07:女帝子亦同(じょていのこまたおなじ)
歌氏からのメッセージ。
《あなたのお陰で夜良野さんが元気になられて、私達も嬉しいですわ》
織氏からのメッセージ。
《夜良野さんと知り合ってから、男系男子派の方々の言動に疲れてそうな時は、私達で励ますようにしてきましたの。一人で相手をするには男系男子派はあまりにも下品で重すぎますから…。お姉様も私も帝主の歴史では夜良野さんのお力になれなくて…》
夜良野氏を気遣う二人の言葉に心が温かくなった。
織氏が続ける。
《ギネス記録に関するやりとりの補足ですけれど、ギネス記録の王朝断絶の定義は一つではないのですわ。
王朝断絶かどうかの判断は、その国の文化、法律、国民の意識、によって変わりますの。
1ギリスも5ペインも女系で継承し、1ギリスは王朝名が変わっても記録は続いていますわ。
古代龍国では、
徳治思想(※為政者は徳(道徳的正しさ)をもって国を治めるべきだという儒教的理念。)と
天命思想(※天(宇宙的秩序)が徳ある者に支配権を与え、徳を失えば天命は取り消され別の有徳者に移る。)
に基づいて王朝交代を正当化する文化がございまして、これが俗に言う易姓革命ですの。
似多門国の煌統に関しましても、神武帝主以来の万世一系は、DNA鑑定などの科学的根拠の無い政治的構築物なのですもの~》
《(なるほど、1ギリスは王朝名を変えても断絶とはみなされていない。だから、似多聞も同じ理由で断絶とみなされるとは限らないわけか…)ありがとうございます織さん。よく男系男子派が、
女性女系帝主が出れば姓が変わって別の王朝・家系になる。
なんて言う人がいますけど…違いますね》
《ええ。民間の婚姻とは違い、煌室の家統には氏姓がそもそも存在しないのですわ。民間のように結婚して苗字が変わるなどあり得ないのです…》
《なるほど…》
歌氏が入って来た。
《補足致しますお姉様。例えば、煌族のまま時ノ御祢殿下が即位されても、結婚により姓を得るのではなく煌族として苗字を持たないまま継ぐだけです。
時ノ御祢殿下の煌女殿下が即位しても、別の家系になるはずがありません。
煌位の継承は、血統よりも憲法第2条からの煌室典範に基づき制度で管理されている面がありますの。
煌室典範の男系男子限定→帝主直系、と、制度が容認すれば継続性が保たれます。
男系でなければ断絶だ、などとおバカな男系男子派が騒ぐのは、煌室典範の制度上でそう定めているからそうなるだけの話です》
《ありがとうございます歌さん。あの、少し前に書かれている、男系男子派が崇めまくってる万世一系って単語についても詳しくお聞きしたいです。(科学的根拠が無いって言ってた…。つまり信仰でしか無い…)》
織氏が答える。
《えぇ、万世一系についても、お姉様が詳しいですわ》
今度は歌氏が語り始めた。
《勿論説明しますわ。万世一系と言う言葉の歴史についてですが、
古代(※煌統連綿=煌統が連綿と続く、と言う意識は見られますの。でもまだまだ万世一系とは呼んでませんわ)からの思想では無く、
第108代~第121代帝主の近世時代(※この国の儒学者による、龍国は易姓革命で王朝交替だが、我が国は百王一姓であると言う思想の記述はありますわよ)
を経て、
第122代帝主の近代時代に初めて万世一系という言葉が強調され、大似多門帝国憲法にも明文化され、国家イデオロギー・理念として制度化
されたのですわ》
《百王一姓ですか…それが万世一系のもとになった思想なのですね》
《ええ。百代の王がすべて同じ家系から出ていること、一つの家系、という意味ですわ。文字通りで、性別限定などありませんの》
《なるほど、ありがとうございます。男系男子派がまた勝手に男絶対に持って行くんですね。(あいつらはいつもそうだし… てかその、一姓=血統、の、核=直系、を排除してる史実無視者が男系男子派…)》
