表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
法定雇用率達成を目指して共生について考えてみたら、みんなが進化した  作者: 青海


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/33

凸に注目!みんなの凸凹有効活用しちゃいましょう 後編ーカラフルなパズルー

後編では誰かに助けられた人は誰かを助けたいと思う人材になる

というテーマで描きました。

読んで頂けたら幸いです

宜しくお願い致します。

「ここに呼ばれた理由くらい分かります」


赤川は「怒られる」という思い込みから、

やや強めの口調になっていた。


本社ミーティングルーム。

北岡と赤川の面談が行われている。


赤川は

「北岡さん、本当は面倒だと思ってますよね?

もう、良いですよ。僕、辞めます」

と直球を投げる。

「……本当にストレートだ…。スペシャルコミュニケーションだ」

北岡は一瞬動揺したが、すぐに表情を整えた。

赤川は相手の反応を確認することもせずに続ける。

「廊下に矢印を貼ったり、動画マニュアルを作ったり……。

僕が普通だったら、必要ないことだ。しかも、どれもうまくいかない」

「うまくいくまで試すだけです。仕事ですから」

「仕事……しなくていいことなのに?」

「…僕も正直に言います。仕事だけじゃないです」

北岡は上着のポケットから障がい者手帳を出し、

赤川に見せるとすぐにしまった。

「僕も、障がい者雇用なんです。

廊下でうずくまっている赤川さんを見た時に

過去の自分がフラッシュバックしました。

僕も、発症した当時は幻聴に追われて、

歩き慣れたはずの廊下をまっすぐ歩けなくなりました」


あまりに衝撃的な告白に赤川は目を見開き、言葉を失った。

特性があるゆえに相手の気持ちに共感は出来なかったが

事実の重みは理解出来た。

そして、上から目線で弱者を助けて、

自己満足したいだけの人物だと思いこんでいた

自分が恥ずかしくなった。

「2年間、療養して・・・。

医師からも働く許可が出て

障がい者雇用で就職活動してここに辿りつきました。

もう、2度とはみ出したくなくて

相手の顔色ばかり伺って、常に不安……。

結果を出したくて無理して・・・

でも、前のようにはいかなくて・・・。

すべてが壊れてしまいそうで

不調を認めるのが怖かった…」

「…」

「気づいたら体も頭も動かなくなっていた。

どうしたら良いか分からなくなって

『飛んで』しまった。格好悪いですよね」

北岡は自嘲気味に笑い、続けた。

「でも、会社はチャンスをくれた。

限界を迎えないためのツールを

用意してくれた。

会社が共に働くことを諦めないでくれたから

僕はここに居られる。

だから、自分にできることは何でもしたいと思っているだけです」

認知の歪みや思い込みを超えた事実が赤川の心を刺す。

自然と目線が下がる。

北岡は赤川の目線や態度を観察し、口調を穏やかにしてゆっくり語る。

「誤解しないで下さいね。『恩返し』なんていう昔話し的なことを

したいわけではないんですよ」

「じゃあなぜですか?」

「安心したいんです。ただ、ここに居ていいんだと思いたいんです

赤川さんもそうなんじゃないんですか?」

「はい。ここに居たいです・・・あの…僕はどうすれば良いですか」

「矢印の示す方向を認知するのは難しいですか」

「はい・・・。矢印が回ってきてしまうです…」

赤川の表情が暗くなったので、北岡は慌てて話題を逸らす。

「『彩クリスタルズ』が、好きなんですよね」

「はい! 一推しは『SEREN』です。赤担当で、好きな食べ物はリンゴ飴。

出来立てのグッズを最初に見られた時は、本当に嬉しくて……」

赤川はしばらく、熱を込めて語り続けた。

北岡は笑顔でそれを聞きながら、考える。


廊下を『無機質な空間』と認知しない工夫が必要だ

もしかしたら…



「ちなみに2推しは誰ですか?」

北岡が聞くと

「2推しは『KOBARUTO』です。

担当は青、好きな食べ物は『ブルーハワイのかき氷』です」

「だったら、廊下のステッカーを

『SEREN』と『KOBARUTO』にしましょう。

行きは赤の『SEREN』を、

帰りは青の『KOBARUTO』を追いかけてみませんか。

推し活です。イベント会場では迷わないですよね?」

「はい。グッズを買う時は迷いません。いいかもしれません!」赤川の顔に、

今日一番の輝きが戻った。

「機械の操作マニュアルも『彩クリスタルズ』のイラスト入りで作ります」

「え?」

「無理してメモを取る必要もありません。ペンも紙もなくしましょう。

赤川さんにあった仕組みを作ってしまえば良いんです」

「そんなこと出来るんですか」 

「出来るまでやるだけです」


仕組みを作る

出来るまでやる…。

そんな選択肢があるなんて…。


もう独りで足掻かなくていい、

諦めなくていいのだという予感に、

赤川の胸の鼓動がわずかに速まった。



数日後。

北岡の提案により、工場の廊下は一変した。

壁に貼られていた無機質な「→」のステッカーは剥がされ、

代わりに色鮮やかなイラストが道しるべになった。


「赤川さん、行きは、赤の『SEREN』を追いかけてください。

