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これはデートではない


       *


 デートにおける映画鑑賞というのは、どうにもこうにも時間稼ぎに思えてならない。

 二人で街を散策し、二人でお茶を楽しみ、二人で観覧車に乗り、二人で水族館へ行き、二人でドライブをし、二人で――。

 とにかく、二人で時間を共有することがデートでは肝要なのである。

 そこいくと映画鑑賞ってあまり時間の共有とは言えない気がする。空間は共有していても、スクリーンを見るその目は恋人には向かない。もちろん、暗闇の中で乳繰り合うような輩もいるから、一概に断言はできないけど。

 じゃあなんでデートの中に映画なんか取り入れるんだよ、と問われれば、時間稼ぎなのである。

 上映中にデートの予定を立てるも良し、恋人をいかに自然にホテルに連れ込むかを考えるも良し、間が持たないからとりあえず……でも良し、単純に疲れたから休むでも構わない。デートの中で唯一、精神的に一人になれる時間なのだ。

 ――と、ずっと思っていた俺は、どうやら間違っていたらしい。

 映画館に入ってチケット売り場に並んだときに、なんとなく自分と同じ境遇の連中に視線を向けてみると、どうにも皆幸せいっぱい夢いっぱいといった具合なのだ。

 手を繋ぐ、肩を抱く、腕を組む、微笑み合う。

 そこかしこで展開するいわゆる「ラブラブ」っぷりに、俺は眩暈を覚えた。

 映画なんていつも一人で観に行ってたせいか、周りなんて全然見てなかったぜ……。

 スクリーンに映画が上映されてからも、乳繰り合ってこそいないが、どのカップルたちも空間だけでなくしっかり時間も共有しているご様子。

 そして俺はというと、そんな「ラブラブ」からは程遠い。何せ相手が荒井だ。しかもヤツの目的は俺とデートすることなんかではなかったようで……。

 俺と荒井が座っている席から二列先の右斜め前方には賀田川と英輔が座り、これまたほかのカップルの例に漏れず幸せなご様子で映画を鑑賞している。

 ちなみに賀田川と英輔は俺らの存在には気づいていない。

「おい荒井、これはどういうことなんだよ。いい加減説明しろ」

 俺は小声で荒井に言った。

「上映中はお静かに」

「ぐっ……」

 仕方なくスクリーンに目をやる。

 恋愛映画らしく、大した理由も無いのに恋に落ち、なんだかよく分からないうちに主人公とヒロインが破局の危機に瀕している。

 ……俺はいったい何やってんだ?


       *      


 そもそも駅前広場に行った時からおかしいと思った。

 指定された時間に行くと、荒井はちゃんとそこにいた。肩からカメラバッグを提げていることを除けば、実にデートをする女の子的な格好をしていた。

 普段の荒井の私服は奇抜というかワイルドというか、いささか趣味が変わっているので、俺はとりあえずほっと胸をなでおろした。

 そうだよな。なんつったってデートだもんな。うん。

 だが「じゃあ行くわよ」と無愛想に言われ、行った先は駅前広場から歩いて三分もかからない位置にあるモスバーガー――の入り口が窺える植え込みの影だった。

 当たり前だが、植え込みを盾にしてしゃがんでいる荒井を通行人は怪訝な目で見てきた。

「あ、荒井、何やってんだよ」

「あんたも隠れるのよ。見つかっちゃうでしょ!」

 荒井は俺の肩をつかみ、無理やりしゃがませた。

 わけ分かんねえよ、と思ったそのとき、モスバーガーから賀田川と英輔が出てきた。賀田川は英輔の右腕に絡みつき、密着度120%であった。やはり学校とは違うらしい。

「お、英輔たちだぞ。おーい――」

「馬鹿!」

 荒井に頭を思い切りはたかれた。

 普通に痛かった。

「な、なんだよ……」

「よかった、気付かれてない」

「あ?」

「二人に見つからないように、後を追うわよ」

 荒井は俺の手を引っ張り、賀田川と英輔の後をつけ始めた。俺はわけの分からぬまま荒井に手を引かれ、着いた先が映画館だったというわけだ。そして現在に至る。

 いつのまにか映画の中の主人公とヒロインがどぎついキスをかましている。おいコラ破局寸前じゃなかったのかよ。

 何気なく荒井のほうを見てみると、ヤツはスクリーンから微妙に視線をずらしている。その視線の先には賀田川と英輔がいる。

 ……これって、デートなの?


       *


 映画が終わると、俺たちはまた賀田川と英輔の追跡を再開した。

 二人は映画の後、オープンカフェでお茶をした(俺たちは自販機で買った缶コーヒーを張り込み中の刑事のように電信柱の影で無言で飲んだ)。

 オープンカフェの次はショッピングモールで、二人は和気藹々と買い物を楽しんでいた(俺たちは万引きGメンのように英輔たちを監視していた)。

 ショッピングの次は脚が疲れたのか、二人は公園のベンチで一休みしていた。小鳥がさえずり噴水の水がきらきらと輝いていた。(俺たちはホームレスのダンボールハウスの影に隠れていた。『どや若いの一杯!』とやたらと酒を押し付けてくる酔っ払いホームレスを俺はなだめるのに苦労した。炊き出しで配給されたらしき豚汁の匂いが鼻をかすめた。豚汁は美味そうだった)。

 その後も賀田川と英輔のデートはデートとしてしっかり成り立っていて、俺と荒井の追跡も追跡としてしっかりと成り立っていた。

 問題は何も無い――と言いたいところだが、問題だらけだった。

 デート?

 え?

 これが?

 てめえ荒井ふざけんな!

 缶コーヒーと万引きGメンと酔っ払いホームレースと豚汁のどこがデートなんだよ!

 俺の中で不満は膨れ上がる一方だった。

 そして疑問も……。 

 荒井はどうしてこんなことをするんだ?

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