ツーカーの仲
倫心の親友、佳純が登場するお話です。読んで頂けたら嬉しいです。
公共のスポーツ施設。
体育館で倫心は津田佳純とバドミントンをしている。
倫心と佳純は中学から大学までバドミントン部で一緒だった。
二人のペアは津田の『つ』と香山の『か』で、『ツーカーペア』と呼ばれていた。
大会で優勝したこともある。
共に練習し、試合に勝った時は抱き合って歓喜し、負けた時は敗因について、
何時間も分析した。
学生時代は言葉を交わさなくても、お互いの気持ちが分かり、
ずっと一緒に居られる、まさしくツーカーの仲であった。
大学卒業後、二人はそれぞれの道を歩み出す。
倫心は最初に内定が出た中小企業に就職。
その後もずっと同じ会社でキャリアを積んでいる。
佳純は新卒で大手企業に就職するが半年で自主退社。
その後、3回転職をし、現在無職。
26歳で就職活動をする気力もなくなり、
実家に引きこもり、2か月が経つ。
こんな未来を倫心は想像もしていなかった。
学生時代、佳純は成績優秀で、バドミントンも倫心より上手だった。
個性的で思ったことを躊躇なく主張する性格が、
時折トラブルをうむこともあったが
倫心はそれも佳純の聡明さゆえの副作用だと理解していた。
でも今は佳純が何を考えているのか分からない。
腫物扱いとまではいかないが学生時代のように、
ツーカーの仲ではなくなってしまったことは確かだ。
今、佳純ちゃんのために出来ることはバトミントンに誘い出すことくらいだ…。
佳純のスマッシュが決まり、勝負がついた。
二人は体育館の壁に寄りかかるように座り、水分補給をする。
「佳純ちゃんはやっぱり強い」
倫心が息を切らせながら話す。
「なんにもしてないから、体力が余っているだけ」
佳純は謙遜する風でもなく、無表情で思ったことをストレートに伝えた。
「ツグちゃんは最近どうなの?」
「この間、社長がうちの課の部屋に入ってきて、
何、何、何の話って思ってちゃって、バタバタした」
「何の話しだったの?」
「それがさ、『我が社は障がい者雇用率達成を目指します』っていう宣言」
「え?」
「障がい者雇用をするんだって」
「ツグちゃんの会社で障がい者の方を採用するってこと?」
「うん。私、担当になったの」
「ふーん…。いいね。頑張って」
「ありがとう」
「ツグちゃん、やっとで、仕事の話してくれた」
佳純はまた表情を変えずに話す。
倫心は動揺して佳純の顔色を伺う。
「…。ごめん、嫌だった」
「そんなことない。表情に出ないだけ、嬉しいよ。ツグちゃん、
私が無職になってから、仕事の話しなくなったからずっと、気になってたの」
「佳純ちゃん、無理してない?」
「本当にツグちゃんは人の気持ちがわかるよね…私は人の気持ちが分からない。
空気が読めない」
倫心は落ち着かない感情になった。
佳純が自虐的なことを口にするのを初めて聞いたからだ。
佳純の傷の深さを思いやり、言葉を選ぶ。
「佳純ちゃんは本心しか言わない。だから信用できる」
「…。そんなこと言ってくれるのツグちゃんだけだよ。
…私どうなっちゃうんだろ?私ができる仕事あるのかな?」
「焦らないでゆっくり探せば良いと思う。一人で抱えないでね。
ツーカーコンビは永遠でしょ?佳純ちゃんが言ったのよ」
「そんなくさいこと言ったっけ?」
「言ったよ、大学3年の最後の試合の時」
「ごめん、覚えてない」
「えーーー」
倫心はオーバーリアクションをする。佳純は無表情のままで静かに言った。
「ツグちゃん、もう気付いてるよね。私達ずっと一緒にいたから…」
「何のこと?」
倫心は思い当たることがあったが、笑って誤魔化した。
読んで頂きありがとうございます。近日中に続きを投稿します。よろしくお願いします。