ため息をつきながら、指先で机を軽く叩く。
《ええ。だからこそ、私は自分の考えを明確に語らせていただきますわ。まずは私の立場を説明しますわね。
私は時ノ御祢殿下こそ最高の存在だと考えております。
今上帝主の直系実子、母系・父系ともに現煌室典範の性別制限以外、欠点なし(それも改正可能ですのよ!)。
国民の総意にかなう象徴としての継承者。性別による排除を受けずに継承するべき唯一無二の存在ですわ。
ですが男系男子派の方々は、
民意=危険、
という論法が大好きですの。
国民の9割が宿リ子帝主を望むという世論を、同調圧力だの戦前の空気感だのと重ねて危険視なさる。
これは憲法の理念に真っ向から反するのですわ。
ですのでこの考え方をされる方々には、議員の器など無いと考えております。
要はご自分たちに都合が悪いから、民意そのものを制度論から切り離したいのです。
しかし民主国家では、制度の正統性は民意と完全に断絶しては維持できません。むしろ民意を反映する方法を制度に組み込むことこそが、長期安定の鍵だと思っております。
さて私は、現行憲法や煌室典範、養老律令継嗣令や神勅にそれなりに通じておりますの。
似多門国憲法には、帝主は世襲であることしか明記されておらず、性別についての規定はありません。
煌室典範は男系男子限定ですけれど、憲法の下位にあるのが事実ですので改正可能ですの。
憲法に明記されていない条件(例:男系男子限定)を、憲法の要件として扱うのは法律の内容を憲法にすり替える行為と見なされる可能性がありますの。憲法解釈の逸脱になりますわ》
《(養老律令継嗣令、神勅…また後で詳しく聞かなくちゃ…)それ、やっぱり問題なんですよね?》
《ええ。憲法にない条件を勝手に付け足すのは、法解釈としては危険な前例になりますの。 他の分野でも条文にない制限を正当化する口実になりかねませんし…。
現行憲法では、帝主は国民統合の象徴であり、宗教的祭祀主としての地位は否定されております。
父系による祭祀主の継承、という発想は、戦前の国家祭主道的帝主観の名残で、現代制度には合っておりません》
《えーと、戦前の国家祭主道体制では、帝主は国家祭祀の中心(祭祀主)とされていたから、男系男子派は、少なくとも男系男子派の一部は、帝主を信仰の対象として見ているわけですね。(それで男系継承を単なる両性平等の問題じゃない!とか言い張れるわけか…)あ、もしかしてこの書き込みの事でしょうか。コピペしますね。
↓
帝主は煌祖大神から始まる神話的な血統を男系で継ぐ存在とされているし、神事を行う役割も担ってきたんだぞ!
これは何処大社の宮司家にも通じていて、あちらも煌祖大神の子・天穂日命の男系子孫が神職を継いでいると言ってる。
そういった意味で似多門国の煌室もまた、宗教的な継承の形と重なる部分があるんだ‼
》
少なくとも一部の男系男子派にとって、帝主は法的な象徴ではなく信仰の対象であり、その継承は宗教的な儀式なのだ。
歌が返信をくれた。
《ええ、まさにそれですわね。ですが、古代には父系だけでなく母系の血筋も重んじる双系継承が重視されておりましたし、何より、古代の煌室は特定の宗教に縛られていなかったのですわ》
《(やっぱり双系継承で夜良野氏と同じ認識だ…)えっ!?そうなんですか!?意外です…》
《ええ。祭主道的儀礼が中心でしたけれど、仏教や陰陽道など複数の宗教的要素を取り入れていましたわ。
ですのに何故か、男系男子派の方々は近代以降に国家の宗教として制度化された祭主道に則って、などと仰いますの。
ちなみに宗教的な理由で国家制度の一つに含まれる煌位継承を語るのは、憲法第20条の政教分離の原則にも反しますわよ》
