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純血のかぐや姫  作者: 瑞希
輝夜姫 ~嫉妬が国~
14/29

〈無知は罪なり〉

「アンタ馬鹿だろ。」


傷だらけの翔の顔でそういう青年に、私はまた泣きそうになった。

奴隷なんて…。

奴隷なんて!

悲しと共に怒りも次々と沸き上がってくる。

どれだけ痛かったことか、どれだけ悲しかったことか。

私には想像もつかない。


青年を嫉妬の国に住まわせるに当たって、強欲が国のシシャは全力で首を振っていた。

説得するのには苦労したけど、何時間もかかってやっと首を縦に振ってくれた。

強欲が国には既に死んだ、ということで済ませてくれるそうだ。

見かけによらず優しい人で良かった。


そう言うわけで、空のような青い瞳をもつ翔のそっくりさんは、嫉妬が国に住むことになった。

というかしました。

私を殺そうとした罪は、アドリアナの容赦ない拳で十二分だと思う。

あの小さな体の、どこにあんな力があるんだか。


「馬鹿?どうして?

 あ、お腹空いてない?」

私がそう聞くと、翔のそっくりさんは私の前に立ちはだかって歩くのを制止した。


「俺は!

 暗殺者だぞ?!何で近くに置こうとする?!」

確かに、翔のそっくりさんは飽くまでそっくりさん。

つまりは他人だ。

でも、それを抜きにしたって。


「あなたは、私を殺さなかったでしょう」

あのとき殺せるチャンスは十分あった。

でも、青年は結局私を殺さなかった。

それが結果論でも、私にとってはその事実が何より大切。

それだけで無駄な血を流させない理由になれるのだから。


「あ、明日殺すかもしれんだろう!」

「そうだとして何故それを私に言うの?」

焦ったような物言いに私が聞き返すと、青年は押し黙った。

この青年には私を殺す気なんてまるでない。

むしろ、心配されているようにも感じる。

声の色が見えなくなっちゃったから、勘なんだけどね。

どっちにしたって、私はこの青年を手放すつもりはないのだから。


「名前は?なんと言うの?」

「…名などない。」

立ちはだかっていた青年を避けて、私はまた歩き出した。

青年は黙ってついてきてくれた。

どこへ行くにも、まず広間へ行かなくては。

ご飯を食べるのが先か、お風呂に入るのが先か、眠るのが先か。


「そうなのですか?

 でも、嫉妬が国の言葉とても上手ですよね」

青年は強欲が国から来たと言うが、そういえば嫉妬が国の言葉…というか日本語がむちゃくちゃ上手い。

変な癖もないし。

頭良いんだろうなぁ。


「だから俺が選ばれた。」

「ああ。そういうことですか。

 では名前をつけましょう。」

私は納得した。

選ばれた人が偶々嫉妬が国の言葉を話せたのではなく、嫉妬が国の言葉を喋れるから選ばれたらしい。

その口ぶりだと、青年以外にも奴隷は居たようだ。

また怒りが沸いてきそうになったが、青年の前だからと私はそれを見て見ぬふりした。


「まともな名前はつけなくて良い。」

青年はもう拒否する気力もなくなったのか、適当にしてくれと言った。


「ナナシ!

 七つの志と書いて七志。」

「適当な割に大層な名前だな。」

名無しというダジャレの意味も込めて。

ちょっと、皮肉めいてるかとも言った後で思ったけど。

七志と名付けた青年は怒っている様子はない。


「そちらの国っぽい名前を考えましょうか?」

「いや、それで良い。」

時間はかかってしまうが、もう少し悩むべきかと聞くと、七志は首を振った。


「そうですか、では七志!

