パーフェクト聖人善人お嬢様
「おふたりは今日は学校ではどんなことがありましたか?」
紅茶を飲み、ケーキをおかわりしたところでお話の時間となる。
「え、えっと……まぁ、たいしたことはなかったんですが……」
促されるまま俺たちは今日あったことを話した。
俺たち庶民の学園生活なんて面白くもなんともないと思うのだが、琴音さんは興味深そうに耳を傾け、微笑み、ときに相づちを打ち、訊ねてくれる。ほんと、畏れ多い。
「ぜひ一香さんというお方に一度お目にかかりたいです♪」
俺の話を聞いて琴音さんは一香に興味を持ったようだった。
「あ、ああ、まぁ、呼べば来ると思いますが……」
ふたりが会ってどういう会話をするのか想像もつかないな。
お嬢様そのものの琴音さんとギャルそのものの一香。
意外と気があったりするのだろうか?
「とても素晴らしい方だと思います。わたくしは、たまたま扇山家という恵まれた家に生まれましたが、一香さんはごきょうだいがたくさんおられる中で道広くんに手を差し伸べられました。そして、生徒会長としての職務もこなしていらっしゃる。お話を聞いているだけでも尊敬の念が芽生えました」
本当に琴音さんは真面目だ。慈愛に満ちているだけではない。
こんな人が政治家になったら、さぞかし日本はいい国になるだろう。
「わたくしは世のため人のために働きたいと思っています。この世から貧困をなくすことが目標です」
いつも語尾に♪がつくぐらい弾んでいる声だが、今は真剣そのもの。
琴音さんは本気でそう思っているようだ。
……そうだよな。そうじゃないと俺たちのような兄妹を助けたりしないよな。
畏敬の念を覚える。
世の中の金持ちや政治家が、みんな琴音さんのようだったらいいのに。
「……うぅ……琴音さん、神様のような人だよぅ……」
「……素晴らしい、素晴らしすぎる……」
葉菜が瞳を潤ませる。このまま手を合わせて拝み始めそうな勢いだ。
というか俺も同じ気持ちだった。琴音さんは完全に女神だ。
もしかすると聖人の転生なのかもしれない。
俺たちの神を仰ぐような眼差しに気がつき、琴音さんは慌てて手を振った。
「いえいえ、わたくしはただの世間知らずですから……! 道広くんと葉菜ちゃんに色々と教えていただいて本当に感謝しております! これからもどうかわたくしのことを教え導いてください。どうかよろしくお願いいたします!」
そう言って、俺たちに向かって頭を下げる。
今度は俺たちが慌てる番だった。
「はわわ!? 頭上げてくださいっ! というか畏れ多すぎて葉菜死にそうですよぅ!」
「ちょ、ほんと、頭上げてくださいっ! というか俺たちだって感謝してもしきれないというか!」
本当に完全に聖人である。
ここまで純粋で善人だと将来詐欺とかに遭わないか心配なレベルである。
困ってる人を助けるのはいいことだが、困ったふりをして善意を悪用する者もいる。
でも、ここまで無防備に良い人だからこそ俺たちを助けてくれたわけだけど……。
「いえ、わたしはまだまだ未熟者です。おふたりのお話からも教えられることが多いです。どうかこれからもご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願い申し上げます」
いやもう、ほんと、パーフェクト聖人である
それに比べて俺たち波畑兄妹のなんと卑小なことか……。
「葉菜、琴音さんのためならなんでもできるよぅ……!」
「俺も、琴音さんのためならなんでもします!」
って、本当に俺たちただの貧乏兄妹だったので琴音さんに教えられることなんてなにひとつないんだけど……。
「いえ、おふたりには自由に過ごしていただければ……。申し訳ありません、かえって、おふたりにお気を遣わせてしまって……」
本当に真面目だ。真面目すぎるほどに真面目だ。
だからこそ、琴音さんは気分が塞ぎがちになって学園に通えなくなっていたのかもしれない。
お嬢様学園なんて、すごい堅苦しそうだしな……。
ただでさえ窮屈そうな場所で、ここまで真面目だと……。
と、そこで――。
ドアがノックされる。




