↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

ひだまり童話館参加作品集

砂漠の国の砂時計

作者: 葵生りん
掲載日:2016/02/14


 さぁさ、聞(き)いておくれ。

 これはとお~いとおい砂漠(さばく)のなかにある、ちいさな魔法(まほう)の王国(おうこく)のおはなしだ。



 その国(くに)にはオアシスの水(みず)を守(まも)るように作られた王宮(おうきゅう)があって、せっかちな王(おう)さまが暮(く)らしていたんだ。

 王さまにはみっつの宝物(たからもの)があった。

 ひとつはかわいらしい王子(おうじ)さま。でも王子さまはなんでものんびりマイペースで、毎朝(まいあさ)ターバンを巻(ま)くのだってものすごく時間(じかん)がかって、せっかちな王さまに「はやくせんか!」と怒(おこ)られていたね。

 もうひとつは王宮のいちばん奥(おく)に守られているオアシスから湧(わ)き出る水(みず)。こんこんと湧(わ)き出る水は暑(あつ)くて砂(すな)ばっかりの砂漠(さばく)に暮(く)らす人々の命(いのち)を支(ささ)えていたんだ。

 そしてさいごのひとつは、魔法(まほう)の砂時計(すなどけい)。砂漠(さばく)の昼(ひる)と夜(よる)を操(あやつ)っていて、いちにちに2回(かい)、ちゃあんとひっくり返(かえ)さないと、次(つぎ)の夜(よる)や朝(あさ)がこなくなってしまう魔法(まほう)の砂時計(すなどけい)なんだ。



 さてさて、そんな王国(おうこく)のある日(ひ)、王(おう)さまが王子(おうじ)さまにいったんだ。

「王子や、おまえは7つになったのだから、しきたりに遵(したが)い王家(おうけ)のしごとをさせなければならん」

 ってな。

 水(みず)と砂時計(すなどけい)の管理(かんり)は昔(むかし)から王家(おうけ)の仕事(しごと)と決(き)められていて、7つになるとまずは夕方(ゆうがた)、砂時計をひっくり返(かえ)す役目(やくめ)をもらう習(なら)わしだったんだよ。

 王子さまはずっと前(まえ)から早(はや)くその役目(やくめ)をやってみたかったから、とてもとてもよろこんだ。


 はじめて入る王宮(おうきゅう)のいちばん奥(おく)の部屋(へや)はうっすらと暗(くら)かったが、天井(てんじょう)は星空(ほしぞら)のようにキラキラしていて王子さまはちっともこわくはなかった。

 砂漠(さばく)だから外(そと)はとてもあついんだが、こんこんとわき出(で)てくるつめたい水(みず)のおかげで、その部屋(へや)はひんやりしていて、王子さまは背中(せなか)をぴんとのばしたんだ。


 王子さまはまんなかにあるまるいかこみのついた泉(いずみ)をのぞきこんだ。泉(いずみ)の底(そこ)は見慣(みな)れた砂(すな)でおおわれていた。冷たい水がこぽこぽと湧(わ)き出るたびに、砂(すな)に潜(もぐ)ったへびのまたたきのように動(うご)いていた。この水(みず)は泉(いずみ)の壁(かべ)に作られた大きな獅子(しし)の口(くち)から水路(すいろ)を通(とお)り、王宮(おうきゅう)の庭(にわ)にある貯(た)め池(いけ)にためられ、人々は好(す)きなだけ持(も)って帰(かえ)ってよかったんだ。


 おっと、話(はなし)がそれちまったかな。魔法(まほう)の砂時計(すなどけい)の話(はなし)にもどすが、泉(いずみ)よりも少(すこ)し奥(おく)のほうにあった。

 大人(おとな)とおなじくらいの背丈(せたけ)のある大(おお)きな砂時計(すなどけい)だが、くるりとした二重(ふたえ)の円(えん)が動(うご)く枠(わく)に入れられているから7つの王子さまでもひっくりかえすのはかんたんな仕事(しごと)だった。


