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法定雇用率達成を目指して共生について考えてみたら、みんなが進化した  作者: 青海


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33/33

彩り、繋がる未来

最終章です。

共生について考え続けた主人公が想い描く未来。

最後まで見届けて頂けたら有難いです。

よろしくお願いします。

休日、倫心つぐみは上機嫌で出かける準備をしていた。

久しぶりに佳純かすみから連絡がきて、バドミントンをすることになったのだ。

ラケット、シャトル、タオル……鼻歌まじりでスポーツバッグに詰め込んでいく。


体育館。

倫心と佳純は軽いラリーを楽しんでいた。

「おばさんは元気?」

「タイのお父さんのところに行ったよ」

シャトルを打ち合いながら、他愛もない会話が続く。

「へー、ということは佳純ちゃん一人暮らし? ごはんはどうしてるの?」

「冷凍食品。一週間もすると部屋の中がめちゃくちゃ……週一で親戚が片付けに来てくれるの」

「えー。今度、カレー作りに行ってもいい?」

「いいけどカレー限定なの?」

「それしかまともに作れる気がしない」

「まじか」


二人の笑い声が体育館に響く。


「あのね。ツグちゃん。……検査の結果が出たの。私、やっぱり普通じゃなかった」

「え?」 倫心は急な話題の転換に動揺したが、長年の経験で体が反応し、シャトルを打ち返した。

「発達障がいだって」 佳純は落ち着いた様子で、高めにシャトルを打ち上げた。

「……」 倫心はシャトルを目で追い、打ち返すことで精一杯。

「ツグちゃん……気付いていたよね?」

「……」 言葉を選べない倫心は、必死に体を動かすことに集中する。

「そりゃ仕事も続かないよ」

「……」

「無職にもなるよ」

「…」倫心の動揺はどんどん強まり、体のコントロールに影響が出始める。

「私はこの先、ずっと生きづらい……いっそ、消えてしまいたい……」


とうとう倫心は判断力を失い、アウトライン近くまでシャトルを飛ばしてしまった。


それを追いかけた佳純は、足がもつれて床に倒れ込む。

佳純の手から離れたラケットが、数メートル先までスライドした。


「佳純ちゃん、ごめん!」


倫心は駆け寄った。だが、その足は佳純の数歩手前で、見えない壁に拒まれたように止まってしまう。


佳純は床に額をつけ、石のように体を丸めて肩を震わせていた。


床に蹲り、自らを世界から切り離したかのような佳純の小さな背中が、あまりにも遠い。


倫心は現実に嫌気がさした。


目の前の親友が「私は普通じゃなかった」と嘆いている。


仕事のやりがいを見出し、責任感を身につけて頑張っていた宮西さんの命は燃え尽きた。


会社の法定雇用率は、未達成のままだ。


現実は残酷で、不平等だ。 頑張っても報われないことの方が多い。

望まない悲劇が襲う。 「悔しい」と叫んでみても、何も変わらない。


そんな現実を、誰もが生きなきゃいけない。


だから……。 倫心はラケットを強く握りしめた。


「佳純ちゃん。従業員が40名以上いる企業は、障がいのある方を一定数雇用しないといけないって法律で決まってるの。しかも、義務化されている。その割合を『法定雇用率』って言うんだよ。

現状は2.5%。セーリングプリントは従業員数120名だから、3名の障がい者を雇用しなきゃいけない。

うちだけじゃない。どの企業も達成しようと必死だよ。未達成企業は罰金を払わないといけないし」 「……」

「しかも、国がこの法定雇用率を上げる計画を立てている。2026年7月には2.7%になる」

「どういうことか、頭のいい佳純ちゃんなら分かるよね。

佳純ちゃんは空気を読むのは苦手かもしれないけど、

記憶力も論理的思考力も私よりずっとあって、優秀だった。

謎解きクイズだって得意だったじゃない」

「……」

「国がユニークな人材が強みを活かして、共に働くことを推奨しているの。

佳純ちゃんの働ける場所は、なくならないよ」


働ける場所……佳純の脳裏に、これまでの失敗がフラッシュバックする。

職場で向けられた冷ややかな視線。よかれと思って発言した瞬間に凍りつく空気。

「使えない」と言われ続けた日々。

制度が整ったところで、発達障がい者でなくなるわけではない。

「2.7%」という枠の中に収まったとしても、そこでまた周囲と摩擦を起こし、

自分を削り、誰かを苛立たせて生きていかなければならない……。


「……働ける場所があったって、生きづらいことには変わりない」

床にぶつかって跳ね返った佳純の声が、倫心の胸を鋭く突き刺した。

「……生きづらくても、佳純ちゃんが生きてくれないと困る」

倫心は佳純のラケットを拾い上げ、差し出した。

「だって、バドミントンは一人じゃできない」


佳純がゆっくりと顔を上げる。

「佳純ちゃん、戦力になるのに時間がかかるのは誰だって一緒でしょ。

私も新人の頃はたくさん怒られた。凸凹でこぼこのない人間なんていないよ。

本人の努力だけで解決できないことは、周りが『仕組み』を変えればいい。

企業が『合理的配慮』をすることも義務化されているよ。

佳純ちゃんは、少しずつ自分を知っていくことから始めればいいと思う。

得意なことも、苦手なことも、全部」


消えてしまいたい。けれど、消えることも簡単ではない。だとしたら、

生きていくために、できることをしていかなければならない。


自分を知ることからなら、始められるかもしれない。

倫心が示した具体的な提案が、佳純の心に入っていく。


「私、また転ぶかもしれない。ツグちゃん、助けてくれる? ……私、すごく怖い」

「もちろん、何度でも助けるよ。だから、何回転んでもいいから。バドミントンをしよう」

佳純は、倫心の差し出したラケットに手を伸ばした。

「……ツグちゃん。バドミントン、しよう」

「うん。佳純ちゃん、サーブね」


倫心は笑顔で反対のコートへ駆けていく。


佳純がシャトルを打ち上げる。 倫心は願いを込めて打ち返す。


どうか、誰もが凸凹でこぼこを認め合い、支え合って、

共に生きていく、カラフルな未来が、ずっと続きますように。

(了)


完璧な人間なんて、どこにもいません。

誰もが抱える「凸凹でこぼこ」を認め合い、 それぞれの強みを活かし、互いに支え合う社会。

それを目指すことは簡単ではないけれど、価値のあることだと描きたくて小説を書きました。


そして、この物語が、読者の皆様の日常に、 ささやかな彩りを添えることができれば、

これほど嬉しいことはありません。


最後まで応援して頂き心からの感謝いたします。ありがとうございました。青海

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