↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法生物飼育員は今日もかわいいに忙しい ~大学教授に紹介された最初の担当は、手のひらサイズの小竜でした~  作者: パラレル・ゲーマー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/23

第14話 ただのコルク片だったはずが、小竜の寝床に飾られていたらしい

 水曜日の夕方。

 水野拓海は、自室の机の上で、一つの小さな物体を指先でつまみ上げていた。

 三~四センチほどの、いびつな長方形に近い、小さなコルク片。

 以前、提示用のコルク円盤を作った際に切り落とされ、本来ならそのまま捨てられるはずだった『ただのコルク片』である。


「……まだ、ただのコルクなんだよな、お前」

 拓海は指の腹でその感触を確かめながら、独り言を呟いた。

 欠損はない。爪で少し強めになぞってみても、粉が落ちるような劣化もない。安全基準はクリアしている。


 拓海はバインダーを引き寄せ、過去数日間の記録をパラパラとめくった。

 あの日――三つの立派なおもちゃよりも、その日もっとも長く接触が続いたこの端材を見つけて以来、拓海は毎日ではないものの、数日おきにこのコルク片をケージ外探索の際に再提示していた。


『初回:前肢による反復接触。継続約2分40秒』

『再提示1回目:鼻先接近、前肢接触5回。対象移動後の追従あり』

『再提示2回目:前肢接触複数回。対象を約20cm移動』

『再提示3回目:提示後、他の安全対象より先に接近。同一対象への反復接触あり』


 厳密な選好試験を行っているわけではない。提示する順番も、室内の環境も、完全に統一されているとは言えない。

 だから、「ルリはこのコルク片が一番好きだ」という科学的な比較結果が出たわけではない。


 しかし。

 この何の変哲もないコルク片に対する『自発的な接触』が、別の日にも、何度も繰り返されているという事実は、すでに明確な観察記録として積み上がっていた。


「よし。今日も使える」

 拓海はコルク片を机の安全な場所に置き、ケージの中を見た。

 ルリは高所休息棚の屋根の上から、こちらをじっと見ている。

「きゅ?」

「いや、お前に聞いても分からんけどな」


 机の端には、いつもの認可撮影端末が三脚で固定されている。今日は机上の観察区画だけでなく、ケージ正面と高所休息棚付近まで広く入る位置だ。

 拓海は録画ボタンを押した。

「かわいい動画を撮ってやる!」などという個人的な欲望は、もう前面に出さない。あくまで日々の環境エンリッチメントの定点記録だ。撮影がすっかり日常の一部になっていることを実感する。


 ***


 安全確認を終え、ケージ外探索を開始する。

 窓のロック、キッチンの遮断、高所の侵入防止カバー、安全着地点。すべて異常なし。


 スライド窓のロックを外し、短い固定足場をカチャリとはめ込む。

 ルリは屋根から枝を伝い、固定足場をトテ、トテと歩いて、机の上の観察マットへと降り立った。


「本当に、そこだけは絶対に飛ばないな」

 拓海は小さく笑った。飛翔能力があることは確認されているのに、ケージの出入りの数センチだけは、いつも律儀に歩行を使う。もう完全に恒例の光景だ。


 拓海は、ルリが外に出た瞬間に、コルク片を目の前に突きつけるような無粋な真似はしない。

 まずは通常探索からだ。

 ルリは机の上を歩き、椅子の方を見上げ、安全着地点Aの方向を見やり、そして少しだけ飛翔して別の場所へ移動する。

 数分間、いつも通りの室内探索を続けさせる。


 ルリが再び観察マットの上に戻ってきたタイミングを見計らい、拓海は安全な区画の端の方へ、そっとコルク片を置いた。ルリから少し離れた位置だ。

「今日はこれ」

 声をかけるだけで、それ以上の誘導は一切しない。


 ルリは、今回は比較的早く反応した。

 頭部をコルク片の方向へ向ける。

 とて。

 とて。

 近づき、鼻先を寄せて匂いを嗅ぐ。

 すん。


 そして、右の前脚を少し上げ。

 ちょい。

 コルク片が、こてっ、と不規則に倒れる。


「はいはい、今日はそれな」

 拓海はもう、初回ほどは驚かない。いつもの反復行動の始まりだ。


 ちょい。こて。

 転がるコルクを追う。

 ちょい。くるん。

 また追う。


 これだけでも十分に可愛いのだが、今日のルリは、途中で今までにない全く新しい動作を見せた。


 ルリがコルク片に鼻先を寄せた、その直後。

 ルリの小さな口が、すっ、と少しだけ開いたのだ。


「……ん?」

 拓海の全身の筋肉が瞬時に緊張した。誤食か? 齧るのか?

