出会いと期待と焦燥感
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会議室
倫心と田中は、北岡の面接のために
会議室の机と椅子の配置を整えていた。
窓側に机を横に二つ並べ、その上座には社長が座る予定だ。
「まさか、最初から社長が面接に立ち会われるとは思いませんでした」
倫心はキャスター付きの椅子を押し込みながら、
やや緊張した面持ちで言った。
田中は斜めになった机を直しつつ、平然と答える。
「早く軌道に乗せたいんだろう。来年六月の報告で法定雇用率を達成できれば、
高い納付金を納めなくて済む。企業としては当然の動機だ」
「そうですよね。私は記録係なので、田中さん、よろしくお願いします」
「はいはい。香山さん、社長にビビり過ぎなんだよ」
「はい。まだ、慣れなくて……」
倫心は求職者用の椅子を、
面接官の席から適度な3メートル程の距離を保ってセッティングした。
この距離感が、倫心には面接という場の緊張感を増幅させているように感じられた。
面接
窓側の席には上座から舟木社長、部長、田中が着座している。
下座の隅にPCを準備し、倫心は記録係として座っていた。
ノックとともに、北岡保春が入室してきた。
田中が柔らかい声で「おかけください」と促す。
「失礼いたします」と北岡は一礼し、求職者用の椅子に静かに腰を下ろした。
倫心はPC越しに北岡の顔を見る。
顔色も良く、健康そうだ。身長は一八〇センチメートル以上あり、
肥満体型ではない。清潔感があり、最初の挨拶の印象も申し分ない。
「本日は面接にお越しいただきありがとうございます。
まずは、自己紹介をお願いします」 田中が質問を始めた。
「本日は貴重なお時間を頂き、ありがとうございます。北岡保春です。
年齢は三十二歳です。私は前職で人事業務を五年担当した経験があります。
障がい名は統合失調症で、精神障害者保健福祉手帳三級を所持しております。
御社で経験を活かし、円滑な組織作りに貢献したく思っております。
よろしくお願い致します」
倫心は記録を取りながら、北岡の言葉によくまとめられた練習の跡を感じた。
何回も練習したのだろう。
「ありがとうございます。では、仕事をお願いする上で、
特に配慮させていただくことはありますか」
田中は、倫心が作成に関わったマニュアルの確認すべき質問事項に沿って
質問を進める。
「集中力に波が出てしまいます。自分でも意識して確認するようにしていますが、
ミスがないかダブルチェックの機会を設けていただけると、
安心して次の業務に取り組めます」
倫心は、自分の特性を正しく把握している点に感心した。
「私からも良いですか」 やや抽象的な質問が、舟木社長から投げかけられた。
「弊社で、具体的にやってみたいことは何ですか」
「はい……」 北岡は返事の後、わずかな沈黙とともに、
深く考え込んでいる様子を見せた。
倫心は北岡が困惑しているのではないかと心配になり、
思わず前のめりになった。
「最初は前職の経験を活かし、責任を持って担当業務を遂行したいと考えております。」
北岡は一度言葉を区切り、まっすぐ社長の目を見た。
「そして、仕事をお任せいただけるようになったら、
組織の発展のためにスキルアップ制度の導入や、業務フローの改善を
提案させて頂きたいと思っております」
北岡は倫心の心配をよそに、百パーセント以上の、完璧な回答をした。
舟木社長は満足そうに頷く。
倫心は、人事課の視点をも変えてしまうかもしれない人材だと
期待に胸を膨らませていた。
「採用決定。良い方と出会えましたね」
面接終了後、舟木社長はわずか五分で結論を出した。
「はい。我々もそう思います。すぐに入社手続きをはじめます。」
部長が返答する。
「彼は今後採用予定の障がい者のためのマニュアル作成にも
貢献してくれそうですね」
倫心は、思い切って期待をこめた意見を社長に伝えた。
「さすが、人材の活かし方を知っていますね。香山さん期待してます」
倫心は社長の言葉に歓喜した。
3か月後
倫心は茫然自失していた。
北岡は業務は熟せていた。
残業時間も多くはなかったはず
毎日、アプリで状態確認もしていた。
「困ったらいつでも言ってください」と声掛けもしていた。
何がいけなかったのか…。
試用期間終了が迫ったある雨の日だった。
北岡が出社時間になっても現れず、連絡もつかないという事態が発生した。
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