【SIDE ガブリ】規格内の来訪者
ハンターとしてもっとも重要なことは情報収集能力である。
欲しいものはどこにあり、どうすれば手にいれることができるのか。
情報収集能力はたくさんの技能の集合体だ。人づてに訊ねるためのコネクション作りから、自分の周囲がどうなっているか確かめる超感覚まで。
ガブリはハンターである。そして感覚には抜群の自信を持っていた。
周囲には何があり、どこに行くべきか。この人はどんな人で、ついていくべきか。
勘、とも呼べるそれこそがガブリの絶対的な武器で、だからこそいま牧場でスライムを育てていることだって重要な意味があると確信している。
「ほらシャルロッテちゃーん。ぐみぐみちゃーん。餌っすよ〜」
名前を呼ぶとやってくるスライムたちはとても健康的で、幸せそうだ。最初こそ種族ごとに餌を変え、一匹一匹に名前をつけるドロルが狂気的だと感じたが、しかしそうすることで感じる愛着もわかる気がした。
スライムは一匹一匹性格が違う。
ひとまとまりにスライムなどと呼ぶことは、確かに失礼にも感じる。
それぞれに餌をやりつつ、ガブリは一つの緑の長丸い野菜を発見した。
「あ! こんなところにキャベツ……じゃないっすね。白菜?」
そこにいるのはキャベツに擬態するのが大好き、クイックスライムのぷよのはずだ。
しかし、その擬態が妙に歪で別の野菜のように見えた。
「ぷよ。どうしたっすか?」
ぷよは擬態を解いた。
なんだか少しソワソワしているように見える。白菜のように細くなってしまったのは、ひょっとすると緊張する出来事でもあったのだろうかとガブリは想像した。
怪しい。
「サーチ」
ガブリから発せられる魔力の波。
その波は様々な物体に反射してそこに何があるかを浮かび上がらせる。
いる。
牧場近くの茂みに5人隠れている。誰もが武器を持っており、こちらに対して殺気さえ持っているように感じた。たぶん冒険者のパーティだ。Cランクといったところか。
——ひゃは。舐められたもんだね。
おそらく、直接的にはガブリを襲いにきたわけじゃないだろう。
スライム牧場にくるのだから、なんとなく狙いは察せられる。クイックスライムだ。
狩れば多大な経験値を得られるクイックスライムは、いま王都で大人気だから。
ドロルは小走りで柵を飛び越え、気配のする方向を見て言った。
「ウチはいま一時的にこのスライム牧場を任されてるガブリっす。そこにどなたかいらっしゃいますか?」
沈黙。
しかしそれは長くは続かない。観念したのだろうか、ぞろぞろと茂みから5人の冒険者が現れた。
……え?
嘘でしょ?
その先頭の男を見て、ガブリは衝撃を受けた。
「なんだガブリかよ! 久しぶりだな!」
「……ビューニッツ……?」
それはどう考えても見たことのある顔だった。赤い髪を逆立てた好戦的な吊り目。細身だが引き締まった体に、背負うバスタードソードはこれまた赤い刀身だ。
ビューニッツ・ポラロ。
クローディア王国の切り札パーティ【シャイン】。
その前衛である。
「いやーここにクイックスライムがいるっていうからよー。早くレベルアップしたいんできてみたんだよ。王都で待っててもよかったんだが、待てなくてな」
「そりゃずいぶん……せっかちっすねー」
ドロルは以前王都に住んでいた際、一時期戦士学園に通っていた。
その際にクラスメイトだったことのある男だ。当時から学園一の剣豪とされ、得物を一振りすれば鉄さえも切り裂く。当代屈指のディフェンスクラッシャーである。
「でも今日のお仲間はいつもと違うみたいっすが」
「あいつらは王都でお留守番だぜ」
ガブリの感じた気配はせいぜいCランクパーティだから、全員が【シャイン】だとすれば弱すぎた。だから安心して出てきてしまったが、とんだ食わせ者が混じっている。
「でもなんでこんなところでスライムの世話なんてしてんだ? ガブリ。勇者を目指すんじゃなかったのか負け犬がよう」
ガブリはスラム街の出身だが、その才能が買われて戦士学園中等部に通うことができた。
ガブリは当時から言いまくっていた。
ウチは勇者になるんだ。
下賎な出で盗みばかりしていたガブリ。
——綺麗で格好いいお金を稼いでね。ガブねーちゃん。
妹分にそうやって送り出されたガブリが、王都で中途半端なことができるわけはなかった。
勇者になる。
勇者になる。
勇者になる。
日々戦いに勤しみ、そして絶望した。
勇者になる器とは、要するに覚悟なのだ。自分が強くなるためであれば、誰かを犠牲にする覚悟。最終的に世界を救えれば、盗みもするし人殺しだって厭わない。
それをビューニッツは持っていた。
当時ガブリと比べ、ビューニッツが圧倒的に強かったとは思わない。
しかし、戦闘訓練でガブリはビューニッツに殺されかけた。ビューニッツには覚悟があった。ガブリを殺してでも自分が強くなるという覚悟が。
我を失ったビューニッツの靴を舐め、なんとか正気を取り戻させてことなきを得たのだ。
ビューニッツは怖い。首元に押し付けられた剣先を思い出し、ガブリは震えそうになるのをなんとか堪える。
「追放された辺境でスローライフでも楽しもうってか」
違う。
覚悟が足りないと思ったから、学園を離れてそれを磨こうと思ったのだ。
そして強くなって、もっとも勇者に近づけるパーティに入ろうと。
「ここにいるのが最短ルートだったんすよ。勇者になるための」
「はっはっは。スライム牧場が? わけわからん。ま、いいや」
ビューニッツの顔が真剣味を帯びる。
「端的に言う。俺たちの目的は二つだ。クイックスライムと、おまえの身柄だ」
「ウ、ウチの?」
「ああ、ここの牧場主はクイックスライムを繁殖させられるらしい。その秘伝を聞き出せれば、俺たちはレベルあげ放題。お前はそのための人質になってもらうぜ」
「ひゃは。ゲスっすね」
一瞬の出来事だった。
ビューニッツは背中のバスタードソードを居合の如く早業で抜き、それをガブリに打ち込んだ。
ガブリも瞬時に応戦。ベルトから抜いたククリでそれをいなそうとした。まともに受けたらダメだ。ククリごと真っ二つにされてしまう! 斜めに逃すように——
——ガチィン!
しかしガブリの反応が追いつかず、刃と刃が垂直にぶつかった。
結果として衝撃は逃げず、刀身にすべての力が掛かった。当代屈指の戦士の一撃。
刀身が、折れた。
バスタードソードの。
「え?」
ビューニッツが不思議そうに柄しかなくなったバスタードソードを見ている。
そして柄を捨て、仲間のところに歩み寄った。
「ごめん、ちょっとそれ貸して」
仲間から受け取ったポールアックスを、力任せにガブリに振り抜く。
——バチィ!
真っ二つである。
斧刃が。
ビューニッツがぽかんとした表情を浮かべている。
ガブリは思った。
なんかこのククリ、硬くね?




