別視点 ハヴェルの孫?
カグマ戦前の地下室特訓中の出来事です
この前北西の漁村からの依頼を届けにおじいちゃんの所に行ったら喋るクレイヴが居た。おじいちゃんが警戒も何もしてないから新しい魔物なんだと思った。
「レヒドちゃん。お疲れ様。今回は北西の漁村からの依頼だって?大変だねぇ」
クルベの村の住人達はとても気さくに話しかけてくれる。今話しかけて来てくれた食堂のおばさんだってそうだ。皆優しい。
「でも・・・私は・・・」
中途半端な都会で産まれ、猜疑心を抱きながら成長し、人を疑う事を止められない捻じ曲がった性格になってしまった。
今だってそうだ。労いの言葉を投げ掛けられているのに嘲笑われているように聞こえてしまう。
「私はダメな子だ・・・」
原因は学校だ。ちょっとした読み書きや魔法基礎、社会常識、マナー等を学ぶ場所なのだが。それを隠れ蓑に行われているのが陰湿ないじめである。自ら学校をやめる子は毎年少なくない数が居る。その子達がどうなるかは私にはわからない。だが、学校側はそれを隠蔽し、あたかもその子が問題を起こし自主的にやめていったという風に情報操作をしている。
勿論人の口に戸は立てられない。学校側がそういう事をしていると言うのは噂となってそこらじゅうを飛び回っている。
そんな環境に私は嫌気が差した。卒業すると同時に往復行商の人に用心棒として雇ってもらって離れた街に。更にその報酬でクルベまでやって来た。故郷を出る時に両親から色々貰っている。遠距離での会話を可能にするよくわからない水晶もその一つだ。
「あぁ、おかえりレヒド。もうすぐ晩御飯できるぞ?」
「うん」
力には自信があった。剣を五本ほど自由自在に操る事のできる強力な力だ。
でもそれは軽々と踏みにじられた。
「あーくそっ。まだまだだな」
アガマと名乗るクレイヴだ。名前はおじいちゃんから貰ったらしいけど。
彼は私が貸した剣を何とも無しに複製して十本同時に操っていた。
本人はまだまだと言っているが、彼の目の前にあるカグマを模していると思われる膨大な量の魔力の塊は数秒でズタズタにされては元通りになる。あれだけの事をするのにどれだけの魔力を使うのか想像すらつかない。
「ん?レヒド。居たのか」
「ううん。ちょっと前に来た所。もうすぐで晩御飯できるよ」
「そうか。すまないな。もう少し詰めたいから出来たら呼んでくれ」
「うん、わかった」
暗に邪魔だと言われている。そう思った。だから素直に従った。曲解だと思う。でもそう思ってしまう。
「あぁ、レヒド」
「なに?」
「見ていたいなら見ていて良いぞ」
私の技量は彼に遠く及ばない。技術を盗み少しでも強くなるチャンスだ。
私は強く成りたかった。強くなって一人でも生きていける、強い人間に成りたかった。
「じゃあ・・・お言葉に甘えて少しだけ」
「おう。どんどん見て盗んでけ?」
「え?」
見透かされていた?彼に?何故。
「あれ。俺の華麗なる十刀流見ていかないの?」
「十刀流?」
「ほら。十本までならある程度の機動性を持たせつつ単純ながらも同時操作ができるからな」
彼は何の気なしにそう言い放った。私のできない事を平然とやってのける彼の姿は、今の私には眩しく見えた。
私が呆けていると彼は大量の魔法陣を敷き始めた。対になっている魔法陣がなんの魔法陣か、魔法適正の低い私にはわからなかった。でもそれの一つ一つがとてつもない量の魔力をもっているのだけはわかった。
「それは?」
「ちょっと拝借したすんごい・・・魔法?」
「なんで疑問形?」
「初めて使うから」
「大丈夫なの?」
「でぇじょうぶだなんとかならぁ!」
いくつも展開した魔方陣のほとんどが魔力の圧縮を開始した。空気中に溶け込んでいる魔力を吸い取り、一つを除く全てが展開直後よりも膨大な魔力を帯びる。