 お腹は空いていませんか?」

「別に。自分の世話くらい…」

言いかけると、七志のお腹がグーッと鳴った。

本人が食べないことを選んでも、体は食べる気満々のようだ。


「チッ。」

「決定ですね。」

横目に七志を見ると耳まで真っ赤になっていた。

舌打ちしても全然怖くないどころか、可愛い。

では早速、ご飯を食べに行くことにしよう。

…てことは、七志もとりあえずは一人にしないといけないのかな。

強欲が国での食事方はどうなんだろうか。


「七志、一緒に食べますか?」

「好きにしてくれ。」

「はい!」

私は満面の笑みで言った。

やっぱりご飯は一人で食べるより、人と食べた方が美味しい。

お母さんもお父さんもそう言ってた。

…失敗。

また思い出しちゃった。

お父さんとお母さんのこと。


「かぐや。」

「ラムセス!」

一瞬暗い気持ちになると後ろからラムセスの声が聞こえた。

毎度毎度、神出鬼没なもんだからいい加減なれてきた。


「王たるもの、無闇に食事の姿を見るものじゃない」

「あ…嫉妬が国はそうなのか。」

「ああ。」

ラムセスの言葉に、七志はバツが悪そうに頭をかいた。


「ダメ、なのですか…」

また一人で食べないとダメなのと私はラムセスに聞いた。

今一人になるのはとても心細い。

ただでさえ嫌なのに。

ラムセスは間を開けてから、やはり無表情に口を開いた。


「よろしくない。」

「そう、ですか。」

少し…いや、むちゃくちゃ寂しいけどラムセスが言うのなら諦めるしかない。

そんな私を見かねたのか、七志が口を開いた。


「…お前は王だろう?

 なんで使い魔に従うんだ」

「…そ、それもそうなんですけどね」

七志の言う通りだけど、癖になってしまっている。

王たるもの、もう少し自覚を持たなければダメかもしれない。

今は良いけど、例えば他の国の人が来たときとか。

あ、さっきまでいた。


「名を与えてくれた以上、俺はお前を主と認識する。

 俺は主たるお前の望みを叶える。」

「……義理堅いのですね。

 ありがとうございます。

 ですが、たかが食事の話ですから。」

そう、たかが食事の話だ。

ラムセスに聞く以前に、王がわがままを言っていれば世話ないだろう。

七志がそんな風に言ってくれただけで、今は嬉しかった。


「それだけじゃない。」

いつのまにか、耳は元の色に戻っていて顔も無表情…?

厳しい顔になっていた。

怒っている…のだろうか?


「おい、藍蛇様の御前だぞ」

「大貴」

大貴はシシャさんの見送りをしていたはずだが、もう帰ってきらしい。

強欲が国のシシャさんは駄弁るような人にも見えないし、たぶん早々に帰ったのだろう。


「俺は腐っても青の瞳を持ってる。

 だが、強欲が国も出た身だ。」

「嫉妬が王に遣えながら、青い瞳を持ち続けるつもりか?」

二人はガッツリ睨みあって言った。

なんか、一触即発の雰囲気…………?

翔と大樹はめちゃくちゃ仲良かったと思うんだけど…。

なんか複雑。


「主が望むなら、藍色の瞳でもいい。

 俺は嫉妬が王じゃなく主に遣えてるんだ。」

「あの…、瞳がなんだと言うのですか?」

巷で噂のカラコンでも付けるのだろうか…?

髪色はともかく、瞳の色は変えられるものじゃないと思うけど…。


「………………それすら教えていないのか?」

「…教えるまでもないかと」

私の言葉を聞くと、七志はとても怖い顔になった。

これはわかる。

明らかに怒ってる。


「ハッ。

 無知な王だと思っていたが、お前たちが無知にしていたらしい。」

「なっ…!」

「ま、まだ日が浅いものですから…」

突然悪く言われたことに少し動揺しながらそう弁解、というか言い訳した。

私が頭悪いと、大貴が怒られてしまうのだと今更ながらに理解した。

語学に関しては成果も出てると思ったんだけど…。

でも、そうだ。

王様なら、政治の事とか、戦略の事とかを勉強もするべきだったはず。

それなのに私は…。

私、こんなんで良いのかな。

王様って、こんなんで良いのかな。


「瞳のことを知ってれば、俺が敵だと真っ先にわかったはずだ。」

「??」

…瞳?

瞳なんて今の時代みんなバラバラでしょ?

よっぽど、血を大事にしてる家じゃない限り、家族ですら同じってこともない。


「瞳は、所属する国や使う魔法によって決められる。

 ここにいる奴等は、全員藍色の瞳だっただろう。」

「ぜ、んいん…?」

私は、赤い瞳の小さな女の子を思い浮かべて首をかしげた。


「ああ、あのチビは違う国の出身だろう。」

「そうなのですか?」

「あ、ああ。」

そう言われてみれば、濃い薄いの違いはあれど、アドリアナ以外の嫉妬が国の人の瞳はみんな藍色だ。

日本も、大昔はこんな風にだったのだろうか……?

今ではそんなことも分かりはしない。

調べれば解るんだろうけど…。

そんなこと調べたところで……。

日本語じゃなくてエルセラ語でした。

大体、日本語みたいなもんなのであんまり気になくても。

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