2罪のハジマリ 第一章 05
「それはおかしいね?」
「だろ?」
翌日、先日とは別の喫茶店で千秋に昨日のことを話した。俺だけ何も情報を話せないと思っていたから役に立てて嬉しい。
「私もね、友達に聞いてみたんだけど……。なんか、私がメールで情報を集めていた人の一人がうっかり『私達が探っている』ことを春美ちゃんに伝えちゃったんだって」
「なるほど、それでこのタイミングか?」
「しかも、そのコに探っているのは怒らないから、それを自分に伝えちゃったことを言わないでって言っていたんだって」
「ますます、怪しいな。ん? なんで、お前はそれを知っているんだ?」
「買収。ジャンボバナナパフェ。五百円になります♪」
そう言って右手を差し出す。
「この手はなんだ?」
「だから、五百円。必要経費でしょ♪」
「ん」
そう言って二百五十円を出す。
「足りないよ♪」
「必要経費なら割り勘だ」
「ちぇ、なら、ここのお代でいいよ」
「その方が高いだろ!?」
「男の甲斐性を見せてよ」
「まあいい。その代わり、俺が春美ちゃんと接触できるようにしてくれ」
「じゃあ、それは別料金で……。って、冗談だよ。先に行かないで。ここのお代は払って!」
それから、俺達は俺が春美ちゃんに接触できるように手を尽くしたがどれも失敗に終わった。
改めて、春美ちゃんの家を訪ねたり、学校で接触しようとしたり、デートについて行くのはダメということだったので、千秋がセッティングした女友達とのカラオケで接触しようとしたり(俺まで千秋に無理やり連れて行かれそうになったり)した。
だが、失敗どころじゃ済まなかった。
流石にやりすぎだということで千秋が冬彦に怒られたのだ。怒られたというより注意されたくらいだ。
そもそも、冬彦は滅多に怒らない。それどころか、注意すらしない。
前にそれについて聞いたら、他の人の事情や考え方を否定したくないからと言っていた。
だから、冬彦が注意をするというのはそれなりに効果がある。
千秋はかなり落ち込んでいた。
俺は落ち込んだ千秋を河川敷で励ましていた。
「なんでよ。なんで! 私は冬彦のために! それに春美ちゃんに会おうとすることをやりすぎって怒られるのはおかしいでしょ!」
「落ち着けよ。冬彦は疑うことを知らないんだよ」
「なら、なんで、私を疑うの!」
「別に疑ってないだろ?」
「疑ってるよ! 普通に春美ちゃんに会いたいだけかもしれないじゃん」
「あっ……。いや、で、でも、俺を連れて行くのはやりすぎだろ?」
「でも、天典はカラオケには行かなかったじゃん!」
「つ、連れて行こうとはしただろ?」
「なら、なんで、冬彦は春美ちゃんの告白を受けたの!?」
「なんでってお前……」
もう論点がずれている。ただ、不満を吐き出しているだけだろう。
「なによ。付き合うって友達になりましょうってことだろって!? それじゃあ、私が先に告白してたら受けていたってことじゃない!?」
「いや、もう友達だろって言うだろ?」
「じゃあ、私達は付き合っているの!?」
「……」
俺は何も答えられなかった。
この言葉達は千秋の本音だ。
俺には――、俺だからこそ痛いほどわかる。
そう、俺に好かれているなんて微塵も思っていないことも……。
「それを俺の前で言うのか?」
「えっ? どういう――」
続きは言わせなかった。
俺は自分の唇で千秋の唇を塞いだ。
唇を離すと千秋は驚いて言った。
「なんで? ……あっ。ちが――私達っていうのは私と冬彦のことで……」
その言葉を聞いてわかった。
この期に及んで、千秋は俺が千秋のことを好きだとは思っていない。
俺が千秋の『私達は付き合っているの!?』という言葉を俺と千秋が付き合っているかという意味に誤解したと思っているのだ。
たしかにそう受け取れないこともない。
俺の特技を知っているくせに……。
それを忘れている。
だから、俺はそれに合わせる。
ここで告白してしまえれば良かったが、俺にはそこまでする勇気は――俺達の関係を壊す勇気はなかった。
「そうか……。悪かったな。俺は少し歩いてくるよ」
そう言って俺は立ち去った。