 飛びついて取り上げようとする衝動を、飼育者としての理性がギリギリで抑え込む。破片が出るような噛み方をするなら、その瞬間に介入する。拓海は息を詰めて見守った。


 ルリは、コルクのいびつな端の部分を、軽く。

 かぷ。


「待て、食うなよ……」

 拓海が小声で警告する。

 しかし、ルリはコルクを噛み砕く様子を見せなかった。顎を細かく動かして削るような仕草もない。

 ただ、口に咥えたまま。

 頭を少し上へと持ち上げた。


「…………持った?」


 全長十から十二センチしかない身体。その小さな口に、三~四センチもあるコルク片が咥えられている。身体の三分の一ほどの大きさだ。

 見た目のバランスとしてはかなり巨大なものをくわえ込んでいるように見えるが、材質がコルクであるため重量自体は非常に軽い。


 ルリはコルクを咥えたまま、一歩。

 とて。

 もう一歩。

 しかし、歩きにくそうだ。コルクが大きいため、前脚を踏み出すたびに端が地面に当たったり、自分の脚にぶつかりそうになったりしている。


 とて。

 こてっ。

 ルリの口から、コルク片が落ちた。


「あ」

 ルリは落ちたコルクをじっと見つめ、すん、と匂いを嗅ぐ。

 そして、もう一度。

 かぷ。

 再び持ち上げた。


「拾うんだ……」

 拓海は驚きを隠せなかった。一度落としたものを、自発的にもう一度くわえ直した。偶然一度口に挟まっただけでは説明しにくい行動だった。少なくとも、対象を保持したまま移動し、落とした後にも再取得したことは記録できる。


 ルリは、コルクを咥えたまま机の上を歩き始めた。

 向かっているのは、ケージと机を繋ぐ『固定足場』の方向だ。


「…………帰る?」


挿絵(By みてみん)


 探索の終了予定時刻にはまだ早い。だが、ルリは迷うことなく固定足場へと進んでいく。

 とて。とて。

 途中、固定足場の縁の段差に、咥えたコルクが軽く接触した。

 こっ。

 ルリは一度立ち止まり、頭の角度を少しだけ変えてから、再び歩き出した。今度はコルクの端が足場へ触れなかった。


「でかい荷物持ってるみたいだな……」

 拓海は完全に呆気に取られていた。まさに、自分の身体の何分の一もある獲物や資材を運ぶ小動物の姿そのものだ。


 ルリはコルクを咥えたまま、開け放たれたスライド窓を通過した。

 拓海は目を見開いた。


「……持って帰った」


 拓海はすぐには窓を閉めない。ルリがケージに入ったからといって、探索終了とは限らない。コルクを落としてまた出てくる可能性もある。

 拓海は静かに待った。


 ケージの中に入ったルリは、コルクを咥えたまま、低い枝を伝って太い枝へと移動した。

 飛翔はしない。口に大きなものがあるためバランスを取りにくいからなのか、単に歩行と登攀(とうはん)を選んでいるだけなのかは不明だ。

 ルリは太い枝から、さらに上へと向かう。


 ケージ内の高所休息棚の方向へ。

 拓海が気づく。

「……まさか」


 ルリは、休息棚の側面にある網目を使い、よじよじと登り始めた。

 人間が『内部』を寝床として作ったのに、ルリはずっと『屋根』を使い続けている、あの棚だ。


 コルク運搬の最大の難所だった。

 ルリは側面をよじ登る。咥えたコルクが網目に当たる。

 よじ。よじ。

 あと少しで屋根、というところで。


 ころっ。

 ルリの口からコルクが滑り落ちた。

 ケージの床面へ向かって落下していく。


「あっ」

 拓海は思わず手を出しかけたが、途中で止めた。床材は柔らかいコルクシートだ。落ちても問題はないし、ルリ自身が落ちたわけでもない。


 ルリは屋根まで登り切ることなく、側面の途中で止まった。

 下を見る。数秒。

 そして、見事に引き返してきた。

 枝を降り、床へ降り、落ちたコルクの元へ向かう。

 再び。

 かぷ。


「…………そこまでして、持ってくの?」

 拓海は信じられない思いでその姿を追った。


 二回目の挑戦。

 今度は、ルリがコルクの短辺側を咥えるなど、少しだけ口にくわえる向きが変わっていた。それを「学習して工夫した」と断定はしないが、観察事実として咥える位置が違うのは確かだ。


