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第14話 ある時の配信 白町(白鷺エミカ)視点

 夜11時。


 私の本業が始まる。


 私の名前は白町心、28歳。

 職業はVtuber。


 Vtuberグループ『クロマリンク』の白色担当、白鷺しらさぎエミカとして活動している。


 今日は11時から歌枠の予定だ。

「あー、あー」

 マイクの位置を少し調整して、自分の声のチューニングをする。


 「よし、やるか」

 両頬を軽く叩いて気合いを入れる。


 私は配信を開始した。


 白:『こんばんは。 『クロマリンク』の白色担当、白鷺しらさぎエミカです』


 白髪ボブにメガネ、上は白を基調としたショートトップスにデニムジャケット、下は黒のプリーツスカート。


 現実の私もそこそこ気を使っているつもりだけれど、この姿はとっても綺麗でオシャレ。

 ……担当イラストレーターさん、本当にありがとう!



「待ってました!」

「歌枠きたー!」

「今日何歌うの?」

 コメントが一気に流れる。


 白:『今日は今の季節に合わせて、春をテーマにした曲を歌いたいと思います』


 「春の曲いいね!知ってる曲出ると良いな!」

 そんなやりとりの中で、スパチャが飛んできた。


 私はすぐさま反応する。

 白:『アカケンさん、スパチャありがとうございます。 知っている曲が出るかは分かりませんが、楽しんでいただけるように頑張りますね』



 ……知っている曲が出るか分からない?

 そんなわけない。


 心の中で、少しだけ笑う。


 安心してください。

 あなたの知っている曲しかほぼ出ないと思います。なんてったって私は、あなたの幼馴染ですから。



 健介の好きな曲も、世代の流行も、全部知ってる。


 思わず心の中でため息が出る。

 健介はずっと変わらないし、人の変化にも妙に鈍い。


 最初にクロマリンクを推していると聞いた時は驚いた。キャラの声は大きく変えていない。だから、もしかしたら気づくかもと思っていたのに。


 ーー全く気づかない。

 むしろ、楽しそうに“アカケン”としてスパチャを送り、配信を楽しんでいる。


 アカケン。

 学生時代のあだ名をそのまま使うなんて、どこまで変わってないんだか。


 でも、そういうところに少しだけ安心する自分がいる。

 白鷺しらさぎエミカとしての私も、白町心としての私も、どっちも認められているようで。



 だけど同時に。

 胸の奥に、小さな棘が刺さる。


 近いのに、遠い。

 画面の向こうにいるのは、確かに健介なのに。


 コメント欄は流れ続ける。



 私は笑顔を崩さないまま、1曲目の準備をする。


 白:『それでは1曲目いきますね。 私の歌声がみんなに届いたら嬉しいです』


 そして、静かに息を吸う。



 ……この声、ちゃんと届くかな。

お読みいただき、誠にありがとうございます。

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