《(あいつらが頑なに祭主道を振りかざして来るなら、裏に絶対何かあるはず…。でも、あいつらに道理は通じないから…。歌さんが教えてくれた憲法の政教分離を投げつけても、また都合よく無視か逆ギレを発動するだろうなぁ…まぁ、やるけど)男系男子派って、知れば知るほど反する事ばっかじゃないですか…。あ、そう言えば歌さん、
公務や祭祀が多いのって自由が制限されていて人権侵害に見える。
と言ってる人がたまにいますが、実際どうなんでしょう?》
《帝主の公務や祭祀は、自由を制限されて大変に見えるかもしれませんが、それを人権侵害とは言えませんわ。
何故なら憲法が帝主を特別な地位として規定しておりますのと、自由の制限と引き換えに政治的権力から切り離され、象徴として尊敬と敬意を受ける立場にあるとも言えます。
だからこそ、押し付けではなく、務め、として受け継がれてきたのですわ》
(そうか…そうなんだ…それで自由の制限と引き換えに、政治的権力から切り離され、象徴として尊敬と敬意を受ける立場…だからこそ…)
思考の途中で引き続き、歌氏からのメッセージ。
《ところで、あなたは憲法や煌室典範についてどれほどご存知?》
《あ、ええと…なんとなく…です、すみません。少し前に書かれていた、
煌室典範のルーツが122代帝主時代の5イツの4エンツォレルン家から…は覚えてますよ》
《覚えていて下さりありがとうございます。
憲法と煌室典範は、それぞれ異なる外来制度を取り込んで制度設計されました。念のため、書いておきましょうか
●憲法
※欧米(特に1ギリス)の立憲君主制
(欧米全体の王位継承は世襲(=男女問わず子孫)継承。現在は絶対的長子相続制に改正。
欧米の一部は男子優先長子相続制だが女性にも継承権有)参考。
・第1条:
帝主は、似多門国の象徴であり似多門国民統合の象徴であって、この地位は主権の存する似多門国民の総意に基く
・第2条:
煌位は世襲のものであって、国会の議決した煌室典範の定めるところにより、これを継承する
●煌室典範
※5イツの9ロイセン王国4エンツォレルン家の家法。王位継承に関しては7ランク王国3リカ法(=家父長制的・絶対男系男子継承)、
※龍国宗族制思想(父系・男系絶対重視)、
※我が似多聞国の家制度(=戸主を中心とする父系家族制度(※婿養子可)・氏的継承観(※婿養子可)含む)参考
・第1条:
煌位は、煌統に属する男系の男子が、これを継承する
・第2条:(少々硬いので、分かり易く書きますわ。補足もしますわね。)
煌位は、煌長子・煌長孫その他その子孫、次いで煌次子およびその子孫、さらにその他の煌子孫、煌兄弟およびその子孫、煌伯叔父およびその子孫の順に煌族に伝え、直系を優先し、同一系統内では長系を先にし、同世代では年長者を先にする。
(※補足:帝主> 子(長男系統) > 孫 > ひ孫 … > 次男系統 > 兄弟系統 > 叔父系統)
》
少し目を見開く。
《ありがとうございます、お手数おかけしました。(あぁ…だからこそ、象徴として…継承は法制度と国民的合意によって支えられるべき…に繋がるわけだ…。そして、男系男子限定は煌室典範で…あ。龍国宗族制がここでも出てきてる…って、あれ…これは…?)あの、煌室典範第2条って…。
直系優先(※子 → 孫 → さらにその子孫)、
長系優先(※兄の系統を弟より優先)、
年長優先(※同じ世代なら年長者を優先)、
ってなってますけど…。(これ…煌室典範を作るに至った歴史的にも直系優先で法制度的にも直系優先ってことなんじゃ…?)》
《よくお気づきですわ。この>(大なり。ここでは、から・へ)の流れを見ますと、直系が健在なのに傍系に飛ばすことなど制度上想定されていない。
直系の時ノ御祢殿下が健在である以上、某系への移行は制度の原則に反する。
というのが一目で分かりますでしょう》
《本当ですね…!!!