 再び、枝。棚の側面。

 よじ。よじ。

 屋根。

 今度は、落ちなかった。


 到着。

 ルリは、高所休息棚の屋根の上へ、前脚をかけた。

 全身が上がりきったところで。

 ころっ。

 口からコルク片を離した。


「…………」

 拓海は完全な沈黙の中で、その光景を見つめていた。


 しかし、ルリの行動はそれで終わりではなかった。

 屋根の上に落ちたコルク片を見る。

 鼻先を近づけ。

 ちょい。

 数センチだけ、コルク片を横へ動かす。

 もう一度。

 ちょい。


 移動させた先は、屋根の中央ではない。ルリが毎晩、丸くなって眠っている定位置の、すぐ脇のスペースだった。

 結果として、コルク片はルリが普段身体を置く場所を塞がず、そのすぐ脇へ収まった。


「…………飾った?」

 拓海がポツリと漏らした。

 一秒後。

「いや。“飾った”かどうかは、分からん」

 いつものように即座に訂正する。

 でも。

 見た目は完全に、『自分の寝床の横にお気に入りのアイテムを置いた小竜』そのものだった。


 ルリはそのまま、自分で配置したコルク片の横をぐるりと一周した。

 そして、四脚を折り畳むようにして身体を低くし。

 いつもの、屋根上の休息姿勢に入った。

 いびつなコルク片は、丸くなった赤銅色の身体のすぐ横に、静かに並んでいる。


「…………かわいすぎないか、これ」

 拓海は完全に敗北していた。

 机の上の認可端末の録画ランプが、静かに点滅を続けている。少なくとも運搬経路の大部分は、固定映像に残っているはずだ。


 ***


 探索を終了とし、ケージのロックを確認した後、拓海は紙のバインダーに向かった。

 感情を極限まで排除し、事実だけを並べる。


『提示した既知のコルク片へ自発接近』

『前肢による反復接触後、口部で端部を保持』

『保持した状態で、観察区画からケージ内へ移動』

『運搬途中に一度対象を落下。個体は自発的に対象位置へ戻り、再度口部で保持』

『高所休息棚屋根まで運搬』

『屋根上で鼻先・前肢による対象位置の移動を確認』

『その後、対象近傍で休息姿勢へ移行』

『咬合による破砕・摂食行動は一切確認されず』


 拓海はペンを握ったまま、少しだけ手が止まった。

『お気に入りのおもちゃを寝床に持ち帰――』

 書きかけて、二重線で真っ直ぐに消す。

「いやいやいや。駄目だ俺」


 正式な記録には、あくまでこう書く。

『ケージ外で提示された対象を、個体が自発的にケージ内の高所休息棚屋根へ運搬』


 しかし。

 拓海はケージの方へ向き直り、屋根の上で丸くなっているルリと、その横にあるコルクを見た。

「でもこれ、俺の私生活の中では、“持ち帰った”でいいよな……」

「きゅ」

 ルリが短く鳴いた。


 ***


 拓海は認可端末から動画を転送し、スマホから榊原へテキストを送った。

『先生』

『どうしたの?』

『コルク、持って帰りました』

『どこへ?』

『高所休息棚の屋根です』

 数秒の間。

『動画ある?』

『先生、その質問最近早すぎません?』

『観察記録だからね』

『もう記録システムに上げてあります』


 榊原が動画を確認している時間。

 しばらくして。

『…………かわいいね』

『ですよね』

 拓海はもう抵抗しなかった。


 榊原の文面が研究者モードに切り替わる。

『これは面白い。同一コルク片へ複数日にわたり接触が続いている。そして今回、初めて口部での保持が確認された。破砕や摂食目的ではない。ケージ外から内への運搬。一度落とした後も再取得。さらに、高所休息棚の屋根という特定の場所へ運搬し、屋根上での位置調整後、近傍で休息』

