彼女が言うには
彼女の長い長い話によると、彼女はいま三度目の人生を生きているらしい。
時間が巻き戻っているそうだ。
一度目は16歳で死んだ後に時間が巻き戻って3歳からやり直し、15歳まで生きた後にまた3歳からやり直す羽目になり、今で三度目の14歳だそうだ。
は?
頭がこんがらがる。
さらに彼女が言うには、一度目の人生が16歳で終了したのは僕のせいらしい。僕が彼女に罪を被せて、死刑にしたそうだ。
それから時間が巻き戻り、死んだ彼女は生前をやり直すことになった。
そこで二度目の人生は復讐を企て、殺られる前に殺ってしまえと僕をナイフで刺したそうだ。
そう、あの夢だ。
あの夢は一度実際に起きた出来事なのだ。
「じゃあ僕が死んだあとに、また時間が巻き戻って、今度は僕が生前の人生をやり直していると?」
彼女は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「いえ、殿下は死んでいません。殺り損ねました。夢の中で、殿下は気を失ったところで死んだとお思いのようですが、その後に記憶喪失となり、わたくしと再会しています。遠い異国の島で」
彼女曰く、その島の娘と僕が熱烈な恋に落ちたために、僕は彼女を殺したのだそうだ。
一度目の人生でも二度目の人生でも、僕は島の娘と出会い、彼女と恋仲になったそうだ。
「そんな話……とても信じられないよ」
僕の反応は至極真っ当なものだろう。
いきなり「三度目の人生」だの「時間が巻き戻った」だの「前々回殺されたから、前回は殺ってやった」だの言われて、はいそうですかと鵜呑みにできる人間がいるだろうか?
彼女はむきになって言い張ることはなかった。
「殿下が信じようと信じまいが、わたくしにとっては真実ですから」と妙に悟った口調で答えた。
こういうところが可愛げがないのだ。
しかし、変な嘘をつくような女ではない。
「で?」と僕は言った。
「これからどうしたいの? 今度こそ僕を殺って、その盗賊と一緒になりたいのか?」
聞きたくないが、聞くしかない。
はいと答えられたら、立ち直れる気がしないというのに。
彼女曰く、全て僕のせいらしいが、言われても全く記憶にございませんな事だから反省しかねる。
この僕が、一国の王子としての自覚に満ちているこの僕が、変な島の女に惚れ込むとか嘘だろって話だし。
彼女はじっと僕を見据えたまま、ふうと息を吐いた。
「ヒューゴーがドージャ王の命を受けて、宝探しの旅に出ているかどうか知りたいのです。もしそうなら、また時が巻き戻るかもしれないということです。すでにドージャ王が11年前の出来事を変え、初恋の相手を救えているのなら、もう時間の巻き戻しはしないでしょうが」
「また失敗して、また時間を巻き戻すつもりかもしれないと?」
「すでに二度もしていますからね。三度目もあり得るかと」
「そんな簡単に、自分都合でぽんぽん巻き戻せるものなのか、時間って。ふざけてるな」
「そう簡単ではないようですが、ふざけてますね」と言った彼女は、怒りを滲ませている。
怒りの矛先が僕からドージャ王へ移ったらしいのは良いことだ。
「そのお陰で、一度死んだわたくしもまだ生きていますが。何度も何度も、一人の都合で世界を変えられてはたまりません。わたくしや初恋の女性が救えたとしても、そのせいで逆に不幸になる人間も出てくるはず」
だから、と彼女は強い口調で言った。
「説得して止めなくちゃ」