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『馬車の下』

 いまだオブキュロス村に滞在している中、季節外れの吹雪によって、僕は村に足止めされていた。


 いつの間にか円卓亭では、僕は食事をおごってくれる人ということで、ちょっとした有名人となっていた。

そして、その日も一人の冒険者が僕に話しかけてきた。


「飯をおごってくれるって本当?」

「えぇ……ちょっとした話をしてもらえれば……」

「怖い話……だっけ?」

「そうです」


 話しかけてきたのは、冒険者のダニエラ。

このオブキュロス村を根城に活動している変わり者だ。


「まったく、この吹雪じゃ商売あがったりだからねぇ……あんたに言えばうまい飯が食えるって聞いたからさ」

「どうぞ、好きなモノを頼んでください」


 ダニエラは、ロック鳥の手羽先のローストを頼むと、静かに語りだした。


-----


 この村に生まれて、ずっとこの村を出ていくことを夢見ていたわ。

冒険者になったのだって、この村を出ていくためだったもの。


 だから、ギルドに登録されたその日に、ドレスデネに向かう馬車に乗るはずだったのよ……。

ここは関所のある街だから、各地へ向けての商人キャラバンが馬車が集まる場所だから、行き先は選び放題だったわ。

とにかく一刻も早く、こんな何にもない街を出たい一心で、ドレスデネ行の商人に声をかけたて、いくばくかのお金を払って乗せてもらうことになったのよ。


でも、出発の時……変なことが起こったの。


「もう出発だ! さぁ、乗ったのった!」


商人から声がかかった時だったわ。

背後から聞いたこともない、女の声が聞こえてきたのよ。

「その男は……今夜死ぬ……」

「え?」


振り向いたけど、誰もいなかった。

「乗らないのか? 乗らないなら出発するぞ」

傭兵の男が馬車の上から、私に促した。

その時、また背後から声がした。

「その男も……今夜死ぬ……」


私、その声で動けなくなってしまって……。

「乗るなら早くのっておくれよ」

乗り合いの女性の一人に嫌味を言われても、足が動かないのよ。

「その女は……はらわたを垂らしたまま苦しんで明日死ぬ……」


「ご、ごめんなさい。乗りません……」

「しょうがねぇな……ほら、これは返しておくよ」


 商人は、私の足元に先に渡しておいた運賃を放り投げると、馬車を発進させた。

私は呆然と去っていく馬車を見つめるしかなかった。


「……」


離れていく馬車の下に、明らかに人ではない女が張り付いていた。

笑顔で私を見つめながら……。


-----


 その後、その馬車がどうなったかは知らないわ……。

でも、私はこの村を出る気がうせてしまった。

だから、これからも、ここを根城に活動していくつもりよ。


そう言うと、ロック鳥の手羽先にかぶりついていた。

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