帰りは、青の『KOBARUTO』のイラストを目印にして下さい」

「はい」

赤川は冒険の旅にでもでるかのような大袈裟な返事をして部屋を出て

おそるおそる廊下を歩き出す。

「行きはSEREN……いた。次は……あそこだ」

赤川の瞳に、大好きなキャラクターが飛び込んでくる。

無事倉庫に辿り着き、インクを手に取り、くるりと振り返る。


今度は青の『KBARUTO』がポイントごとに正しい道を示してくれている。


赤川は色とキャラクターの違いで混乱することなく、

作業場まで戻って来れた。


「戻りました」 インクを抱えた赤川がドアを開けると、

白木と北岡が笑顔で迎えた。

「おかえりなさい。一人で帰ってこれましたね」

「はい。皆さんのおかげです」 作業場に戻ってきた赤川の顔は、

朝露に濡れた花のように輝いていた。


白木を抉るような鈍い痛みは、いつの間にか消えていた。

手が自然と腹からすっと離れ、赤川が差し出したインクを受け取る。


「赤川さん、いつもありがとうございます。とても助かりました」

指先に伝わる確かな重みが、彼が自分の足で目的地へ辿り着いた証だった。


白木の言葉を聞いて、赤川の脳内の回路がルートを変更する。

自分が運んできたインクが、今この瞬間に白木の作業を前へ進め、

作業の歯車を回している。

その実感が、赤川の歪んでいた世界を真っ直ぐに補正していく。

「……はい。また、取ってきます。僕、この仕事が好きです」

「ではこれからもよろしくお願いします」

短く、けれどはっきりとした声が口を突いた。

「赤川さんがいないと困ります」

適切な「ツール」さえあれば、赤川は自分の意志で歩き、現場の力になれる。


二人のやり取りを見ていた北岡は、足の裏に重力を感じ、

その場に立っている感覚に喜びを感じた。  


ここに居ても良いのだ。


北岡はやっと、過去の栄光に囚われることなく、

未来への不安を募らせることなく、

今、ここに居る安心感を得られた気がした。



北岡が赤川のために作った『彩クリスタルズ』のイラスト入りマニュアルは、

驚くほど赤川の脳に馴染んだ。


これまでは「メモを取らなければ」という強迫観念に追われ、

ペンを無くしてはパニックに陥っていたが、もうその必要はない。

タブレットを開けば、そこには大好きなキャラクターたちが、

確かなガイドとして方法を教えてくれる。

赤川の脳のリソースは、もはや「忘れないこと」への怯えには使われない。


その変化はじわりと周囲にも伝播していく。

「どう接していいか分からない」という沈痛な気疲れは、

春の雪解けのように消えていった。


北岡が作成した「個々の特性に合わせたマニュアル」は評判を呼び、

他の部署からも依頼が舞い込むようになった。


アクリルキーホルダー担当の吉田も、倫心に相談を寄せた一人だ。

ベテランの吉田は悩みを漏らす。

「歳のせいか、細かい作業が続けられなくて。

若い宮西さんに手伝ってほしいんだけど、

私じゃ…上手く教えられるか不安なの。

赤川さん映像見ていたでしょ。

若い人はおばあちゃんの話し聞くより

そっちの方がいいんじゃないかと思って……」

「かしこまりました。北岡さんに依頼しておきますね」

倫心は笑顔で答えた。


動画マニュアルを完成させた北岡は早速、

宮西にダブレットの使い方を説明した。

「宮西さん、操作方法は大体スマホと同じですからね」

タブレットの説明をする北岡の優しい声に、宮西は大きく頷いた。


そして、作業机の横に置いたタブレットを食い入るように見つめた。


動画の中で吉田の指が止まる。

「ここでカチッというまで押し込む」という字幕が出る。

宮西はそれを見ながら、自分の指を動かす。


「カチッ……。あ、できた!」


一度、やり方を覚えると宮西の作業は驚くほど速かった。


単純な反復作業は、彼女の特性にとってむしろ「落ち着く時間」だったのだ。


翌日、

誇らしげに胸を張って、検品を終えたアクリルキーホルダーの山を指し示し

吉田や川原、そして通りかかる社員たちに声をかけて回った。


「見て見て! 私、これ全部作ったの。役に立ってるでしょ?」


「お仕事がんばって、ファンの方達に喜んでもらうの」


宮西の屈託のない笑顔に、工場の空気は春の陽だまりのように和らいだ。



それを見ていた倫心は、胸の奥が熱くなるのを感じた。


迷いの中で寄り添い続けた、白木の無骨な誠実さ。

「出来るようになりたい」という一心で、己の壁を突き破った赤川の勇気。

経験を「誰かを救う鍵」へと昇華させた、北岡の矜持。

存在そのものが希望となり、場の空気を塗り替えていく宮西の明るさ。

そして、それらすべてを「当たり前の風景」として飲み込んでいく、

周りの包容力。

以前はバラバラに散らばっていた、凸凹(でこぼこ)のピースが、

繋がるために「進化」して、形を作っている。


相応しい場所で存在感を放ち、

ユニークな色を生み出している。

美しい絵を描き始めている。


色の正体は光


屈折して吸収し反射する


だから、色が映る。


「……本当に、きれい」


倫心は呟いた。



お忙しいなか読んで頂きありがとうございます。

感想、お待ちしております。

宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