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法定雇用率達成を目指して共生について考えてみたら、みんなが進化した  作者: 青海


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共に働くということ(後編)ーカラフルなパズルー

後編では誰かに助けられた人は誰かを助けたいと思う人材になる

というテーマで描きました。

読んで頂けたら幸いです

宜しくお願い致します。

「ここに呼ばれた理由くらい分かります」


赤川は「怒られる」という思い込みから、やや強めの口調になっていた。


本社ミーティングルーム。

北岡と赤川の面談が行われている。


赤川は

「北岡さん、本当は面倒だと思ってますよね?」

と直球を投げる。

「……本当にストレートに聞きますね。スペシャルコミュニケーションだ」

北岡は一瞬動揺したが、すぐに表情を整えた。

赤川は相手の反応を確認することもせずに続ける。

「廊下に矢印を貼ったり、マニュアルを作ったり……。

僕が普通だったら、必要ないことだ。しかも、どれもうまくいかない」

「うまくいくまで試すだけです。仕事ですから」

「仕事……しなくていいことなのに?」

「…僕も正直に言います。仕事だけじゃないです」

北岡は上着のポケットから障がい者手帳を出し、赤川に見せるとすぐにしまった。

「僕も、障がい者雇用なんです。廊下で蹲っている赤川さんを見た時に

過去の自分がフラッシュバックしました。

僕も、発症した当時は幻聴に追われて、歩き慣れたはずの廊下をまっすぐ歩けなくなりました」

あまりに衝撃的な告白に赤川は目を見開き、言葉を失った。

特性があるゆえに相手の気持ちに共感は出来なかったが事実の重みは理解出来た。

そして、上から目線で弱者を助けて、自己満足したいだけの人物だと思いこんでいた

自分が恥ずかしくなった。

「もう一度働きたくて、ここに入社しました。

でも、入社二か月目の時に、二週間も無断欠勤をしたんです。

もう迷惑をかけたくない、相手の顔色ばかり伺って常に不安……。

無理をして、気づいたら体も頭も動かなくなっていた。

自分が限界を招いたって認められなくて、

『飛んで』しまった。格好悪いですよね」

北岡は自嘲気味に笑い、続けた。

「でも、会社はチャンスをくれた。限界を迎えないための配慮をしてくれた。

会社が共に働くことを諦めないでくれたから

僕はここに居られれる。

だから、自分にできることは何でもしたいと思っているだけです」

赤川の胸に、言葉にならない塊が込み上げた。羞恥心も膨れ上がり、目線が下がる。

北岡は赤川の目線や態度を観察し、口調を穏やかにしてゆっくり語る。

「僕は、無理なく働き続けるためにどうすればいいか考えるようになった。

赤川さんも諦めないで、働き続けるためにはどうすれば良いか一緒に考えていきましょう」

「はい。がんばります」 赤川はいたたまれないと思っている場合ではないと、強くやる気を示した。

「『彩クリスタルズ』が、好きなんですよね」北岡が聞く。

「はい! 一推しは『SEREN』です。赤担当で、好きな食べ物はリンゴ飴。

出来立てのグッズを最初に見られた時は、本当に嬉しくて……」

赤川はしばらく、熱を込めて語り続けた。

北岡は笑顔でそれを聞きながら、ありのままの自分もようやく認められるような気がしていた。

「ちなみに2推しは誰ですか?」

北岡が聞くと

「2推しは『KOBARUTO』です。担当は青、好きな食べ物は『ブルーハワイのかき氷』です」

「だったら、廊下のステッカーを『SEREN』と『KOBARUTO』にしましょう。

行きは赤の『SEREN』を、帰りは青の『KOBARUTO』を追いかけてみませんか。推し活です」

「いいかもしれません!」赤川の顔に、今日一番の輝きが戻った。

「機械の操作マニュアルもイラスト入りで作ります」

「よろしくお願いします」 

赤川ははじめてここに居て良いのだという肯定感を得た気がした。


数日後。

北岡の提案により、工場の廊下は一変した。

壁に貼られていた無機質な「→」のステッカーは剥がされ、

代わりに色鮮やかなイラストが道しるべになった。


「赤川さん、行きは、赤の『SEREN』を追いかけてください。

帰りは、青の『KBARUTO』のイラストを目印にして下さい」

「はい」

赤川は冒険の旅にでもでるかのような大袈裟な返事をして部屋を出て

おそるおそる廊下を歩き出す。

「行きはSEREN……いた。次は……あそこだ」

赤川の瞳に、大好きなキャラクターが飛び込んでくる。

無事倉庫に辿り着き、インクを手に取り、くるりと振り返る。


今度は青の『KBARUTO』がポイントごとに正しい道を示してくれている。


赤川は色とキャラクターの違いで混乱することなく、作業場まで戻って来れた。


「戻りました」

インクを抱えた赤川がドアを開けると

白木と北岡が笑顔で迎えた。

「おかえりなさい。一人で帰ってこれましたね」

「はい。皆さんのおかげです」

作業場に戻ってきた赤川の顔は、朝露に濡れた花のように輝いていた。

白木もそれを見て、押さえていた腹からすっと手が自然と離れる。


北岡が作成した「個々の特性に合わせたマニュアル」は評判を呼び、

他の部署からも依頼が舞い込むようになった。


アクリルキーホルダー担当の吉田も、倫心に相談を寄せた一人だ。

ベテランの吉田は悩みを漏らす。

「歳のせいか、細かい作業が続けられなくて。若い宮西さんに手伝ってほしいんだけど、

私じゃ…川原さんみたいに上手く教えられるか不安なの。

赤川さん最初、映像見ていたでしょ。若い人はおばあちゃんの話し聞くより

そっちの方がいいんじゃないかと思って……」

「かしこまりました。北岡さんに依頼しておきますね」

倫心は笑顔で答えた。


動画マニュアルを完成させた北岡は早速、

宮西にダブレットの使い方を説明した。

「宮西さん、操作方法は大体スマホと同じですからね」

タブレットの説明をする北岡の優しい声に、宮西は大きく頷いた。


そして、作業机の横に置いたタブレットを食い入るように見つめた。


動画の中で吉田の指が止まる。

「ここでカチッというまで押し込む」という字幕が出る。

宮西はそれを見ながら、自分の指を動かす。


「カチッ……。あ、できた!」


一度、やり方を覚えると宮西の作業は驚くほど速かった。


単純な反復作業は、彼女の特性にとってむしろ「落ち着く時間」だったのだ。

翌日、宮西は完成したアクリルキーホルダーの山を誇らしげに掲げ、

吉田や川原、そして通りかかる社員たちに声をかけて回った。


「見て見て! 私、これ全部作ったの。役に立ってるでしょ?」


宮西の屈託のない笑顔に、工場の空気は春の陽だまりのように和らいだ。


それを見ていた倫心は、胸の奥が熱くなるのを感じた。


不器用な白木の包容力。 赤川の純粋な情熱。 北岡の経験に基づいた知恵。

そして、宮西の場を明るくする無邪気さ。


以前はバラバラに散らばっていた、凸凹でこぼこのピースが、

カチリ、カチリと相応しい場所で存在感を放ち、美しい絵を描き始めている。




「……本当に、きれい」


倫心は呟いた。


ユニークでカラフルなパズルだ。



お忙しいなか読んで頂きありがとうございます。

感想、お待ちしております。

宜しくお願い致します。

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