶるところが一切ない。人徳が高すぎる。
凪咲さんは惚れ惚れするような所作で食器とケーキを並べ、俺たちのティーカップに鮮やかな色と芳醇な香りの紅茶を注いでいった。
貧乏な俺たちに紅茶の種類などはわからないが、香りのよさからめちゃくちゃ高級であろうことはわかる。これまでに何度もごちそうになったが、信じられないぐらいうまいのだ。
そして、ケーキも語彙が消失するぐらい美味い。美味すぎる。
俺たちがこれまでの人生で食べたことのあるケーキはなんだったんだというレベルで美味い。
語彙が貧弱なので、美味いしか言えない自分が恥ずかしい。美味い、美味すぎる。
「それでは、お嬢様。わたくしは失礼いたします」
「ありがとうございます♪」
凪咲さんは一礼すると配膳台とともに去っていった。
テキパキした仕事ぶりは、まさにメイドの鑑といったところだ。
「それでは、いただきましょうか♪」
「いただきます……」
「い、いただきますっ……」
俺たちは緊張しながら手をあわせた。
もう何度もお茶会をしているのだが、いまだに慣れない。
ついこの間までは日々の米にも事欠くありさまだったのだから。
葉菜がフォークを手に取り、震える手でショートケーキを口に運ぶ。
「……もぐもぐ……う、うぅう…………お、おいしいよぉぉ……」
あまりの美味さに葉菜は涙を流し始めた。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
慌てる琴音さん。
葉菜は慌てて顔を振った。
「だ、大丈夫ですっ! その……あまりにも美味しすぎて……」
愚妹が心配をかけて申し訳ない。
しかし、ほんと、美味いな……。
俺もショートケーキを口に運びながら、あまりの美味さに泣きそうになっていた。
ここで兄妹揃って泣いていたら、さすがに気持ち悪すぎる。
本当にあの地獄の日々から脱出することができたとは……。
まさに地獄で仏とはこのことだ。琴音さんに生涯忠節を尽くすレベル。
御恩と奉公である。
「おかわりもありますので、遠慮なく仰ってくださいね♪」
あなたが女神か……。
本当に琴音さんは最高である。
地上に舞い降りた天使である。
地獄でお嬢様とはこのことか。仏よりもお嬢様のほうがいい。
「本当に琴音さんは葉菜たちにとって救世主だよぅ……うぅう……」
俺たち兄妹の琴音さんへの忠誠度はこれ以上ないぐらい高まった。