『少なくとも、単にその場で触れただけではないね』

『ですよね』


 拓海は思い切って聞いてみた。

『これ、宝物って呼んでいいですか?』

『記録用紙に?』

『いや、普段の会話で』

 少し間。

『普段の会話なら、好きに呼べば?』

『先生、急に雑ですね』

『でも「小型竜には収集習性がある」とは絶対書かないでね。それは学術的な断定になるから』

『それは分かってます』


 拓海はさらに食い下がる。

『じゃあ、「お気に入り」はどうですか?』

『「お気に入り」も感情を伴う言葉ではあるけど、日常会話ならまあいいと思うよ。実際、同じ個体物への接触が複数日にわたって続いているわけだしね』

『じゃあ今日から、あれは「お気に入りのコルク」でいきます』


 ここで、拓海の中での便宜的な日常呼称として『お気に入りのコルク』が解禁された。正式記録は別だが、生活の中での呼び方が決まるのは嬉しい。


 しかし、榊原からの指摘は鋭かった。

『ただ、高所休息棚の屋根へ置いたのが、本当に意味のある配置だったのかどうかは、まだ一回だけだからね』

『ですよね』

 たまたま運んでいって、そこで疲れたから寝ただけ、という可能性も捨てきれない。

 だからこそ、次に同じことが起こるかどうかは、まだ分からない。


 ***


 翌朝、木曜日。

 拓海が起床してケージを確認する。

 ルリは屋根の上で丸くなっている。その横には。


「…………まだある」

 コルク片は昨夜と同じ位置にあった。当然、夜間にルリが動かして落ちなかっただけとも言える。

 ルリが目を覚まし、伸びをする。コルクには触らない。でも、そのままそこにある。


 そして、土曜日。

 ケージの定期清掃の日だ。

 ルリが指定キャリーへ自発的に入ったのを確認し、扉を閉じてからケージ清掃を始める。床材の交換、水皿の洗浄、枝の拭き掃除。

 当然、高所休息棚の屋根も拭く必要がある。

 拓海は屋根の上から、コルク片を一時的に撤去した。状態を確認するが、欠損も汚れもない。


 掃除が終了した。

 さて、このコルクをどこへ戻すか。

 拓海は迷った。

「屋根に戻したら、次にそこにあるのが俺が置いたからなのか、ルリが選んだ結果なのか分からなくなるよな」

 だから拓海は、ルリが無理なく接近できるケージ床面の安全な場所へコルク片を置いた。

 元の場所へ戻すために人間が屋根へ置いてしまうより、その方が後の行動をそのまま観察できる。


 キャリーを開放し、ルリをケージへ戻す。

 ルリは自分でケージへ入り、枝から床へと降りた。

 そして、床に置かれたコルク片を見つけた。


 拓海は息を止めた。

 ルリはコルクに近づき、すん、と匂いを嗅ぐ。

 そして。

 かぷ。


「…………え」

 拓海の予想を裏切り、ルリは再びコルクを咥えた。

 枝を登り、棚の側面をよじる。今回は途中で落とすこともなく、スムーズに。


 屋根の上へ。

 ころ。

 コルク片を離す。

 配置されたのは、前回と完全にミリ単位で同じではないが、屋根上の、ルリが普段休む位置の横側だった。

 鼻先で、ちょい、と微調整する。


「…………またそこなの?」

 これが、拓海にとって最大の決定打となった。


 正式記録にはこう書く。

『清掃時、対象物を一時撤去』

『清掃終了後、対象物をケージ床面の安全区域へ配置』

『個体帰還後、自発的に対象へ接近し、口部保持により高所休息棚屋根へ再運搬』

『前回と同様、休息位置近傍へ対象を配置』


 これで少なくとも、「一度だけ偶然その場所へ置かれた」という状態ではなくなった。別の機会にも、同じ物体が同じ休息位置付近へ運ばれたことになる。

 ただしまだ、「飾る」とは正式には言わない。


 だが、拓海の私的な感情は違った。

「…………飾ってるだろ、これ」

 完全に降参だった。


 高所休息棚の屋根。ルリが寝るためのわずかなスペース。

 その横に、不格好なコルク片が一つ。

「……これ、もうお前の部屋じゃん」

 元々ルリの飼育設備なのだから当然なのだが、そう思えてしまう。

「いや、俺が汗だくになって作った棚なんだけどな。しかも、俺が意図した中じゃなくて、屋根なんだけどな」


 ***


 拓海はスマホを取り出し、榊原へ報告した。

『先生』

『今度は何?』

『掃除でコルクを床に戻したら、また屋根まで運びました』


 間があった。

『同じあたり?』

『普段寝てる場所のすぐ横です』

『それはかなり面白いね』


 榊原の返信は、やはり慎重だった。

『二回だから、まだ完全な習慣とは言わない』

『はい』

『でも、「特定物体を特定位置へ複数回運搬し配置した」という行動としては記録していい』

『もう書きました』

『仕事が早いね』


 拓海は尋ねた。

『日常会話では、“飾ってる”って言っていいですか?』

『俺に許可を取る必要ある?』