「あ、やば」
「え?」
「ちょっと・・・威力強すぎ」
「えぇ!?」
まずい。これだけの魔力が術者の制御を離れ暴走したら間違いなくクルベの村には大穴が開くだろう。
本来魔法とは術者の許容魔力を越える魔法を使用するには少なくともその魔法の魔力量に達する許容魔力分を頭数で稼ぐものだ。まして広範囲形や一点集中高火力形の魔法は必要な魔力量が多く、どんなに高名な魔術導師でも一人で起動制御発動するのは難しい。
それを彼は一人で制御している。誰の補助もなく。未だ暴走させる事なく。
「流石にこれは無いな。うん。保留」
彼がそう言うと魔方陣から少しずつ魔力が漏れ出て、空気中へ再度溶け込んでいく。吸収した魔力を空気中へ放出する事で魔方陣に含まれていた魔力が減っていく。それに伴い魔方陣から不要な陣が少しずつこぼれ落ちていく。濃い魔力光が揺らめく中から魔方陣の欠片が降り注ぐ光景は少し幻想的でさえあった。
「ふーん・・・これは奥の手入りだな」
「奥の手入り?」
「この場所じゃ使えたもんじゃないからいざって時の為にとっとくのさ」
「他には何があるの?」
単純に興味本位からくる質問だった。この時既に彼に対する猜疑心は薄れていた。言葉の裏を読もうとせず、真っ直ぐに話を聞く。両親とおじいちゃん相手位でしかこうならなかったのに。
私は知らない間に、彼に魅せられていた。
「他にねぇ・・・奥の手は隠しておくからこそ奥の手だって言うが・・・まぁ特別に見せてあげよう!」
「ありがとう!アガマ!」
「じゃ、まずはコレだ」
彼は複製した剣と魔方陣を用意する。凝視していると魔方陣がみるみるうちに消えてしまった。
「まずはこの剣の普通の威力だな」
彼はそう言って複製した剣をカグマを模した魔力塊に向かって飛ばす。トスっと言う軽い音がして刃渡りの半分ほどまで刺さる。
「次に奥の手の威力だな」
同じように飛ばす。同じようにトスっと刺さったかと思うと魔力の暴走が起こり爆発する。剣が刺さっていた場所から私の片腕程の半径が抉れる。
「今回の標的が魔力だったから威力が若干上がったけど本番だともう少し威力が下がると思うんだよなぁ」
彼はそう言うが、魔力の暴走を利用した攻撃方法など聞いたことがない。しかも彼のそれは暴走その物の制御をしていた。
指向性を持たせた魔力暴走による爆発。この攻撃をするのにどれ程の技量が必要になるのかわからない。
しかもこの攻撃の厄介な所はどの剣が魔力暴走を起こすのか判別できないことだ。おそらく先程の魔方陣をエンチャントしていたのだろう。目視でも魔力感知でも判別は非常に難しい。
「爆発させると魔力の回収ができないのが難点だがなぁ」
「これが奥の手?」
「そ、奥の手その一」
「じゃあまだあるの?」
「あぁ」
「見せてくれたりする?」
「う~む、これ以上はなぁ~」
きっと見せてはくれない。
「しょうがないにゃぁ・・・いいよ」
「え?」
本人が奥の手は隠しておく物だとか言ってるくせにその奥の手を私みたいなやつに見せても良いと思っているのだろうか。もしかしたら奥の手に思えるが本当の奥の手ではない何かかもしれない。
どのみち、見ておいて損は無いだろう。
「じゃ、これ付けてね」
彼から手渡されたのは黒い眼鏡のようなものだ。なんでもサングラスと言う物で日差しを遮ったり強烈な閃光に対する防御力となりえるアイテムらしい。
「じゃ、行くよ?」
彼がそう言ったとたん音と光が地下室中に溢れかえる。
「え?」
自分の声さえ聞こえない程の耳鳴りと膨大な光の奔流に、私は意識を手放してしまった。
レヒドが気絶した後すぐにアガマが上へ運んで行きました
介抱したのはハヴェルです




