第二章 05
ジンの頑張りはジンの知らないところで効果を出し始めていた。
「なんか、秋月、変わったよな?」
「ああ、なんか、秋月っていうより、ジンって言われた方がしっくりくるよな?」
「わかる、わかる。俺、この間、顔を見ないで片手間で話をしていたら、ジンと間違えたもん」
「ああ、確かにあるよな」
「まるでジンと秋月が入れ替わったみたいにさ」
「ハハ、ありえねえって」
「でも、そう言われたら、信じそうだろ?」
「ああ、まあ、そうだけどな」
「まあ、秋月も嫌なヤツってわけではないけど、ジンの方が親しみやすかったしな」
「でもさ、最近のジンがジンらしくないかって言われたら、微妙なところじゃないか?」
「ああ、たしかに。普通に話せるし、まあ、前よりは付き合いが悪くなったけど、彼女ができたらしいから、わからなくもないし……」
「でも、彼女が誰かは完全に入れ替わっているよな」
「ああ、わかる、わかる。王君に法内だもんな? 法内なんて絶対、ジン狙いだっただろ!?」
「もしかして、法内は何か知ってるのかもな?」
「入れ替わったとか?」
「ハハ、だからありえねえって。……ありえねえよな?」
冗談半分でもジンと神斗が入れ替わったかもしれないという疑念は浮かんできた。
だが、それが完全に信じられなくてもいいのだ。
たとえ入れ替わったわけなくとも、性格が変われば、扱いもそれなりのモノになる。
そう考えると、人の扱われ方は性格に起因する必然なのかもしれない。
だとしたら、人が変わることで運命は変えられる。
ジンはそれを証明した。
だが、そうでないモノもある。
「でも、王君は……」
「王君はジン狙いだったよな? 腹立たしいことに……」
「でも、どっちとお似合いかっていえば、秋月だろ? サッカー部だし」
「ああ、アイツ、サッカー上手いもんな」
「最近はダメダメだけどな」
「なあ~~、サッカー部も痛手だよな」
「そうか? 知らないのか? 最近のアイツ、少し前から急にディフェンスがうまくなったらしいぞ?」
「えっ!? なんだ、それ? マジか?」
「ああ、と言っても、それまではオフェンスだったし、他のレギュラーにもディフェンスはいるから、急に変えられないんだけどな」
「そりゃ、そうだろ? 急にディフェンスのレギュラーより上手くなるわけがない」
「いや、それが、少し前まではそうだったんだが、練習していくうちに、追い越しやがってよ」
「うわ、マジ? よく、陰口の標的にならないな」
彼らは自分達が陰口に近いことを言っているのかもという自覚はほとんどない。
彼らはジンを褒めているだけなのだ。
「それが、部活の時間内はきちんと、今までの練習をやって、ディフェンスの練習は居残ってやる上に、他の練習相手に無理強いをしなくて、常に下手に出て、丁寧に教えをこう。おまけに、性格もジンになったみたいに、こっちが代わりに無理を言っても大抵、承諾するとか――」
「おいおい、大げさに言っているだけだろ?」
「それがそうでもないんだ。最初はいじめのつもりで、じゃあ代わりに用具の片付け全部やれとか、マネージャーがいるのに、マネージャーがやることを全部やれとか言ったらしいんだが、嫌な顔一つせずにやるらしい」
「はあ?」
「しかも、いじめのつもりで言ったやつが他のやつに聞いたら、用具の片付けは、既に自主的に全部、自分でやっていたらしい」
「おい、そこまでいくと先生が……」
「いや、先生にまで根回ししていて、残って練習するのに許可をもらっている上に、残るという無理を通す条件とか言って、片付けを自分から言い出して、普通ならダメなところを、熱意ある説得に先生が感動して、休日の練習の時と、平日にやるならという条件とあまり遅くならないならという条件で承諾したらしい」
「なんだ、そりゃ、気持ち悪いくらいにジンだな」
「ああ、ジンって、質問はどうでもいいことを聞いてきて、こっちにどうでもいいことを強いるくせに、行動は細かい面倒くさいことをするのをどうでもいいと思っているみたいに、進んで、雑用を引き受けるもんな? しかも、その上、いつも、いろんなことを教えてもらっているからとか言って、無理にも答えるし、あれで平等だと思っているのか? 大抵のヤツは平等だと思っていても、それなりのヤツだと、もう逆に平等とか貸し借りとか諦めて、おせっかいで好奇心旺盛なヤツだと認識することにしてるもんな」
「でも、最近のジンはそうでもなくなった代わりに、最近の秋月は今までのジン以上だろ?」
「ハハハ、でも、まあ、入れ替わっていたとしても、今のアイツは今のアイツだ。名前なんて関係ない。アイツは……イイヤツだ」
ジン、頑張っているな……。
そろそろかな……。




