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第19話 相談

 15時、俺はある場所に向かっていた。


 昨日感じたことを、親友に話すためだ。

自分一人では、この違和感が本当なのか判断できない。


 アパートから徒歩で10分。人通りの少ない道を抜けた先に、その店はある。


 喫茶「シャルキー」

 高校と大学時代の同級生で、親友の緑山洋平が営んでいる店だ。


 カラン!

 と扉のベルが鳴る。


「よぉ!久しぶりだな、アカケン。いらっしゃい」

 俺のあだ名、アカケンを名付けたのも洋平だ。


「おう。久しぶり」

 変わらない軽い調子に、少しだけ肩の力が抜ける。


「今日は洋平に話したいことがあってさ……」


「相談事か?まぁ、俺で良ければいくらでも聞いてやるが」


 そのとき、奥の厨房から声がした。

「あっ!いらっしゃい赤石くん」


 顔を出したのは、この店の店員ーー桃西さん。



 桃西楓さん、29歳。

 そして、実は俺のアパートの5号室の住人でもある。


「こんにちは、桃西さん」


「赤石くん、いつものセットでいい?」


「はい、お願いします」


 いつもの紅茶とガトーショコラのセット。

 この落ち着いた空間は、昔から変わらない。



 ーーそして俺は、今までのことを全て話した。


 名前の言い間違い。

 料理配信と同じタイミングでの訪問。

 そして、昨日のASMR。

 もちろん、個人が特定される話はぼかしている。


 話し終えると、洋平は腕を組んで唸った。

「なるほどな……」


 ーー少しの沈黙。


「で、アカケン、お前の結論は?」


「……アパートの住人が、『クロマリンク』のメンバーなんじゃないかって思ってる」


「ふーん」

 洋平はあっさりと頷く。


「俺は五分五分だな」


「五分五分?」


「ああ。話聞く限り、確かに怪しい。でも偶然で片付く範囲でもある気がする」


「……やっぱりそうか」

 自分でもわかっていた答えに、少しだけ苦笑する。


「ちなみに桃西さんはどう思います?」

 隣で聞いていた彼女にも振る。


「そうですね……私も断定はできません。というか、赤石くんには申し訳ないけど、話を聞くだけだと、『クロマリンク』のメンバーであるとは考えづらいです」


「ただーー」

 一拍置いて、こちらを見る。


「赤石くんがそれを気にしている理由の方が気になります」


「……え?」


「本来なら、そういうのって気づいても流すものじゃないですか?」

 その言葉に、胸の奥がチクリと痛む。


 洋平も、少しだけ真面目な顔になる。

「……お前さ」


「もしかして、あの件を引きずってるのか?」


 ーー!!


 図星だった。

 視線を落とす。


「……桃西さん、ちょっと昔の話なんですけど」

 洋平が軽く説明を始める。


「こいつ、昔とあるVtuberのファンでさ」


「誰だっけ、確か虹川……虹川」


「“虹川ソラ“」

 虹川ソラ、たった1年間の活動で多くの人を魅了した元個人勢Vtuber。


「そうそう。それでこいつ、彼女のある配信中に“電車の音がする”ってコメントしたんだよ」


「……それがきっかけで、電車の音から彼女の住所の特定が進んじまって」



「え……」

 桃西さんの表情が曇る。


「リスナーが過去の発言とか切り抜きとか全部引っ張り出して、どんどん絞られていってな」


「で、最終的にその子……活動やめちまった」


 店内に、静かな空気が落ちる。

「……俺のせいなんです」


 思わず口から出た。

「俺が、最初に余計なことを言ったから」


 あの時は軽い気持ちだった。気づいたことを書いただけで……。

 でも、それで特定の流れができた


 拳を握る。

「だから俺、決めたんです」


「中の人は絶対詮索しないって」

 少しだけ顔を上げる。


「……なのに今回は、気づいちゃったかもしれない」


「知りたくなんてなかったのに、繋がって見えてしまった」


「これ以上考えたら、また同じことになる気がして……」


「でも、考えるのをやめられなくて」


 言葉が途切れる。

「……どうすればいいか、わからないんです」


 ーーしばらくの沈黙。

 口を開いたのは、桃西さんだった。


「赤石くん」

 穏やかな声。


「あなた、優しいですね」


「……優しくなんか」


「いえ」

 はっきりと否定される。


「本当に無関心な人は、そんなことで悩みません」


「過去を反省して、同じことを繰り返さないようにしている」


「それは、ちゃんと向き合っている証拠です」

 少しだけ、胸が軽くなる。


「それにーー」

 彼女は続ける。


「今回の件って、あなたが何かしたわけじゃないですよね?」


「……あ」


「ただ、気づいてしまっただけ」

「それだけで、自分を責める必要はないと思いますよ」


 言葉が、すっと入ってくる。


 そして洋平が、ニヤッと笑った。

「まぁ、要するにだ」


「お前、考えすぎなんだよ」


「……うるせぇ」


「事実がどうであれ、お前がやることは変わんねぇだろ?」


「……変わらない?」


「ファンなんだろ?そいつらの」


「それはもちろんだ!」


「細かいことは考えず、今まで通り楽しめよ」


「詮索しないって決めたなら、それでいいじゃねぇか」


「中の人が本当に『クロマリンク』のメンバーだったとしても、配信が好きならそれで終わりだ」


 シンプルすぎる言葉。

 でも、それが一番しっくりきた。


「……そう、だな」

 思わず、笑いがこぼれる。


「なんか、ちょっと楽になったわ」


「だろ?」


「それにもしかしたら、オタクすぎるお前の妄想の可能性だってあるんだし」

 洋平は満足そうに頷くと、エプロンを外した。


「そうだな。まだ決まったわけじゃないしな」


「そうそう」


「よし!」

「今日はもう終わり!」


「え?」


「ほら、気分転換だ」


 ニヤリと笑う。

「今日は俺と飲みに行くぞ」


「ちょっ!お前まだ、仕事中だろ⁈」

お読みいただき、誠にありがとうございます。

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