あと、5イツや龍国は男絶対ですが、この国の父系家族制度や氏的継承観はどちらも男優先ではあるけれど、婿養子OKなんですね。(あいつらの男絶対はこの国の思想じゃない…っ‼この国の根幹である双系継承の歴史を、よりによって近代の外来思想で上書きしようとしてるとか、絶対この国にとっての保守じゃない…!)》
《その通りですわ。家が絶えないこと、祖祀が途切れないこと。それを第一に考えていた証拠ですわ》
次に歌氏に質問する為に必要な男系男子派の言葉を再度読み返し、苦笑しながらコピペする。
《ありがとうございます。もしかして、煌位継承に関してはこのあたりの事と多少関わりがありそうですか?よく男系男子派は被害妄想全開でこう言いますよね。
↓
女性女系帝主なんて認めたら、すぐに外国人など外部勢力の血が入り込んで煌統が乗っ取られるんだ!
》
《呆れますわよね。現行の煌室典範には国籍規制や血統規制は一切ございません。
ですので外国人の血が入るのが心配なら、煌室典範に国籍や出自に関する規定を設ければ済む話です。
それを放置し続けてきたのは男系男子派自身ですわ。
おまけに我が国の煌統に、既に他国の血統が入っていることは史実として知られていますのに》
《え!?そうだったんですね!?(前に昼田氏と調世さんに教えて貰った、この国の混血の歴史の事かな…)》
織氏が一言。
《そのあたりも、夜良野さんにお聞きするといいですわよ~。あと、乗っ取りについてでしたら、称徳帝主の話を中心にお聞きするといいと思いますわ~。
ところで話は変わりますけども。
私もお姉様も、男系男子派には心底腹が立っておりますの。
帝后陛下を追い詰め病ませ、時ノ御祢殿下を不安にさせ、今上陛下に心労を与え…。
御一家全員に負担をかけ続けている事は一切反省せず、某系御祢家に煌統が移ったら即、女性女系帝主も容認する、と言う噂もさることながら…。
男系男子派が、二千年以上の歴史と共にある今上陛下御一家を蔑ろにし続けるその言動が、結果として多大な国損を招いている現実。
これが本当に、我が国を守る保守の態度なのかと思いますわ…》
胸が痛み、両手の拳を強く握りしめる。
が、気持ちを落ち着けてからキーボードへ。
《(帝后陛下は…。ううん、今上帝主御一家は…。近代に制度化と強化された男尊女卑の為に…。倫理モラルに欠ける恥知らずの癖に、威圧的な男生め絶対系言動だけは一流な男系男子派の為に…。どれほどの理不尽に耐えてこられているのだろう…)そういやあの人達、側室復活とか平気で言ってますもんね。
↓
男系男子の継続の為に、女は男をただ産んでればいい。男を確保するための生み分けも当然だ。
》
これには歌氏が答えた。
《ええ。明確な憲法24条(両性の平等)違反ですわ。
憲法の理念どころか常識すら眼中に無いようで…。人権も倫理モラルも無視できる、実に男系男子派らしい発言ですわ。
一人でも耐え難い存在ですのに、議員含めてそれらが周囲に寄り集まっているのですもの。
聡明な人格者である帝后陛下がご体調を崩されるのも当然です。
煌室の気配など全く無い学生時代から、ご両親に倣い似多門国の評判を落としてはならぬ、と心がけてこられた、外見だけでなく人格までも立派な才媛が、憲法の理念や煌室典範の規定(近代の男系男子限定を伝統呼ばわり、世襲の大原則すら無視・養子を禁じる条文すら顧みないなど)から外れに外れた存在である男系男子派などに踏みにじられるなど…。気の毒でなりませんわ。だからこそ守りたくなりますの》
《男系男子派って、ただの男尊女卑者だと思ってましたけど…やっぱりそのまんまです。(本当、あいつらは根が品性下劣…。歌さんや織さんの言う通りだよ。…本来なら、帝后陛下の時に色々と変わるべきだったのに。あと、称徳帝主の事は…前に聞いた道鏡事件の事かな…?煌室に流れる外国の血の件も併せて、後でもう一度夜良野氏に聞いてみよう…)男系男子派も、下らない乗っ取られる被害妄想を爆発させてる暇があったら、煌族は国民に寄り添うって前提があるのだから、被害妄想解決の為に男系男子派全員で煌族に頭を下げて、血統規制をきちんと制度として整えるのがこの国の為だろって話ですよね。