 はじめての役目(やくめ)のときは、王(おう)さまが見守(みまも)ってくれた。

 王子(おうじ)さまは魔法(まほう)の砂時計(すなどけい)の砂(すな)がすっかり落(お)ちきるのを待(ま)つあいだ、砂時計(すなどけい)をじっとみつめた。

 まんなかのくびれた部分(ぶぶん)より上(うえ)には太陽(たいよう)のようにまぶしい金(きん)の砂(すな)、下(した)には星(ほし)のような銀(ぎん)の砂(すな)が入(はい)っていて、不思議(ふしぎ)なことに金(きん)の砂(すな)はくびれを通(とお)るあいだに銀(ぎん)の砂(すな)に変(か)わる。

 それはとてもきれいで、王子(おうじ)さまがうっとりと見(み)つめているあいだに金(きん)の砂(すな)はすっかり銀(ぎん)に変(か)わってしまった。


「ほらほら、はやく返(かえ)すのだ! 夜(よる)が遅(おく)れてしまうのだからな!!」


 せっかちな王さまはいつだって「はやく はやく」と急(せ)かすので、王子さまはドキドキしてしまうんだ。そのときも王子さまはドキドキしたが、くるりと砂時計(すなどけい)を回(まわ)した。

 すると上(うえ)になった銀色(ぎんいろ)の砂(すな)がさらさらと落(お)ち始(はじ)めた。銀(ぎん)の砂(すな)はくびれの部分(ぶぶん)を通(とお)ると今度(こんど)は金色(きんいろ)の砂(すな)に変(か)わっていったんだ。

 サラサラ キラキラ

 それはとてもきれいで、王子さまはすぐにこの仕事(しごと)が大好(だいす)きになった。



 王子さまは一日(いちにち)も欠(か)かさずにのんびりと砂(すな)が落(お)ちきるのを待(ま)ってから砂時計(すなどけい)をひっくり返(かえ)して、3年(ねん)が経(た)った。

 10になった王子さまに、王さまはいったんだ。

「大事(だいじ)な役目(やくめ)を、よくやっているな。おまえも10になったのだから、しきたりに則(のっと)り魔法(まほう)の砂時計(すなどけい)の管理(かんり)を朝(あさ)も任(まか)せることにしよう」

 って。

 それから王子さまは朝(あさ)と夕(ゆう)、まいにちまいにち砂時計(すなどけい)をひっくり返(かえ)した。のんびり屋(や)の王子さまだったが、一度(いちど)だって砂時計(すなどけい)をひっくり返(かえ)す時間(じかん)に遅(おく)れたことはなかったさ。ゆっくりやってきて、砂(すな)が落(お)ちきるのをじっと見守(みまも)ってから砂時計(すなどけい)を返(かえ)していたからな。

 王さまはいつもそんな王子の後(うし)ろで「いそがしい、いそがしい」と言(い)いながら泉(いずみ)の水(みず)を見(み)にきて、王子さまのことはちらりとも見(み)ずにすぐに他(ほか)の仕事(しごと)のために帰(かえ)っていった。

 食事(しょくじ)のときも、王さまは味がわかるのかな?って王子さまが思(おも)うくらいぱぱっと食(た)べて行ってしまうし、寝(ね)るときも寝床(ねどこ)についたらすぐに寝(ね)てしまうし、朝(あさ)がきたらさっと起(お)きて「いそがしい、いそがしい」。

 それは見(み)ている王子さまのほうが目(め)がまわるようで、だから王子さまは王さまがそのうち目(め)をまわして倒(たお)れてしまうのじゃないかと心配(しんぱい)になったんだ。


(父上(ちちうえ)をすこしゆっくり休(やす)ませてあげたいな)


 王子さまはそう思(おも)って夕方(ゆうがた)に砂時計(すなどけい)を返(かえ)す時(とき)、ほんのすこし斜(なな)めにしておいた。これで砂(すな)が落(お)ちきるのがすこしだけ遅(おそ)くなるはずだってな。そのぶん、王さまはゆっくり眠(ねむ)れるだろうと考(かんが)えたんだ。

 そしてそのとおりに夜(よる)は長(なが)くなった。すこぉしだけどな。

 王さまは夜(よる)が長(なが)くなったことに気(き)がつかずにいつもよりも長(なが)く眠(ねむ)り、王子さまは自分(じぶん)の仕事(しごと)にとても満足(まんぞく)した。


 のんびりしている王子さまだったが、砂時計(すなどけい)の仕事(しごと)のほかにも勉強(べんきょう)だってあるし、遊(あそ)びたいことだってある。だからもっと昼(ひる)が長(なが)くなったらいいなと思(おも)った。まいにちせかせか働(はたら)いている王さまだって、もっと昼(ひる)が長(なが)くなればゆっくりできるのかもしれないと考えた。

