二十四時間営業の喫茶店
「ガム食べる?」「この本おもしろいよー」
そんな感じの声が聞こえてくる、電車内。
平日の朝は学生の集団が乗っている。押しつぶされそうだ。
これから私は、電車で片道30分ほどの、小さな町に行く。
前に友人に勧められて行ってみたのだが、その町はいわゆる漢字表記にしてみれば「街」ではなく「町」と呼ぶような所であり、いわゆる郊外、言い方を変えれば「田舎」と呼ぶ事も出来てしまうのだが、私はそんな町のはずれにある、小さな喫茶店が好きだ。
喫茶店としては珍しく二十四時間営業というその店は、いつ行ってもマスターが1人でコーヒー豆を挽いている。一体マスターはいつ食事を取っているのだろうかと思わせる程である。
「次は、○○駅。○○駅。」
車掌のマイク越しの声が車内に響いた後、私は駅のホームに立った。駅を出て少し歩く。
すると私の気に入っているその喫茶店は、簡単に姿を現してくれるのだ。
ドアを開ける。重い。そしてその重いドアにぴったりな、鉄のベルが音を鳴らす。
「どうも、マスター。」「あぁ、啓一か。久しぶりだな。」
「今日は何にするんだ?」と聞くマスターに私は、いつも決まって「コーヒー」と言う。
勿論この喫茶店には何種類ものコーヒー豆があり、「おすすめ」と言えば「おすすめ」を出してくれるのだが、私としては「おすすめ」では無く、あくまでも「コーヒー」を飲みたいのだ。
勿論私にはコーヒー豆の種類についてなんて、これっぽっちも知らないし、それならなおさら「おすすめ」を頼んだ方が良いのかもしれないが、「おすすめ」と言うと、紅茶やジュースが出てくるかも知れない。
以前に「おすすめ」を頼んだ時は、コーヒーが出て来た。
だがしかし、次はどうだろう。
マスターは本当に、二度目に「おすすめ」を頼んだ場合にも、コーヒーを出してくれるのだろうか、という不安から、私はいつも「コーヒー」と頼むのだ。こう言っておけば、はずれは無いだろう。
そんなことを考えていると、コーヒーが運ばれてきた。
「おまたせ」とマスターが言った数秒後、私はコーヒーを口に運んだ。
私には1つ、後悔の念が残ったと思う。なぜ「アイスコーヒー」と注文しなかったのだろう。そのおかげで、出て来たのは紛れもない「ホットコーヒー」であった。




