2罪のハジマリ 第二章 05
冬彦の誕生日がきた。
冬彦は千秋に呼び出されていた。
だが、千秋はそこに俺と春美ちゃんも呼んでいた。
冬彦は春美ちゃんがいても、千秋を選べるかを知りたいのだろう。
そして、俺を呼んだのは、冬彦がもし告白を受けたら、それが恋なのか、俺に聞き分けてほしいのだろう?
まあ、冬彦が警戒して来ないことがないようにという意図も少しはあるのだろうが……。
そして冬彦が来た。
「やあ、千秋、どうしたんだい?」
「うん、冬彦。まずは誕生日、おめでとう!」
「ありがとう」
冬彦の声を分析する。
冬彦は千秋にこんな何もないところに呼び出される状況でも、千秋が告白しようとしていることに気付いていない。
「それで、プレゼントだけどね?」
「うん? なにも持っていないようだけど、間に合わなかった? 天典も間に合わないみたいなこと言ってたしいつでもいいよ」
「ううん、プレゼントはね? 私」
「私? 一日、デートでもしてくれるのかな? あっ、春美みたいに楽しい時間をくれるとか?」
「違うよ。私はね? 冬彦のことがずっと前から好きなの! 恋をしているの!」
「えっ?」
その言葉には驚きともう一つの感情があった。
それは不安。不安なんだろう? 今の関係が壊れることが、そして、恐らく、冬彦がきちんと自分の気持ちを見極められるかが……。
「だから、付き合ってほしい。どうかな?」
「……今はまだ、答えが出せない。春美と形だけでも付き合った今、僕はどちらかを選ぶことができない。だから、こんな選べない僕が許せないなら、見捨ててくれていい。でも、見捨てないでくれるなら待っていてほしい。いつか必ず選ぶから……。必ず答えを出すから……」
「それがお前の答えか?」
俺が問う。
「ああ」
冬彦は即答した。
「千秋、これは冬彦の本音だ。一切、嘘偽りはない」
「そっか、ありがとう。冬彦、天典も……。じゃあ、待っているから。いつか必ず……」
そう言って千秋は去る。春美ちゃんもついて行く。女の子同士だから励ましあえるだろう。
だが、俺はもう一つ思うことがあった。
冬彦の言葉で冬彦が他の女子の告白を断っていた時の感情の名前だ。
それは寂しさ。あるいは物足りなさだった。
冬彦はもうすぐ誕生日なのにおめでとうを言ってくれないどころか、そのことに触れることすらしてくれないことを気にしていた。
自分の誕生日すら知らない程度の気持ちなのか?
まあ、知っていても気負ってしまって言えないコが多かったのだろうが……。
そう、冬彦はこの一言が欲しかったのだ。
「冬彦、誕生日、おめでとう」
「ああ、ありがとう! 天典はやっぱり、間に合わなかったのかい?」
冬彦の声でプレゼントのことを言っているのだとわかる。
だが、冬彦はプレゼントなんてなくてもいいと思っているのもわかる。
「ああ、間に合わなかった。だが、これで、俺のプレゼントも贈れるだろう。冬彦、不安なのもわかるが、安心して選べ。間違ったら、春美ちゃんの時のように俺が教えてやる。今度は殴ってでもお前の気持ちに気付かせてやるよ」
「ああ、天典、その時は頼む」
冬彦の感じていた感情は寂しさだった。
いろんな女子に好かれる人気者の冬彦は、それでもなお、自分のことを考えて言ってくれる言葉を欲していた。
自分の欲しい言葉を言ってくれないから……なんてわがままかもしれない。
でも、告白するほど冬彦のことが好きならわかるだろうとも思う。
両極の意見が浮かぶが、俺には冬彦のその想いが悪いことだとは思えなかった。
でもね、冬彦みたいに傷つけないようにする配慮は必要なんだよ?
俺は冬彦を正当化するために、そんなことを思いついた。




