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ある少年の思い出

 湖に遊びに来た俺たちは、毎度お決まりの探検ごっこをしていた。

 冒険ごっご中は、本名なんか名乗らない。そう決めたのは俺だ。名前よりも、もっと格好いいやつで呼び合うルールになっていた。ドラマかなんかで見た、コードネームというやつだ。

「おい、マイケル、そっち見てこいよ」

「えー、やだよ、怖ぇじゃん。レオナルド、行けよ」

「なんで俺ばっか!」

 俺は笑いながら、二人のやりとりを眺めていた。俺のコードネームはジョン。

 湖の周りは草がぼうぼうで、古いフェンスが錆びて軋んでいた。

 フェンスの隙間をくぐり抜けると、そこから先は小さな獣道みたいになっていて、背丈より高い草が両側から迫ってくる。 俺たちはその細い道をかき分けながら進んだ。ところどころに空き缶や古いビニール袋が落ちていて、時々ガサガサと音がするたびに、マイケルが「今の、絶対なんかいた!」と騒ぎ、レオナルドが「つちのこか!!」とはしゃいで笑った。足元には古いペットボトルや錆びた自転車のパーツが転がっていて、薄暗い中で妙に不気味に見える。しかし探検をしている俺達にとって、それは朽ち果てた古代のロボットに見えたし、謎のウィルスが封印されたカプセルにも見えた。

 ドンドンと進んでいく途中、俺は草むらの中にボロボロの雑誌を見つけた。

「おい、これ見ろよ」

 拾い上げて表紙を見ると、『ミステリーワールド』というタイトルが書いてある。

 ページをめくると、幽霊の話や、UFO、都市伝説なんかが載っている。

「なんだこれ、超面白そうじゃん」

 マイケルが身を乗り出し、俺達はその雑誌を夢中になって読んだ。そうしているうちに、俺はあることを思いつき、こう提案する。

「なあ、これ、俺たちも作っちまおうぜ、こういうの」

 俺がそう言うと、二人は目を輝かせた。

「自分たちの怖い話ってこと?」

「そう。すげぇ怖いやつ作ろぜ」

 俺が言うと、二人も乗ってきた。

 そしてしばらく、三人であれこれ話し合った。

 最初に出たのは、湖の底に巨大な怪物がいて、夜な夜な人を引きずり込むって話だった。

「それじゃあ、リアリティがねぇよ、リアリティが」と俺が言い、次にマイケルが「じゃあ宇宙人の基地が沈んでることにしようぜ」とか言い出した。

 レオナルドは「湖の水全部が毒になってて、飲んだらゾンビになる」とか言い出して、くだらない案がいくつも飛び交った。

 でも結局、一番それっぽくて、怖そうな幽霊の話に落ち着いた。

 その結果、こうなった。

 昔、この湖で女の子が自殺した。 女の子が自殺した理由はイジメとか、家のこととか、なんかそんな感じ。 で、その子の幽霊が、夜になると湖に出る。

 今まで出てきた案のなかじゃとびきり地味だったけれど、本当にありそうな方が良い、ということでこういう形にまとまった。

「本当にありそうでいいかも!」

 マイケルが興奮気味に言い、レオナルドも頷く。

「みんなに広めようぜ。絶対ビビるから。それとさ」

 俺は得意げに笑いながら続けた。

「この雑誌にも投稿してみようぜ。そういうの募集してるみたいだから」

 マイケルもレオナルドも賛成してくれ、俺達はさっそくその準備をしようとなり、探検ごっこは終了。誰かの家に行くことになった。

「あ、なぁ、ペンネームってのどうする? こういうに投稿するときって、必要なんだろ?」

 歩きながらマイケルが言い、俺は答える。

「じゃあさ、みんなの苗字から一文字とるか? 三人で考えた話だし」

「いいな」

 レオナルドが笑顔で頷き、続ける。

「名字から一文字づつだと、夏田木とかか?」

「よし、それに決定!」

 俺はグッと親指を立てて見せた。

「三人合わせて、夏田木だ!」

 そして俺たちは誰ともなく走りだした。

 肩をぶつけ合いながら、ふざけて転びそうになりながら、町の方へ駆けていった。

 あのとき俺たちは、自分たちの考えた本物の怪談を胸に、世界を少しだけ怖くした気分になっていた。それが最高に楽しかった。



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