 だから王子さまは朝(あさ)、砂時計(すなどけい)を返(かえ)す時(とき)にすこしだけ斜(なな)めにしておいた。

 その日、王さまは仕事(しごと)のあとで、すこしだけ時間(じかん)があったので、王子さまといっしょに、ネコと遊(あそ)んでくれたんだ。

 そうしてのんびりしたいし、王さまにものんびりしてもらいたい王子さまはすこしづつ昼(ひる)も夜(よる)も長(なが)くしていった。


 王子さまはしらなかったんだ。

 砂漠(さばく)の昼(ひる)が長(なが)くなるということは、じりじりと太陽(たいよう)が照(て)りつける時間(じかん)が長(なが)くなるということ。太陽(たいよう)が照(て)りつける時間(じかん)が長(なが)くなれば、そのぶん貴重(きちょう)な水(みず)が空気(くうき)に溶(と)けて消(き)えてしまうこと。

 砂漠(さばく)の夜(よる)が長(なが)くなれば、盗賊(とうぞく)たちがその闇(やみ)に忍(しの)んで盗(ぬす)みをはたらきやすくなること。



 王さまはついに貯(た)め池(いけ)の水(みず)が少(すく)なくなっていること、夜盗(やとう)が増(ふ)えていることに気(き)づいた。そして砂時計(すなどけい)が斜(なな)めになっていることにも気(き)づいて、カンッカンに怒(おこ)った。

 王さまは泉(いずみ)と時計(とけい)の部屋(へや)に王子さまを呼(よ)んでこっぴどく叱(しか)りつけた。怒(おこ)られた王子さまはおそろしくなって泣(な)いた。

「ごめんなさい。ごめんなさい、父上(ちちうえ)。ボクは父上(ちちうえ)がゆっくり休(やす)めたらいいなって思ったんだ。それから、いっしょに遊んでくれたり、一緒にのんびりしたかったんだ――」

 王子さまは泣(な)きながらそう、打(う)ち明(あ)けた。

 すると、それをきいた王さまは、王子さまといっしょになって泣(な)きはじめたんだ。「すまなかった」と言(い)ってね。



 それがなぜかは、王子さまにはわからなかったんだけど――。




 でも、な。




 さぁさ、よぉく聞(き)いておくれよ!

 これはとお~いとおい砂漠(さばく)のなかにある、ちいさな魔法(まほう)の王国(おうこく)のおはなしだ。


 その国(くに)にはオアシスの水(みず)を守(まも)るように作られた王宮(おうきゅう)があって、のんびりした王(おう)さまが暮(く)らしていたんだ。

 王さまにはみっつの宝物(たからもの)があった。

 ひとつは心優(こころやさ)しい王子(おうじ)さま。

 もうひとつは王宮のいちばん奥(おく)に守られているオアシスから湧(わ)き出る水(みず)。こんこんと湧(わ)き出る水は暑(あつ)くて砂(すな)ばっかりの砂漠(さばく)に暮(く)らす人々の命(いのち)を支(ささ)えていたのさ。

 そしてさいごのひとつは、魔法(まほう)の砂時計(すなどけい)。砂漠(さばく)の昼(ひる)と夜(よる)を操(あやつ)っていて、いちにちに2回(かい)、ちゃあんとひっくり返(かえ)さないと、次(つぎ)の夜(よる)や朝(あさ)がこなくなってしまう魔法(まほう)の砂時計(すなどけい)なんだよ――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[良い点] りんさん! これは、何回も読み返し、色々と考えさせられましたよ! 軽快な描写と今にも手に届きそうな情景は、いつもながら感心させられてしまうところですが、今回はなぞかけと云いますか、そんな…
[良い点] 吟遊詩人を囲んで聞き入る一人になったかのような気分でした。説話的な内容もいかにも口承文芸っぽくてわくわくします。 王子さまにはわからなかった王さまの涙。 でも時代は巡り……だと思ったので…
[良い点] 砂漠の国の砂時計 拝読させていただきました。  砂漠の国の昼夜をコントロールすることができる砂時計の >銀の砂はくびれの部分を通ると今度は金色の砂に変わって……  というのが、幻想的で美…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。