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第三話 お寺の中には何がある?

 ここは、とある田舎の山深くににある大山寺。この日は、和尚さまや坊主さまたち総出で、寺に代々伝わる宝物(ほうもつ)をみんなできれいにする、半年に一度の大事な日です。

 そんな中、寺の裏にある宝物庫から宝物をてきぱき運びながら、一松は右腕で額の汗を乱暴に拭います。


「あ~っ……この作業も随分慣れてはきたけど、夏の暑い中やるのは何とかなんないかなぁ。年末年始とゴールデンウィークにすれば、もう少し楽なんだけれど」

「一松、甘えたことを言ってはいかん!」


 どこからか聞こえて来た和尚さまの声に、一松はきょろきょろと辺りを見回し、程なくある一点を注視します。それは、宝物庫のすぐ隣にある庫裏でした。庫裏の中にある一室で、和尚さまはクーラーの風を全身で浴びながら、三毛猫を両腕で抱きかかえていました。


「暑い中汗水流して働いてこそ、仏様も喜ぶというもの! これも修行じゃ!!」

「いや、まずはお前が働けよ!! 何一人だけクーラーで涼んでんだよ、和尚だろ!!」

「わしは年寄りじゃぞ、ちょっとは気を使うことを覚えんか。お前もそう思うじゃろ、タマ」


 住職はそう言うと、タマという名前の三毛猫の額を指でそっと撫でます。最近大山寺の周りに出没するタマは、三毛猫にしては珍しいオスでした。そんなタマと最近一緒に居ることの多い和尚さまを前に、一松は心の内でツッコみます。


(年寄りじゃぞ、って……いつもは年寄り扱いしたら怒るくせに)


 そんな和尚さまたちを尻目に、一松は手に持った宝物を所定の場所へ移動させると、再び宝物庫へと駆けて行きます。そして、昔の酒蔵を思わせる宝物庫へ入った一松が、残った宝物を探していたその時です。彼の目の前に、突如ツタンカーメンを思わせる金色の棺が置かれていたのです。


「なんっっじゃこりゃああああああ!!!?」


 ピカピカ金色に輝く棺を前に、一松は口をぱくぱくさせながら、その場で尻もちをつきました。彼が以前宝物を整理していた時は、三十年も前に賞味期限が切れた乾パンや、二百年前の僧侶がコレクションしていた春画が詰まった玉手箱など、とんでもない宝物が現れたことはありました。しかし、これほど巨大で価値ある宝物が現れたのは初めてのことです。驚きの余り声も出せないでいた一松の後ろから、和尚さまがゆっくりと歩み寄って来ました。


「何じゃ、まだこんな所に居ったんか。一松、さぼっておらんで宝物を運びなさい」

「い、いや、そんなことより。和尚さま。こ、この宝物はいったい……」


 一松がおそるおそる棺を指さすと、和尚さまは一言、ああ、とだけ言って棺へと近づきました。一松が声にならない声で制止するのも構わず、和尚さまは棺の脇に手をかけます。その瞬間、棺の上半分が開き、中にあるプリンや牛乳、調味料などが一松の視界に入ります。


「これは、ツタンカーメン型の冷蔵庫じゃ。どこに置いたかと思ったら、こんな所にあったのか」

「いやいやいや、こんな冷蔵庫をどうして宝物庫に入れてるんですか!? しかもプリンとか入ってるし!」


 一松が目を飛び出しながら驚くのをよそに、和尚さまは棺――もとい、冷蔵庫の下にある小さな取っ手に手をかけると、ゆっくり扉を開きました。


「ちなみに下側は冷凍庫じゃ、ほれ」

「もうここまで来たら、ツッコむより前に一周回って凄いとしか言えないです……」

「あぁ、そういえば。確かこの近くに置いてあったと思うんじゃが、ええと、どこだったかな……」


 不意に、和尚さまがツタンカーメン型の冷蔵庫を尻目に、宝物庫の中を歩き回りました。一体何を探しているんだろう、と一松が思ったところで、あったあった、と和尚さまが声高に叫びます。一松が目を凝らして和尚さまの手にある物を見ると、一冊のアルバムのようでした。


「あの、それは……?」

「ああ、これはわしの昔のアルバムじゃ。いやあ、懐かしいわい」

「あ、アルバム!? 和尚さまのですかっ!!? あの、な、中を見てもいいですか!?」


 好奇心を抑えきれず、一松は和尚さまに懇願します。和尚さまは一度小さく頷くと、手に持ったアルバムを一松へと手渡しました。一松がそっと古いアルバムのページをめくると、横長の白黒の写真がありました。学者と思しきものを背に、先生らしい男性と三十人ほどの幼い子どもたちが写っています。


「ほお、これはわしの小学校時代の写真じゃな。ほれ、ここにいるのが、ヨシ子さんじゃ」


 和尚さまが指さす場所には、可愛らしい笑顔を見せる少女が写っていました。今と変わらぬ笑顔の名残を前に、一松も、なるほど、と深く頷きます。そして、一松は和尚さまに尋ねます。


「和尚さまは、どこにいらっしゃるんですか?」

「わしか? わしは……ここじゃ」


 和尚さまが指さす先を前に、一松は目を細めました。なぜなら、そこに居たのは幼い子どもとは思えないほど大人びた顔立ちをした男の子だったからです。怪訝な面持ちで、一松は和尚さまに尋ねます。


