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純血のかぐや姫  作者: 三古谷
輝夜姫 ~嫉妬が国~
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13/29

〈アイリスの紋章〉

「…かぐや、遅いな。」

トイレくらいなら良いかと思ったが失敗だったかもしれん。

せめて、トイレの前で待っておけば良かった。

以前なら藍蛇様が守ってくださっていたが、あの方は暇な方じゃない。

かぐや以上に仕事があるのだ。

俺が護衛しなければならない…。

だが、俺は側近である前に男。

女のトイレについていくのはダメだろう。

いや、でも、トイレにしては遅すぎないか?

…何かあったんじゃ。


俺は、そう思った瞬間に走り出した。

何かあってからでは本当に遅いのだ!

万が一、かぐやがケガでもしたら…!

いや、それならまだ良い。

万が一!万が一にも…!


「ありがとう、アドリアナ」

………………かぐやは俺の心配をよそに、赤目の子供と楽しく遊んでいた。

はぁ、心配して損したわ。


「あれ、大貴さん。」

「あれじゃねぇよ!!!!

 前もうろちょろすんなつっただろうが!!!!」

俺は、怒りをそのまま怒鳴り付けた。


「ご、ごめんなさい…」

かぐやの怯える顔を見て、俺はハッとして我に返った。

またやっちまった。

かぐやから目を離したのは、俺の責任じゃねぇか…。

感情をそのまま相手にぶつけて、バカより酷い。


「わ、悪い…。

 すまん。頭、冷やしてくる。」

俺はかぐやから背を向けて、池へ向かった。


こんなんじゃ、側近なんて務まらない。

リンも、それが分かった上で俺が魔法の教師になるのも、側近になるのも反対こそしなかったが、肯定はしなかった。

リンみたいな奴が向いているはずだ。

たくさんの事を知っているし、冷静で感情のままに動くこともない。


俺じゃ、王は守れない…。





「かぐや様…大丈夫ですか………?」

大貴が去ると、アドリアナは私の和服の裾を引いて、酷く心配そうな顔をして言った。


「ええ…。

 また怒られちゃった。」

「また…?」

私が微笑みながらそう言うと、アドリアナは静かに眉にシワを寄せた。


「うん。2回目なの。

 ダメね、私って。人を怒らせてばかり。」

少し情けなくなって苦笑いでそう言った。

王様なのに、こんなに何度も怒られていてはアドリアナも頼りないと思うだろう。


「かぐや様に何度も怒るだなんて!許せません!

 私、タイキさんを呼んで参ります!」

そういい終わるが早いか、アドリアナは走り出して行ってしまった。

私は呆気に取られながら、やっぱり、緋子さんに似てるなぁ…と呑気に思った。

思い込みが激しいっていうか、行動が早いよね。

あ、感傷に浸ってる場合じゃなかった!アドリアナを呼び返さないと!



「カグヤ・カンナギ」

かぐやと呼ばれ思わず振り替えると、そこには顔に布を巻いた人がいた。

声からして、おそらく青年だ。

…ん?カンナギ…。

それより、今の声、聞き覚えが…。


「え…」

二メートル近く離れていたはずなのに、気づけばすぐ目の前にいて押し倒されていた。

あまりに驚きすぎて、押し倒されたとき背中を打った痛みも忘れてしまった。

その痛みが戻ってこようと瞬間、私は息をするのを忘れた。

その、青年が鋭く輝くナイフを持っていたからじゃない。

取れかかった布に見えた顔が、傷だらけの源(みなもと) 翔(かける)だったからだ。




「嫉妬が王を殺せ。」

主人に言われたその言葉は死ねと言う事と同義だった。

強欲が国において、他に国へ勝手に出ていくことは大罪だ。

それに、嫉妬が王を殺せということは、亡命でもない。

例え嫉妬が国に着いて、王を殺せたとする。

そうなれば嫉妬が国からも狙われる。

二つの国を敵に回してまで俺を匿う利益なんてない。

どこの国にいても同じ。

結局、俺は最後には殺される。

失敗しようが成功しようが、殺されるのだ。


「はい。仰せのままに。」

それでも俺は、この人に従うしかない。

他に行く宛など無いのだ。

世界には、主人と俺と他の奴隷しかいない…。

違うな、主人と奴隷しかいないのだ。

体中に刻まれた傷と、たった一つの紋章に、俺たちは縛られている。


「……」

その嫉妬が国の王が今、目の前にいる。

どう見ても子供…幼い少女だ。

こんな少女を殺さなければならないなんて……。


「傷が…」

頬に伸びる手に、俺は恐怖におののいて固まった。

しかし、少女は俺を傷つけるでもなく、悲しげな顔で撫でるだけ。

…こいつはバカなのか?

自分を殺そうとしてる男にナゼそんな顔を向ける?

訳が分からない。

こうしている間にも、俺を殺してしまえばいいのに。


「おい、かぐや!」

俺は現れた護衛の男の声に、ハッと我に返った。

一旦引くことも考えたが、どっちに転んでも死ぬのだ。

それならせめて、任務を遂行してしまおう。


俺はナイフを掲げた。

しかし、そのまま下げることはできなかった。

少女があまりにも悲しそうな顔をするから。

それも、自分の死への恐怖ではなく俺の傷へのものだ。

いつもなら、腹が立つような哀れみも今は驚きしかない。

ナゼ人の傷にそこまで悲しむのか。

ましてや、俺は暗殺者なのに。


「うちに住みませんか?」

「はぁぁぁあ?!?!」


「………へ?」

少女の言葉は俺には理解できなかった。

どういうことだ?住む?バカなのか?

自殺願望でもあるのか、こいつ。


「いえ、城なら部屋はいくらでもあるでしょう?」

「バカかお前は!状況考えろ!!!」

そうだぞ。俺は今お前を殺そうとしてるんだ。

なんで俺を住ませる気満々なんだ?!

そんなんで大丈夫なのか、嫉妬が王!


「…どうでしょう?」

「え…………」

護衛の話はスルーして、俺に聞いている。

なんだ?罠なのか?

住まわせて油断したところを殺すとか言う…。

………違うなぁ、こいつ、ただのバカだなぁ………。

それも肝の据わったバカだ。


「…俺は奴隷だ。

 そんな奴は住まわせられん。」

尚も撫でていた頬がピクッと動いた。

ほらな、奴隷なんか誰も住まわせたいわけがない。

ましてや王が、触れるなんて。

物として使うにしても、王が奴隷を使う意味がない。


…?!?!!?!

何でか知らんが急に泣き出したぞ?!


「何がなんでも住まわせます!」

なんでイジになってるんだ!!?


ハッとして横を見ると、護衛の奴もなんか泣いてる!

バカなのかお前ら本当に。

嫉妬の奴らってみんなこうなの?!


「うわっ。」

急に服を引っ張られ、強制的に立ち上がらされた。

パッと後ろを見ると、また別の男がいた。

だが、その美しい藍色の瞳。

こいつが、嫉妬が国の現人神、もとい使い魔なんだろう。

使い魔は王の為に生き、死ぬものだ。


「ラムセス!良いですよね!」

少女が手を組んで懇願した。

なんで王が使い魔に頼んでるんだよ…。

立場逆だろ…。

とはいえ、高貴なる使い魔サマだ。

暗殺者を住まわせるなんて、馬鹿げたこと許可するわけがない。


「あなたが望むなら。」

うんうん。少女が望むならって

オイ!!!!


嫉妬が国の奴らって…。

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