9全力で応えるがよい
半魔物は筋肉がある魔物みたいなもんです
まず様子見に魔力剣を三発。あっさり弾かれる。更に三発。これも弾かれる。
「その程度か」
「さぁ、どうだろうな」
こんどは全力で後退する。もちろんカグマは追跡してくる。速度では負けているが機動性ならばギリギリこちらの方が上だ。
「窮したか」
「はなっから正面で殴りあう考えなんて持ってねぇよ」
カグマから逃げながらオベリスクの魔方陣を展開する。これで抜ければ上々だ。
「バスタービーム!」
口にするのは少し恥ずかしいがこうしないと発動しないのだ。仕方がない。
魔方陣から発射されたバスタービームが空を切る。避けると言うことはそれなりの危険性を感じ取ったと言う事だろう。そうでなくては困る。
逃げ回りながら先程放った魔力剣を回収しきる。その数八本。これに二本新たに作りその内六本に先程展開していたステルス魔方陣をエンチャントする。
「避けるんじゃねぇぞ!」
「そう聞いて避けぬ馬鹿が居ると思うのか!」
うむ。単純でよろしい。四本を牽制にだして残りの六本は漂流させた様に見せかける。エンチャントしたのは牽制に二本、漂流に四本。牽制の魔力剣が弾かれる。エンチャントされた魔力剣に気づかずに弾こうとして魔方陣が俺の制御を離れて暴走して爆発する。
「な!?」
気づいたが最後だ。魔力剣と侮り捨て置いた六本が後方から襲う。エンチャントした物は翼へ、してない物は高質化していない胴へ命中させる。魔力の糸を切ると制御を離れて暴走し、爆発する。
因みにエンチャントした魔方陣は全てバスタービームを元にして魔力を放射させる際に指向性を持たせる筒を無くしたタイプで、簡単に言うと空飛ぶ機雷だ。
「やったか?」
爆風に巻き込まれぬように離れていたので直ぐに確認ができない。油断はせずに新たに魔力剣を作り直しておく。
カグマが羽を打ち爆煙を払う。直接魔力剣が刺さった胴体には傷が付き高質化された翼には少しヒビが入っている。それでも依然として余裕を持ち飛行している。
「ずいぶんと余裕のある回避だったな」
「余裕?違うな。これは油断だ」
そんな会話を交わしつつじりじりと後退する。マズイ。ろくな準備もできないうちから奇襲されたので少々準備不足な上に少し魔力が足りない。このままだと飛ぶことすら覚束なくなる。先程のタイミングで結晶を使っておけばよかった。隙を見て使うしかない。
「先程の技。見事であった。しかし狙うのならば翼ではなく翼以外にすべきであったな」
「そうだな。俺も今そう思って後悔してる」
エンチャントした魔力剣は暴走爆発させると魔力の回収ができない。先ほどの六本が奥の手のひとつだったのだが。結晶を二個使えばもうひとつの奥の手を使うこともできる。しかし体内含有の魔力すらも削ることになる。それにスピードが負けているので陣地展開しようにも誘い込みの為にいろいろとする分魔力が足りない。
「貴様の力を認め、敵として認識してやろう。我が名はカグマ。カグマ・ヴァルヴェス。神より力のオベリスクを授かりし者。貴様の名前を答えるがよい」
「・・・アガマだ」
「アガマか・・・良い名前だ。では本気をだしてやろう。全力で応えるがよい」
カグマが加速する。薄緑の光を引き、容易に音速を突破する。どうやら最初に奇襲された時の加速のようだ。
「うお!?」
「その程度か!先程の威勢はどうした!」
その速度は肉体を持つ者が耐えられる速度ではなかった。だが音速を超えていてもソニックウェーブは発生していない。何らかの方法で外への影響を無くしているのだろう。
「仕方が無いな・・・奥の手その二!」
「なに!?」
奥の手その二。バスタービームの原理を応用し、膨大な光量を発生させる。その光は網膜を焼き、日光に耐性の無いものは灰になる程の光の奔流だ。ぶっちゃけただの閃光弾だがこちらを警戒し注目しているカグマは良い実験体になってくれた。