「え……っ? これ、和尚さま、ですか?」

「そうじゃよ」

「えっ? えっ、え……っ? マジで?」


 一松は、写真の中の男の子と、すぐ側にいる和尚さまの顔を交互に見比べます。その度に、一松の頭は徐々に混乱していきました。


(えっ? これ、同一人物なの……? まさか、そんな)


 おそるおそる、一松はアルバムの次のページをめくります。そこには、中学生と思しき和尚さまが映っていました。ふさふさの髪に、整った容姿。長身でやや筋肉質な身体は、男の一松から見てもかっこいいと感じました。


「どうじゃ、わしも若い頃は女の子にもてたんじゃぞ。今ほどではなかったがな。さあ、次じゃ」

「今ほど、ですか……?」


 一松がさらに次のページをめくると、そこには高校生と思しき和尚さまが映っていました。容姿や体形などはそのままに、名門校の名前が入った校門と、『卒業式』と書かれた看板を背に写っている若き日の和尚さまは、卒業証書の入った黒い筒を手に満面の笑みを浮かべていました。


「えっ、これあの有名な高校じゃないですか。何回か甲子園にも行ってて、東大や京大への進学率も高いっていう……マジで!?」

「いちいち驚かんでよろしい、一松。さて、次じゃ」


 一松がアルバムの次のページをめくると、それは成人式の写真でした。しかし、写真の中には、今とさほど変わらない容姿や体形をした和尚さまが写っていたのです。写真越しでも分かるほどピカピカ輝く和尚さまの頭を前に、一松は思わず、目玉を飛び出すと同時に、鼻水や唾を思い切り吐き出しました。


「えっ、ええええええーーーーーーーーーッッッ!!!??」

「こら一松、何をそんなに驚いておるんじゃ。失礼じゃぞ」

「で、ですが、流石にこれは驚きますよ! 十八歳ぐらいで卒業してから、二十歳の成人式までに、一体何があったと言うんですか! さっきまでの若々しさがつゆほども残ってないんですけど!?」

「……さあ?」

「いやいや、『……さあ?』って! もう少しちゃんと答えてくださいよ! 気になって眠れないです!」

「そう言われても、わしは別に普通じゃったし……」


 飄々とした様子で口にする和尚さまを前に、一松は自分の師でもある和尚さまの謎が深まっていくのを実感しました。この人は本当に、何者なのだろう。そう思った時、一松の足元に何かが転がって来ました。


「ん? 何だ、これ……?」


 一松が黒いボール状のそれを手に取って見てみると、そこには白い紙が貼られ、『爆弾』の二文字が大きく書かれていました。


「ば、ば、ば、爆弾……!?」


 一松は、自分が手にしたものを前にして、全身に鳥肌を浮かべました。普通なら、誰かが宝物庫に置いたいたずらだと思うところですが、ただでさえおかしなものがいっぱい置いてある宝物庫を前に、一松はすぐにそれが本物だと確信しました。爆弾から伸びるひも状の導火線を左右に揺らしながら、一松は震え声で尋ねます。


「お、和尚さま。何で本物の爆弾が、宝物庫に置いてあるんですか……!?」

「わしも知らんわい。誰かがずっと昔に置いたんじゃろ」

「で、ですがこれ、爆発とかしないですよね。とりあえず、危険極まりないんですけど……」

「まったく。爆弾ごときで大げさな奴よのぉ。どれ、わしが持ってやるわい」


 和尚さまは溜息交じりにそう言うと、一松の手から爆弾を強引に奪い取りました。一松が止めるのも聞かず、和尚さまは両手で爆弾を抱えます。少し重い爆弾を前に、和尚さまは腰に力を入れて爆弾を持ちました。

 その時です。



 ブブ~~~~ッ……



 ドォーーーーーーーーーーーーン!!!




 和尚さまのオナラが宝物庫に響いたかと思うと、オナラのガスが爆弾の導火線へと引火し、大爆発が起こりました。

 この爆発により、大山寺の建物はすべて、一瞬にして破壊されました。


 黒い煙が辺りを覆う中、和尚さまと一松は、宝物庫の跡地から顔を出し、身体を起こしました。奇跡的にも、二人は大した怪我もなく、法衣が黒焦げになり、全身煤だらけになっただけで済んだのです。他の坊主さまたちも幸い無事のようでしたが、お寺はすべて跡形も無くなっていました。

 目の前で起こった出来事を前に、一松は思わずその場で呆然としてしまいます。


「ああ……ぼくたちの寺が、一瞬にして……何ということだ」


 立ち尽くしたままの一松の側で、和尚さまがゆっくりと立ち上がりました。仁王立ちの姿勢を取った瞬間、和尚さまの黒焦げになった法衣はみるみる破け、あっという間にブリーフ一枚になりました。その体勢のまま、和尚さまはポツリと呟きます。


「お堂が、ドーン……なんちゃって」



「……もういやーーーーーーッ!!」


 一松の叫び声が、寺中に空しく響きました。これからも、大山寺の和尚さまと坊主さまたちの修行の生活は、まだまだ続くのです。めでたし、めでたし……



「いや、めでたくねえからっ!!」

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