『なんか最近、どこまで断定していいのか、何を言っていいか分からなくなってきて』

『記録と感想を分ければいいんだよ』


 榊原からの、飼育者への大切なアドバイスだった。

『記録用紙には、運搬・配置という事実だけを書く。水野君の頭の中の感想では、“お気に入りを飾ってるみたいでかわいい”でいいんだよ』

『なるほど』

『研究記録に「宝物を集めた」って書いたら俺が全力で止めるけど。家の中で「宝物みたいだな」って笑うくらい、好きにすればいい』


 拓海はケージを見た。

 屋根の上。ルリと、コルク。

『……じゃあ、めちゃくちゃかわいいです』

『うん。動画見てるから知ってる』


 ***


 夜。

 部屋の照明を落とす前。

 ルリが高所休息棚の屋根にいる。寝る前の時間だ。


 コルクが、少しだけルリの身体の方へ寄っているように見えた。

 ルリが鼻先で、ちょい、とコルクを数センチだけ横へ動かした。

 そして、その空いたわずかな場所へ、くるっ、と入り込むようにして身体を低くし、四脚を畳む。

 コルク片は、ルリのすぐ横にぴったりと寄り添うような形になった。


 拓海はベッドからその光景を見ていた。

「…………」

「寝る場所、整えたのか?」

 一秒後。

「いや、分からん」

 もう完全に自動修正機能が働いている。でも、拓海の顔は笑っていた。


挿絵(By みてみん)


 拓海は認可撮影端末を手に取り、屋根の上へレンズを向けた。補助光もフラッシュも使わず、一枚だけ静かにシャッターを切った。

 屋根の上で丸くなるルリ。その横にある、いびつなコルク片。

 今日一番の一枚だった。


 紙の記録はもう書き終わっている。

 だから今は、純粋な個人の感想として、何度でも言える。


「かわいいな」


 ルリの瞼が少し細くなっている。鳴かない。

 拓海もそれ以上は言わず、静かに部屋の照明を落とした。


 最初は、おもちゃを作った時に余っただけのコルク片だった。 拓海にとっては捨てる予定だった端材で、ルリにとって何なのかは今も分からない。 ただ、少なくともその夜、そのコルク片はゴミ箱の中ではなく、ルリが毎晩眠る屋根の上の、特等席にあった。

最後までお付き合いいただき感謝します。


もし「続きが読みたい」と思われた方は、ページ下部よりブックマークと評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆ パラレル・ゲーマーの他作品紹介 ◆
現代ダンジョン、異能バトル、TS、カード魔法など色々書いています!
気になる作品があれば、ぜひ読んでみてください!

【現代異能・TS・吸血鬼】
俺の異能が中華ゲーだった
ガチャで引いたキャラに変身して異能のお仕事!【キャラチェンジ型可変TS/ガチャ/異能バトル】※BL・GLタグあり

元おっさんの吸血姫は引きこもりたい。
元おっさんが美少女吸血鬼に! ゲーム三昧を望む怪異バトル&恋愛もの。【男→女TS/吸血鬼/男性との恋愛】※BL・GLタグあり

35歳社畜、女子高生に吸血鬼だと宣告される
社畜のおっさんが吸血鬼に覚醒! 女子高生師匠と現代異能社会を攻略。【吸血鬼/おっさん主人公/俺TUEEE】※TSなし

派遣社員、うっかり極道の跡目に選ばれる
普通の派遣社員が歴代親分の異能を継承!?【現代異能/ヤクザ/最強主人公/勘違いコメディ】※残酷描写あり

【現代ダンジョン・ハクスラ】
現代ダンジョン発生初日。
世界にダンジョンが出現! 攻略Wikiの知識で最強ビルドを構築し、未来のSSS級探索者を育成。【ゲーム知識チート/最強ビルド/弟子育成】

裏社会のジョーカー、現代ダンジョンで成り上がる
天才ギャンブラーが妹を救うためダンジョンに挑戦!【現代ダンジョン/複数ビルド/ハクスラ/成り上がり】※ハーレムタグあり

【TCG能力・カード魔法】
TCG能力《創世札典》を手に入れた俺
一日一マナから始める現代社会攻略! 治療、未来予知、若返り。マナが足りないので山を買います。【TCG能力/魔法/現代社会】

TCG未経験の36歳無職、TCG能力《因果祭典》で異能バトル世界を駆け抜ける
TCG初心者のおっさんがデッキ構築と召喚で異能バトル!【TCG/デッキ構築/召喚/現代異能】

【現代×異世界・魔法生物】
異界渡りを手に入れた無職がスローライフをするために金稼ぎする物語
現代と異世界を自由に往復! 異世界ビジネスで大金を稼ぎ、不労所得生活を目指す。【異世界往復/金策/スローライフ】※コミカライズ連載中

魔法生物飼育員は今日もかわいいに忙しい
大学の秘密施設で小竜や幻獣たちをお世話する、ひたすら魔法生物かわいい物語!【魔法生物/飼育/日常/癒し】

ジャンルも作風も色々ですが、お好みに合う作品があれば嬉しいです!
よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。