あ。あと、煌室典範で思い出したのですが、これについてどう思われますか。
↓
平民男子は帝主になれないが、平民女子は帝后になれるから女尊男卑だ
》
《よく見ますわよね。平民男子が帝主になれないのは、煌統に属していないからですわ。
煌室典範第一条(※煌統に属する男系男子が継承)にある通りです。
平民男子でも、旧煌族のように男系で煌統につながっていれば、法改正や煌籍復帰で資格を得る可能性はございますわよ。
帝后も平民女子も、現行憲法と煌室典範の規定で配偶者として煌族身分を得るだけで、継承権はございません。
むしろ、帝后も平民女子も、現行憲法と煌室典範の規定で配偶者として煌族身分を得るだけで煌位継承権はありませんし、女性煌族は煌室典範第12条で降嫁すると煌族の資格を失います。
直系の時ノ御祢殿下に継承権が無いのも含め、これこそ、制度的には男尊女卑に近いと言えますわ》
《分かりました!ありがとうございます!》
そこへ、織氏が入って来た。
《お姉様。近代の男尊女卑的制度ばかりでなく、是非、古代からの制度や思想も説明して差し上げてはいかがでしょう…》
《ありがとうございます織さん。私も、先ほど歌さんが書かれていた養老律令継嗣令や神勅についても是非お聞きしたいと思ってました!》
《勿論説明しますわ。念のため、憲法や煌室典範同様に書いておきましょうか
●有名な三大神勅(※神勅とは神の命令で、古祀記、似多門書紀に記載)
・天壌無窮の神勅
葦原の千五百秋の瑞穂の国は是れ吾が子孫の王たるべき地なり。宜しく爾皇孫就きて治らせ。行け。宝祚の隆えまさむこと、当に天壌と窮まり無かるべし。
(煌祖大神が瓊瓊杵尊に授けたとされ、煌統が永遠に続くことを示すとされる)
・宝鏡奉斎の神勅
この鏡を吾と思え。常に共に斎き祀れ
(※三種の神器の一つである鏡を祀るよう命じた)
・斎庭稲穂の神勅
高天原の斎庭の稲穂を以て、吾が子孫に授ける
(※稲作を子孫に伝え、国を豊かに治める使命を示した)など。
●養老律令(※古代の法律。718年編纂~形骸化〜1947年廃止)の継嗣令(※全4条から成り、煌族の身分や継承の原則を定めています。書き下し文と現代語訳を書きますわね。)
※龍国律令(特に唐律令の中の永徽律令・開元律令)参照。
※似多門国独自の煌族制度(直王・諸王の区分、五世までを皇族とする規定など)
※似多門国の氏族制度
・第1条:煌兄弟子条
帝主の兄弟・煌子は皆直王とす。【女帝の子もまた同じ。】その他は皆諸王とす。直王より以下五世は王の名を得といえども、煌親の限に在らず。
(※帝主の兄弟や煌子はすべて直王とする。【女帝の子も同じく直王とする。】それ以外は諸王とする。直王から数えて五世までを王とするが、それ以上は煌族の範囲に含まれない。)
・第2条:継嗣条
三位以上の継嗣は、みな嫡子これを相承す。嫡子なきとき、また罪疾あるときは、嫡孫を立つ。嫡孫なければ、嫡子の同母弟を立つ。嫡子に同母弟なければ庶子を立つ。庶子なければ嫡孫の同母弟を立つ。嫡孫に同母弟なければ庶孫を立つ。四位以下はただ嫡子を立つ。
(※三位以上の者の跡継ぎは嫡子(正妻の長子)が継ぐ。嫡子がいない、または罪や重病がある場合は嫡孫を立てる。嫡孫がいなければ嫡子の同母弟、さらに庶子、庶孫へと順に継がせる。四位以下は嫡子のみを立てる。)
・第3条:定嫡子条
五位以上の嫡子を定むるにあたりては、治部省に陳牒し、太政官に申す。その嫡子に罪疾あれば、あらためて立つを許す。
(※五位以上の者が嫡子を定める場合は治部省に届け出て太政官に申告する。その嫡子に罪や重病があれば、改めて別の者を立てることができる。)