「がぁぁぁぁ!目!目がぁぁぁぁ!」
今のうちに結晶を三つ使い魔力の過剰回復をする。これで体に負担はかかるもののカグマが見せてくれた魔力推進を試す事ができる上に、飛んでいるとはいえ碌に目も見えない状態のカグマの周りに陣地展開をするには十分であった。
「小ざかしい真似を!」
カグマが自らの目に鋭い鉤爪を刺し、抉り出す。その間に俺はカグマの周囲を旋回しつつステルス魔方陣を大量に展開していく。
「ンンンンオオオオォォォォ!」
自らに苦痛に耐えつつ魔力の循環を集中させて目の回復をしているようだ。なんという精神力だろうか。俺には真似できないししたいとも思わない。
だがいくら体のダメージを回復しようと最早趨勢は決したといえる。
「陣地展開完了、魔力循環開始、制御開始、対象捕捉、射角最適解へ調整、流路開放、照射開始」
先程の閃光弾程では無いがそれでも負けない程の光の波があらゆる角度からカグマを貫く。なんというか自分でやっておきながら少々酷いやり方だと思った。閃光弾で目くらましをして足を止めた隙に回復して全力の攻撃をオールレンジで叩き込むとか戦術としてどうなんだろうか。いや、そういう事に対策していない方が悪いって事にしよう。うん、戦いに卑怯も正義も無い。
光の残滓は対になっている吸収の魔方陣で回収する。カグマを貫いた時にかなり減衰してしまったが、それでも今の俺には必要な魔力だ。
「私を落としただけで倒せると思うなよ」
その声に余裕はなかった。ただ、戦いを楽しむ感情が強く籠った声だった。
不意に左から強い衝撃が襲う。魔力の装甲が砕け、肉体に直接的なダメージが入る。
「がっ!?」
体制を立て直す暇も無く二撃目を食らう。避けようのない攻撃。カグマは確かにバスタービームに貫かれて落ちたはずだ。それなのに奴は空間を掴みそこにいる。翼を畳み、悠然と立っている。
「私を翼に頼りきった鳥共と一緒に考えてくれるな」
三回目の攻撃がくる。咄嗟に魔力で腕を作り上げ、防ぐ。鋭く抉るような蹴りをなんとか受け止める。使うつもりのなかった奥の手その三。魔力で構築し、物理結界を張った腕だ。なんとか弾き返して距離を稼ぐ。流石に一蹴りでこの距離を詰められる事は無いだろう。ついでにエンチャントした魔力剣を三本。していない魔力剣を七本の計十本を作り上げる。さらに結晶を使い魔力を回復しておく。
「またそれか」
「残念ながら他に手が無いものでな」
事実ではない。実際手が無いわけではない。ただ、できれば使わずにいたいだけだ。
「格上の相手に出し惜しみとは。感心しないな」
これが鎌かけなのか本心なのか。それとも見透かされたのか。俺の預り知る所ではないが、隠し玉がまだあるのは確かだ。用心されているのだろう。
「行け!」
魔力剣を各方向に飛ばす。様々な角度からカグマに向かって飛行する。そのほとんどが躱され、魔力糸を切断される。二本刺さりはしたもののどちらもエンチャントされていないものだ。
残りは全て叩き落とされ暴走し、爆発する。こうなると魔力の回収ができない。
「剣に膨大な量の魔力を含有させているのか。面白いな。だがそれまでだ」
今、カグマの背中に四本の魔力剣が刺さっている。その四本全てにはまだ糸がついている。これは良い。
ステルス魔方陣を応用して雷撃の魔方陣を作り上げる。その数四つ。糸に乗せて魔力剣まで魔方陣を走らせる。
「少し地味だが、食らいやがれ」
パシンと一際大きな音が響く。強力な雷撃魔法を直接皮膚下に流し込んだのだ。体内を四本の雷撃が駆け巡るのだ。外傷は無いものの、内側はボロボロだろう。
カグマは今度こそ煙を吐きながら墜ちていく。




