ハロウィン
「もう、ジニアス様! それは、子供たちにあげる分です!」
コゼットが非難の声を上げる。
ジニアスは、慌てて手を引っ込めた。
テーブルの上で、かぐわしい香りを立てている焼き立てのクッキーは、まだ温かい。
「一枚くらい、いいじゃないか」
つい、そう言ってしまう。
「ダメです! そういって、昨日、作ったクッキー、フィリップ様と食べてしまったではありませんか!」
「いくらハロウィンでも、監察魔術院に来る子供なんて、そうはいないと……」
「今日は、魔術学校の子供たちが遊びに来るのです! 授業の一環ですけど」
コゼットの言葉に、ジニアスはしぶしぶ頷いた。
魔術学校の子供たちは、あくまでも社会見学として訪れるのである。
日付が、ハロウィンだからといって、お菓子をくれてやる必要はない……と、思うのだが、それを言うと、あまりに狭量だ。
「ハッピーハロウィン! いい匂いだね!」
ひょいっと、扉を開けて、フィリップが入ってきた。
「うわぁ、おいしそう! 一枚味見してもいい?」
「ダメです」
コゼットはそう言って、クッキーの入った皿をテーブルから引っ込めた。
「お菓子をくれないと、イタズラしちゃうぞ」
「イタズラするなら、お昼はありません」
コゼットの言葉はにべもない。
「……腹減った。昼飯は何?」
クッキーから目をそらしてそう言ったジニアスに、くすり、とコゼットは、笑った。
「今日は、パンプキンスープをつくりました。デザートにパンプキンパイもありますよ」
「わーい。ハッピーハロウィンだ!」
「……フィリップ、お前、自分も、食べること前提だな」
ジニアスは思わず肩をすくめた。
「みんなで食べたほうが、美味しいですよ。今日はお義父さんもくるはずです」
ニコニコとコゼットが笑う。
悔しいけど、コゼットのほほえみの前では、ジニアスは無力だ。
昼の研究室は、甘い香りに満たされる。
「ハロウィンって、大人がお菓子を食べる祭りではなかったような?」
訪ねてきたサネスがボソリと言ったが、ジニアスとフィリップは聞こえないふりをした。