・第4条:王娶直王条
王、直王を娶ることを許す。臣、五世の王を娶ることを許す。ただし、五世の王は直王を娶ることを得ず。
(※王が内直姫を娶ることを許す。臣下が五世の王を娶ることを許す。ただし、五世の王は内直姫を娶ることはできない。)
どちらも男系男子派の方々がよく仰る、男系男子によって継がれる、という言葉は見当たりませんわ。
あれは、どこから出てきたのでしょうね》
歌氏の言葉に衝撃を受けた。
《(これ、養老律令は、夜良野氏が言ってた、女帝の子が生まれる前提に組まれてた古代の法律の事だ…!)まぁ、男系男子派の脳内だけにある(見える)んでしょうね。
あの、この、葦原の(以下(略))って言葉は…!神様を呼び出す時の言葉ですね…!(これ私使ったわ)》
《ええ。この三つが特に有名ですけれども、実は三つ以上ございまして、どれも神を呼び出すのに使えますわ》
《そうなんですね!神って色々と想像が膨らみますよね、私、命界転生や50シャダイってゲームが大好きなんです》
織氏も続く。
《まあ。ゲームを嗜まれますのね。私もお姉様もゲームに疎いですけれども、私はその2つの作品に旧約聖書が関わっている事は存じておりますわ。
儀式を通じて神を呼び出し、共にある間は全体運が上がると言われてますものね~。あやかりたいものですけども、私達の知る通常の儀式ですと、必ず何かを呼び出してしまいますから…。
悪霊や邪神を呼び出すと全体運が下がったり災厄が降りかかると言われますし、最悪命の危険もございますからそれは嫌ですわ~》
《あはは、確かにそうですね!(…そっか、神では無いけど声様が一緒に居てくれるから、こんなに順調に協力者の皆と出会えたんだろうな…)》
肩の力を一度抜いて、続ける。
《ところで、養老律令は、718年~1947年までずっと効果あったんですか…?すごく長いですね。(それと、特に【】でわざわざ括ってあるとこ…。これはもう、聞くしか無い…っ!)》
《正確に申しますと、718年に編纂・757年に施行、ですの。
実は、第50代桓武帝主の781年~第82代後鳥羽帝主の1198年頃には形骸化しておりまして、
第二次世界大戦後の似多門国憲法(1947年施行)によって律令制度は完全に廃止され、現在の法体系になりましたの》
《なるほど。ありがとうございます!あの、【】の部分、どの様な意図で強調されているんですか?》
《これは女帝の子もまた直王であり、煌位継承資格を持つ、ということを意味します。
つまり、古代の煌室は、男系・女系にこだわらない双系的継承によって、その権威を支えていた事を示す重要な証拠ですの。ですが男系男子派は、
煌族資格であり煌位継承資格ではない、待遇上の称号にすぎない。
などと解釈されますわ》
《解釈に関して男系男子派と双系継承派で分かれてるんですね?でも男系男子派って世襲の意味とか象徴の意味も分からない人も多いみたいですけど、養老律令もですか?冒頭に思い切り帝主の…って書いてあるのに…》
《ええ。古代において煌族資格と煌位継承資格を完全に分けて考えること自体が、後世の男系男子派の発想なのです。
女帝の子を直王(煌族)と認めること自体が、その血統が皇統の存続に重要である、という当時の柔軟な思想を裏付けます。
もし男系絶対であれば、女帝の子は煌族とすら認められないはずですもの》
《仰る通りだと思います。
そう言えば、過去にメモしていた男系男子派の発言がありまして…。歌さんのお陰で、養老律令継嗣令の事だったんだな、と分かりました。いきなり女帝が出てきたり、寡婦がどうこう言ってるんですが…どう思われますか。
↓
養老律令の継嗣令に『女帝の子も亦同じ』とありますが、そこだけ抜き出すのは不十分です。
継嗣令第四条には『五世の王を娶らば聴せ。ただし五世の王は親王を娶ることを得ず』とあり、内親王は誰とでも結婚できるわけではなく、必ず四世までの親王・王、つまり男子皇族としか結婚できないと規定されています。
