3.世界渡りのプロローグ 第四章 01異能を得るための夢中という力
「罪の土地で異能が使われました」
冬彦は千秋と共に裁判教会に報告に来ていた。
「やはりですか。わかっていない人もいたのですね」
「わかっていない人?」
神父さんの言葉に千秋が疑問の声をあげる。
冬彦は異能で罪の土地で起きたことを記録媒体に出力中だ。
「本来、異能なんてなくても人は生きていける。
だから、異能を持っていないなら使わないことを選択する。
それが一つの正解なんです」
「え〜、それだと異能を持っている人だけずるくないですか?」
「いえ、その思考が違います」
千秋はそこで気付いた。
「そっか、異能でズルをするなんて発想がないんだ」
「そうです。異能は究極的には自身の通常の力が高まった結果えた普通の力の発展です」
「えっ、つまり」
「その人は普通にしていても、そのくらいできるのですよ? ただし、その人が外的要因を何も受けていなければですが」
神父さんはそう言う。
確かに天典は声を聞いて、嘘を見抜くなんて、異能と認定される前からできていた。
外的要因、つまり人が人から奪ったり奪われたりと言ったことだろう。
いや、もっと言えば、裁判教会から与えられたり与えたりもあるかもしれない。
「ですから、ズルという発想がある世界がまだ汚いだけなのです。
そういう発想がある世界だから、裁判教会が介入したりして、それを修正しなければならない」
「でも、裁判教会すらある意味の優しさであり、言い換えれば甘さというわけですね」
冬彦が出力の終わった記録媒体を手に話に割り込む。
「ええ、そうですね。
本来、奪うやズルなんて発想の人には理によって神秘の裁きが下る。
ですが、裁判教会はそれを止めたり、こういう償いをしてみませんかという形で妥協案を出す」
そう裁判教会には神様がいる。
だから、理というただ存在する理屈。
冷酷な事実による裁きではなく、心を持った神によるオンジョウある裁きを提案する。
だから、冬彦のような考えの人が裁判教会に誘われたのだろう。
「でも、なら異能のない人は、天典みたいな異能を手にするにはーー」
言葉にして千秋は気付く。
「そっか、天典は感情のこもった声をアニメで、注意を促す声をニュースで、答えのわかっている問やその反応を日常生活や学校で、事実を隠した話や嘘を私達の知らないところやどこかで聞いたんだ」
「そう、天典さんは努力なんて話にならないくらい普段の全ての声が彼の能力を異能にした訓練だったのです」
想像できるだろうか普段、耳にする全ての声が訓練。
人の声が聞こえる時に休む時なく訓練していた結果。
しかも、本人がそれを努力だと思っていないくらい当然のように夢中に行なう。
それだけではない。
音の高さ、かすかに乱れる音、呼吸の音、息づかい、などなど沢山の要素を間違えることなくわからなければならない。
それが異能を手にする手段。
世界から異能を与えられた人はそんな努力を努力と思わずに夢中に行った。
それを奪う?
どれだけの裁きが下るだろう?
それを軽減するのが裁判教会。
そしておそらく、その力はその人だから手に入れられた力。
そんな力を同じような道を歩み、至った人ならともかく、維持するなんて奇跡に近い。
だから、それを維持しているなら、その人も同じようにそこに至った同志か、相当の努力か裁きを既に受けている努力の人のはず。
「外的要因を受け続けているわけでないでくださいね」
そう外的要因を受け続けている場合は違う可能性はあるが、それでも大丈夫。
その人は一人ではないのだから。




