2章 魔法 12-経験則
驚いて言葉に詰まる。
羽売りは羽を拾う仕事だ。
少なくとも私はそう認識して家業を見てきた。
「肉…は無いと思います…どうしてですか?」
「いえ、随分と使い込まれていたようなので気になって。」
「記憶が曖昧ですが、これは護身用だと言っていたような…使っているところは見たことがないです。」
「そうですか。それにしては…いえ、余談でしたね。
そうだ、この金具をどうぞ。これで腰に付けられるようになるので、護身用ならサッと出せるようになりますよ。以前試作したものなので貰ってください」
そうして金属の輪のようなものを貰った。
鞘を吊るし、試しに抜いてみると
なるほど便利だ。
常に片手で抜ける範囲にナイフがあるのは安心感がある。
「ありがとうございます。」
「いえ。えっと…それでその…」
まごつくニケル。
「その、こんな事を急に言われても困ると思うのですが僕、テイラさんの事をもっと知りたくて。テイラさんの事を好きになってしまいました。」
真っ直ぐなニケルに申し訳なさが出る。
「ごめんなさい。もう私はこの街を出なければいけなくて…」
これは思いを断っているのか、
回答から逃げているのか、自分でもわからなかった。
確固たる言い訳が思考を放棄させていた。
卑怯だ。
「ええ、そうですよね。
きっと迷惑な話だろうと昨晩までずっと悩んで…」
予想していたかのように、ニケルは驚きもせずに続けた。
「それで、思いついたのですが、もし嫌でなければ、銀行の伝言サービスで文通をしていただけませんか?
それならたまに銀行に立ち寄った際に見てもらえるだけでどこの国でも受け取れますから」
「な、なるほど…」
「気が向いた時で構いませんので。」
これは一本取られたと思った。
“嫌でなければ“ “気が向いた時に“ と言うのは断りづらい。良い交渉だ。
「ふふ、わかりました。」
「や、やった!」
ニケルはパッと表情を明るくした。
それから旅の行き先について情報交換をしたり、有名な鍛治街や鉱山についてなど、ニケルの持つ知識をいくらか譲ってもらっているうちに
遠くからデイジーの声が聞こえてきた。
「おーーい!テイラー!」
親父さんとミリアも一緒で、3人で小走りしてくる。
「はぁ、はぁ、ニケルさんとの話は終わった?」
「ええ。はい。」
「良かった!あのね、親父さんに教えてもらってさっき知ったのだけど、ここの街のお祭りは本番が夜じゃなくて昼過ぎなんだって!」
「えっじゃあもう!」
「そう!時間がない!」
パッと街の中央方向を見ると、いつの間にか人数が多い。
しまった。
「いやぁまさか祭りを避けてるとは知らなくてすまんかったなぁ」
親父さんは申し訳なさそうに謝ってきた。
ミリアも「まだお時間あるものだとばかり!」
とぷりぷりしている。
緊張と不安が高まりまた頭痛がする。
「大丈夫よテイラ。最後の買い物も済ませてきた。このまま直ぐにここを出ましょう。」
ドン!
と太鼓の音が聞こえてきた。
次いで歓声が聞こえてくる。
私はデイジーと走り出した。
門まではどうしても中央広場の近くを通ることになる。
急がなければ。
2人で必死に走った。
会場が近づくと、人々の声が大きくなる。
「わぁぁあ」
「きゃー!」
「うわぁぁあー!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛!」
声の質が変わっていくのがわかった。
歓声だったものは、次第に悲鳴や怒号に近いものへ。
恐怖で心臓が跳ねる。
会場に一番近い大通りを横切る瞬間、
遮蔽物のないクリアな怒号が耳に届いた。
一瞬強張った身体を奮い立たせ、走り続ける。
次第に小さくなってゆく声に、心臓の音の大きさと揃う頃門へと辿り着いた。
門番が訝しげにこちらを見て聞く。
「出立ですか?これから祭りが始まると言うのに」
デイジーはサッと前に出て答えてくれた。
「ええ、急いでいまして。祭りだけが旅の目的ではありませんから。」
「それもそうですね。残念ですが、またいらした際は祭りも楽しんでいってください」
「はい。その時は。」
「では」と短く切り、門が開けられた。
2人でそこを通る。
向こうからも深緑色のマントの旅人が入ってきて、すれ違い、
深緑色の旅人は中へ。
テイラとデイジーは外へと交換された。
門が閉まると、静かな秋の風が草木を波うたせていた。
遠く遠く、海まで続くその草原へと2人は歩き出した。
門を挟んだ直ぐ横で、深緑色の旅人は尋ねる。
「遠くから賑やかな声が聞こえてくるね。」
「ええ、今日はこの街1番の祭りの日ですから。」
そう言って地図を取り出し
「この道を通れば中央へ着きます。先に宿を探したいなら、こちらの道を通って南側の、鍛冶屋の多いあたりが安くてまだ空いていると思いますよ」
深緑色の旅人は言われた通り鍛冶屋まで着くと、近くの人に尋ねる。
「こんにちは。僕は旅人なのですが、今日は祭りの日だと聞きました。ただ、ここへ来る途中、随分と怒号が飛んでいるように思えたのだけれど、何かあったのですか?」
聞かれた青年と娘と親父さんが答える。
「あぁそれか。
なあに、ここは鍛治の街だからね、威勢を競っているのさ。
昔は殴って強さを競っていたんだが、怪我しちゃ仕事に差し支えるんで、こうやってお互い大きな声で威嚇し合い、1番強そうなやつに投票するようになったのさ。」




