第1話 お隣さん
夜11時。
俺の本業が始まる。
いやーー正確には趣味だが。
俺の名前は赤石健介、28歳。
大のVtuberオタク。
そして、アパートの管理人(大家)だ。
廊下やゴミ置き場の掃除、設備の点検や事務作業など、管理人としての仕事は多いが、本業(趣味)は今から始まる。
パソコンの電源を入れると、待ち侘びた配信が始まった。
黄:『やっほー! みんな元気してた? クロマリンクの黄色担当、黄瀬ミレアです!』
俺が箱推ししているVtuberグループ『クロマリンク』の黄色担当、黄瀬ミレアだ。
黄瀬さんはグループ内でも雑談配信を多く配信していて、顔から下を映した実写配信もよく行う。
今日も実写配信だ。
画面には、ゆるいパーカー姿の彼女が映っている。
……この感じ、いいよな。
彼女のキャラクターはミルクティー寄りの金髪ロングに、ダルめのパーカーが衣装デザイン。
今日の実写配信の服は、キャラクターの衣装と似ている。
「黄瀬さんやっほー!」
俺はさっそくスーパーチャットを打つ。
黄:『今日はね、とても良いことあったんだ!』
「何があったの?」
「何々?」
コメント欄が一斉に動く。
黄:『お昼にネットショッピングしてたものが届いたんだけど、重くて困ってたら、お隣さんが運ぶの手伝ってくれたの!』
「俺も手伝うよ」
「お隣さん優しい!」
「正体バレなかった?」
彼女の一言一言に、リスナーがコメントしていく。同接人数は76人。決して多くはないが、絶賛駆け出し中のVtuberグループだ。ここからきっと伸びていくだろう。
――あれ?
少しだけ、手が止まる。
そういえば、それ…俺も今日やったな。
管理人室の隣の部屋、1号室に住む黄城さんの荷物を運ぶのを手伝った。
……いや、まさかな。
偶然だろ。
世の中には似たような出来事なんていくらでもある。
……ま、関係ない話だ。
※※
配信開始から1時間30分。
彼女の配信が終了した。
彼女の好物の話や趣味の話、これからやっていきたいことなども知れてとても良い配信だった。途中一瞬顔が見えそうな事故も起こりかけたが、それもまた一興。とても楽しかった。
24時30分。
お腹が空いたので、深夜まで営業してくれている近くのコンビニへ行くことにする。
深夜に外に出ることも多い俺にはとてもありがたい。
ドアを開け、外に出る。
ーーガチャッ!
お隣さんの黄城さんも外に出てきた。
「おっ!こんばんは。黄城さん」
「こんばんは」
「どこか行かれるんですか?僕は少しお腹が空いてしまったので、コンビニに」
「そ…そうなんですね…私も少し外を歩こうかと」
どこか落ち着かない様子で、彼女は視線を逸らす。
ーーはっ!やばい!
「そ…そうですか。夜道気をつけてくださいね。ではまた!」
俺は急いで彼女と別れ、コンビニへ向かう。
やってしまった。
俺は自分の服装を見る。
完全受注生産で販売された黄瀬ミレアがデザインされた服。
…しまった。
オタクの風当たりが優しくなってきたとはいえ、まだ無くなったわけではない。
住人さん達をそういう人だと思っているわけではないが、個性的な管理人だと思われるのは、今後のアパート生活に支障をきたすかもしれない。
あえて特徴を出さない管理人を演じることで、管理人を意識させない、より住みやすく快適な部屋を届けようと思っていたのに、失敗した。
夜で服……見えてなかったといいな。
俺は自分の行いを反省しながら、コンビニまでの道を歩いた。
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