したがって女帝の配偶者は必ず皇族男子であり、一般人との婚姻は禁じられていました。
だから女帝の子は必ず男系であって、双系論はこの点を無視しています。
実際、孝謙天皇と道鏡事件が大問題となったために、その後女性天皇は700年も現れず、江戸期に出た二人の女帝も寡婦でした。
系図を見ても、男子親には必ず皇位継承できる皇族が父親になっており、これを無視しているのが双系論なのです。
》
そう時間をおかずに、歌氏から返信が来た。
《もっともらしく書かれておりますけれど、幾つも誤認されているので、一つずつ修正していきますわ。
・第1条(煌族身分付与)と第4条(婚姻規制)を混同されています。
第4条が制限しているのは未婚の内直姫の結婚相手であって、女帝の結婚相手ではありません。
それから条文には、
臣が五世の王を娶ることを許す、
とあり、条件付きで臣下婚も認められています。
必ず煌族男子としか結婚できない、は誤りです。
・道鏡事件が女帝禁止の契機、と断定されていますが、史料にそのような詔や制度的な禁止令は史料に存在しません。
女帝不在は摂関政治や院政など政治の仕組みが変わったことによるものですわ。
・それから、寡婦(※夫のいない女性)であったことを女帝の子が継げない証拠、としていますが、これは婚姻の有無と継承資格を混同していますわ。
・女帝の父は必ず煌族男子だった、と言うのは当然のことですわ。もっともらしく男系の証拠、として提示して論拠のように見せかけているだけで、論拠にはなりません。
・家系図で父に線が引かれている、ことを男系の証拠、としていますわね。しかしながら、これは後世の系図作成の慣習にすぎず、制度的根拠ではありません。
》
《よく分かりました、ありがとうございます!(男系男子派の奴ら…混同ばかり…。法律も、歴史も、そして神の命令すらも全て自分達の都合のいいように歪めやがって…)》
そして、話題は調世氏に移った。
《ところで、調世さんですけれど…お二人はどう思われますか?》
歌氏が、
《わたくし、あまりいい印象を持っておりませんの。相手を駒のように扱っているようですもの》
今度は織氏が言った。
《聡明な方であるのは間違いございません。でもわたくしは、少し怖いですわ…真実を知っていらしても、ただ見ているだけ。信じられませんわ〜》
調世氏はただの情報屋でも、ただの観察者でも無さそうだ。
勉強に必死で、つい男系男子派に絡むのを忘れそうなので、見回る。
《歴史上、継承がヤバいって場面は何度もありました。でも、そのたびに女系って選択肢を取らず、男系を守るという判断が一貫してされてきたという事実が女系禁止と言う事なんだ!!》
(はぁ?自分なんて女系の例が無い=女系禁止されていた、に飛躍してんじゃん…。声様、これ何回も見ましたね…)
(ああ。制度として出来る可能性と、実際に政治が選んだこと、を混同している)
それでも一応書いておく。
《女系という選択肢を取らなかった=否定されたでは無いですよ。
122代帝主時代以前に男系男子限定の明文化は存在しないし、女系継承は常に未禁止=許容されていた状態です》
次。
《双系の元々の意味は両親が共に煌族であることだ!》
《(あぁーなるほど。双系を父母両方とも煌族ってわざと限定して女性・女系帝主を排除しようとしてるね。バレバレだよ。)それは男系男子派の解釈ですよね。あえて両親が煌族と限定する根拠何でしょうか。古代の似多門国は父母双方の血筋を重んじる、父母双方の血縁者や、母方の煌族以外で有力な外戚による影響がある双系制社会で、煌族においても女性帝主達の存在がその証拠ですけど》
《なら女系継承の実例は?答えてみなよ》
