【第1話】「運命の出会いと、究極スキル【不屈の正義】」
第1話・前書き(異世界ギルド・新規求人票)】【職種】 異世界転生・素人冒険者(男主人公)【業務内容】 家から徒歩3分の初級ダンジョンでの、地道で泥臭いスライム潰し(1ポイント固定経験値の回収)。【必須スキル】 どんな理不尽なハメ技や処世術を喰らっても死なない「圧倒的なやせ我慢」。【職場環境】 管理者は最凶の保身ビッチ、ヤジ馬の筆頭は限界突破したマゾおじさん、背後からは石像の爺さんが昔話をノンストップで囁き続けてくる、アットホームでカオスな職場です。※なお、今回の第1話におきまして、主人公は「チート無双」を期待した結果、異世界の洗礼として網膜に深刻なシステムエラー(視覚テロ)を感知する予定となっております。それでは、読者の皆様の評価(出資)を燃料に、終わらない地獄のサービス残業(レベル上げ)へ向けて――第1話、開幕です。
「よし、今日も日夜の修行と、肉体と精神を同時に鍛え上げるための努力を積み重ねるぞ……!」
俺は泥臭い熱意を胸に、受付の掲示板を見上げた。
俺の名前はレン。現代日本でブラック企業に勤め、過労死でこの異世界に転生してきた、チート能力も冒険経験もない完全な「素人」だ。
だが、数々の精神マウンティングを浴び続け、俺のSAN値が限界突破して消滅したあの絶望の引き換えに、俺の魂には、元々持っていた熱すぎる『正義感』と融合した、世界にただ一つの固有スキルが発現していた。
それが――【不屈の正義】だ!
このスキルは、理不尽な強者の攻撃や精神汚染をその身に受けることで発動し、4回目からは100%完全無効化できる最強のカウンタースキルだ。
――だが、このスキルには致命的な制限があった。相手の理不尽な攻撃を、最低でも『3回』は直接スキル攻撃を受けなければ、相手の技を解析できないのだ。
つまり、肉体的な物理攻撃だけでなく、魔法であってもすべてスキル扱いとなるこの異世界において、その不条理な直接スキル攻撃や視覚テロに対しても、最初の3回は生身のままで耐え抜かなければならない。もし俺自身の『基礎体力』と『精神力』のどちらか片方でもヘボければ、スキルが発動する高みに至る前に、肉体が粉砕されるか、あるいは精神が完全に発狂して死ぬ。チートに見えて、その実、極限の心技体を要求する超ハイリスクな暴走スキルだった。
だからこそ、俺は毎日地道に身体を鍛え、心と体の両方を頑強に作り上げる必要があった。
どんなに地味で泥臭い鍛錬であろうとも、俺にはここで、何が何でも自分を極限まで鍛え上げなければならない【ある絶対的な目的】があった。――他でもない、俺から全てを毟り取り、奈落へと突き落としたあの『クソ野郎』への、冷徹なる【復讐】を果たすという、胸の奥底で漆黒に燃え盛る真の目的のためだ。
時刻は15時ちょうど。現実は、そんな俺のささやかな修行時間を全力で邪魔しにかかってくる。
ドガガガガガバキキキィィィン!!!
前方の狭い通路から、凄まじい地響きと、殺傷力の高い衝撃波が迫り来る。
出たな。無駄に元気な地元の野良戦士――あの最高にキモおぞましい【インスマス顔(魚顔)】をこれでもかと剥き出しにした【脳筋戦士・コイキング】だ。
そいつは全力で大剣をぶん回しているが、技術がないため魔物の討伐数はゼロ。なのに、その無駄すぎる怪力から放たれる広範囲衝撃波『しおふき』は、直撃すれば大ダメージ必至の凶悪な直接スキル攻撃のパワーを持っていた。
(危ねええええ!! だけど、今の俺の肉体と、やせ我慢で鍛え上げた精神なら、耐えられるッ!!)
普通の素人なら悲鳴を上げて逃げ出すだろう。だが、俺は逃げない。
そして俺の観察眼は、あるうざい違和感を捉えていた。そいつは初心者用の狭い通路で、わざわざ無駄にド派手な大技をぶん回しながら、攻撃エフェクトが弾けるたびに、あのヌルリとした魚顔で、無意識に管理カウンターにいる見た目が派手な【指導員アイ先輩】の方へチラチラと下品なチラ流し目を送っていたのだ。
(あのおっさん、ただ暴れてるんじゃねえ……。わざわざ人が集まるところで、アイ先輩の方を意識して大技を……まさか……?)
だが、今はその下らない違和感を考察している余裕はなかった。
ドッパーーン!
1回目の直接スキル攻撃を喰らい、俺の鍛え上げた骨格と精神が激しく軋む。
【不屈の正義カウント:1/3】
「ぐっ……前前の俺なら即死だった。だが、今の俺の根性をナメるな!」
さらに2回、3回! 俺は日夜の修行で培った筋肉と泥臭い肉体強度、および絶対に折れないやせ我慢だけで、コイキングの理不尽な大爆発をあえてその身に直接喰らって受け止めた。肉体と精神は悲鳴を上げているが、心は1ミリも折れちゃいない!
【不屈の正義カウント:3/3――スキル、完全発動!】
ピキィィィン! 俺の魂が激しく鳴り響いた。おじさんの攻撃パターンは、今、完全に俺の正義の魂に解析された!
4回目の『しおふき』が俺の顔面に迫る。だが、次の瞬間、凄まじい破壊力の衝撃波が俺の身体をただの心地よい風のようにすり抜け、完全に【無効化】されて霧散した。
「……見たか。お前の理不尽は、もう俺には1ミリも通用しねえよ」
死ぬ気で鍛え上げた心と体の果てに、ようやく掴み取った完全無効化。
だが、そいつが撒き散らす殺傷力の高い衝撃波のせいで、近くで子供向けA級指導員のカズキ先輩から指導を受けていた、未来の英雄たる子供の冒険者たちが「ゲホッ、前が見えない……!」と視界を奪われ、本当に怪我をしそうになっていた。
家が近いから通ってるだけのダンジョンだが、子供たちを危険に晒することだけは、この俺の『不屈の正義』が絶対に許さない!
「おい! 新人の衛兵さん! あいつの大剣、次は左から振り下ろしてくるぞ! 今なら死角から止められる、行けッ!」
俺はスキルで敵の攻撃を完全無効化しながら通路のど真ん中に仁王立ちし、第2監視塔にいる新人衛兵のタダシに向かって、大声でコイキングの攻撃パターンを叫んだ。
「な、何っ!? 相手の猛攻を無傷で受け流しながら的確な指示を……!? 感謝する、名もなき冒険者殿ーーーッ!!」
俺の叫びに応え、タダシが猛然と動き出す。
ピーーーーーーッ!!!(鋭い魔笛の音)
「そこまでだ、脳筋戦士殿! ギルド規約第4条『他者への配慮』に抵触している! 子供の冒険者たちが危機に瀕しているのが見えないのか! 隣のルートへの広範囲衝撃波を直ちに停止されたし!」
タダシの毅然とした注意を受け、アイ先輩に良いところを見せるどころかダンジョン中で大恥をかかされたコイキングおじさんは、インスマス顔を真っ赤にして通路の隅へ逃げていった。
タダシは高台から俺に向かってビシッと熱い敬礼を送ってくる。俺も小さく拳を握って頷きを返す。
これが、俺とタダシの――理不尽な魔境で共に戦うことになる、運命の出会いだった。
(第1話




