2罪のハジマリ 第一章02
翌日、俺は学校の近くにある喫茶店で、冬彦に動画のことについて説明した。
「ああ、何かと思ったら、やっぱりそうか?」
「ああ」
「でも、なんで、そのコは僕にこんな動画を送ろうとしたんだい? それに、別に天典が説明しなくても、僕が誤解しないことはわかっていただろう?」
「……お前、その疑問が出て、なぜわからない? まあ、でも、一応な」
こいつ、基本的には鋭いのに、色恋沙汰になるとダメなんだよなぁ・・・・・・。
まるで自分を好きになるやつの気持ちがわからないって感じで……。
「? あっ、待てよ? なあ、天典。天典?」
「…」
俺は冬彦の鈍感さに呆れて無視する。というより、今はこいつの鈍感を治す方法を検討中。
「はあ~、また、考え事か。テンテン」
「テンテン言うな!」
「ハハハ、ごめん、ごめん。天典もこんなことで反応するようなら、まだまだ子供だね?」
俺はそのあだ名だけは嫌なので抵抗した。
だが、その反応すらからかわれたので、反撃した。
「そんなガキっぽいあだ名で呼ぶ方が子供だろ?」
「それに反応するから子供なんだよ。天典を呼んだわけではないかもしれないだろう?」
テンテンとは俺の昔のあだ名だ。たしか、小学生くらいの。なぜ、そう呼ばれていたかはわかるだろう? 名前の漢字を違うように読んだだけだ。
中学生になったら呼ぶ方も呼ばれる方も恥ずかしくなって自然と使われなくなったあだ名だ。
「それでさ、天典。今の話を信じてあげる代わりに、僕の頼みを聞いてくれないか?」
「頼みか? いいぞ」
「本当かい!?」
「ああ、だが、信じる代わりとかはなしだ。普通に信じてくれ。そんなことがなくても聞いてやるから。というか、お前、最初から信じているだろ?」
実はこういう噂は一度ではない。
冬彦は告白されたことからわかるようにモテるのだが、イベントで告白を受けてからもその人気は落ちていない。
そして、本当なら、その告白をしたコに噂が立つのが普通なのだが、どこで聞いたか、冬彦のことを好きになるコはだいたい冬彦と一番親しいのは千秋だとわかっているのだ。
「ハハハ、でもまあ、千秋がやっと天典に振り向いてくれた可能性もないわけじゃないだろ?」
「それなら、俺がお前に一番に伝えるだろ?」
そう、こいつは俺の親友だ。
その親友に俺の恋の成功を一番に伝えないわけがない。
「ん? 天典達(、)じゃないのか?」
「あ~、それはわからないな」
「まあ、ともかく、頼みっていうのを話せよ」
「うん、実は罪仙の家の人から、最近、春美の様子がおかしいって聞いて」
罪仙春美。
告白イベントで最終的に冬彦に告白したコだ。
「様子がおかしい? どんな風に?」
「家にいない時間が多くなったとか……」
「はあ? そんなの、当たり前だろ? お前といるんだから」
付き合っているからとは言わない。
二重の意味で言わない。
「それが……、僕と会っていない時も家を留守にすることが多いらしいんだ」
「そういえば、なんで、そんなことがわかる? 罪仙の家にはほとんど人がいないんだろ?」
そう、罪仙の家は他の家よりはお金持ちなのに、家にお金を使っていない上に、家事はできる人がやる方針で両親は仕事であまり家にいない。そこで冬彦が補足する。
「なんか、電話に出ないんだって」
「なら、そう言えよ。そういうことは情報の正確さも大切だぞ」
「天典の特技なら大丈夫だろ?」
「そうでもないさ。自分の見抜いたことと相手の言葉が違ったら、いつも迷う。実際に間違えたこともある」
そう、間違えたこともある。
もう大分前の話だが・・・・・・。
それに、自分が信じきれずに相手の言葉を信じて間違えていたり、見抜いていることを言えなくて相手の言葉通りに行動せざるを得ないこともあった。
「まあ、ということで、春美が家の人からの電話に出ない理由を探ってくれ」
「その前にお前はどう思っているんだ?」
探るのはいいが、その前に冬彦の言葉(、、)を聞いておこうと思い、冬彦に問う。
さて、この色恋沙汰が苦手な冬彦はどう思っているか?
「う~ん、もうすぐ、僕の誕生日だから期待しているってとこかな?」
「なるほど」
その言葉は偽りのない本音だった。
浮気だとかは考えないんだな?
いや、浮気とは言わないか?
だが、やはり、冬彦の言葉には心配もあった。当たり前のことだが、普通の人間としては上等だ。
その心配が、嫌な予感が――当たらないことを祈ろう。