《(ふん。実例がない=不可能と言わせたいんだろうけど無理だよ)男系男子の明文化は122代帝主の時代なのが事実です。122代帝主以前の煌位継承は柔軟だったので女性帝主が存在していました。必要に応じて女性の即位が可能でしたし、養老律令継嗣令の女帝の子もまた同じ。を見れば当然女性帝主の子も継承が認められていた、と考えるのが自然です》
次
《今、某系長男という男系の後継者がいるじゃないですか。女系継承を急ぐ理由なんて、どこにもありません。
男系継承こそが煌統の正統性と王朝の連続性を支える柱なのです。それは似多門人の誇りであり、歴史的アイデンティティの根幹なんです。煌統を断つのか、それとも守るのか。それは単なる制度や伝統の問題じゃない。私たち似多門人が、自国の歴史と尊厳を未来へどう引き継ぐかという、本質的な問いなんです。今こそ、その覚悟が問われています!!》
《(また正統性…某系長男が男系後継者であることは事実だし、今の煌室典範が男系男子を条件にしているのも事実。でも…)それは現状の制度の話であって、古代からの歴史じゃない。
女帝は過去に何人も存在しました。彼女たちは制度の中で即位し、国を治めてました。
男系だけが正統性の柱だというのは歴史的事実じゃなくて、男系男子派だけの解釈です。
あと、女系継承を急ぐ理由はないというのもおかしいです、現実逃避です。だって現実に、
・煌族女子の減少、
・煌位継承者の極端な限定、
・煌室活動の担い手不足、
という、制度的な課題は山ほどありますよね。
宿リ子帝主からの継承は男系男子派の被害妄想である断絶じゃなく、継続の為に女帝の子を直王と容認していた養老律令への伝統回帰です》
そんな感じで男系男子派に絡みつつネットの海を漂っていたところ、ある男系男子派の書き込みに目を留めた。
《時ノ御祢帝主の場合、歴代女帝の様に絶対未婚で出産も規制すべきだ》
お馴染みの、男絶対脳により歪曲された歴史知識を披露している。
しかし、その下に続く別の男系男子派の書き込みに驚く。
《憲法第24条に違反するのは明らかだろ。同じ男系男子派として恥ずかしい限りだ。本物の保守なら、時代に合わせて伝統を守り、人権を尊重するはずだ》
この人物を追うと、側室制度の復活を主張する別の男系男子派にも噛みついていた。
《男系男子派を名乗りながら側室復活など、今更持ち出すな!時代錯誤も甚だしい!側室ではなく体外受精と代理母だろうが。側室を廃止された124代帝主への侮辱だ‼》
(だ…男系男子派の中に、伝統と人権を両立させようとする人間がいるなんて…。案の定と言うか、若干ずれてる気がしなくもないけどさ…)
驚きを隠せなかった。
しかし、男系男子継承の絶対性を主張する限り女性の人権を犠牲にする必要があり、両立は不可能であることを知っている。
(あの人も…あの意識のままなら、そう遠くないうちに直系派の仲間として会えるかもしれないね…)
調世氏が現れた。
《養老律令について調べたようだが、大宝律令も調べてみるといい》
彼の言葉は常に一方的。
次の一歩を踏み出すために必要な鍵となる情報だけ投げつけてくる。
《大宝律令…ですか?毎度ありがとうございます。直接教えてはくれない…ですよね…?はい、分かりました》
疑問を投げかけても、彼は一切答えない。
(声様、調世氏の声はどうですか?)
(うむ。知識が備わってきただけでなく、その知識を敵対している相手の論理的な弱点に結びつける思考力がある…と、分析している。…彼は、君の成長を愉しんでいる。
自ら探し、自ら見出すことこそが、君にとっての糧になると考えている)
その後、調世氏から教えられた大宝律令について、歌氏に尋ねることにした。
《あら。調世さんから…。ええ、大宝律令は養老律令のもとになったもので、養老律令継嗣令と同じく
【女帝子亦同】
と、書いてありますの。複数の研究者の方が指摘していらっしゃいますわ》
心の中で調世という存在に、さらに不審感を募らせながら感心する。
《教えて下さりありがとうございます。(こんな証拠があるのに男系男子派の連中は何を勉強してるんだろう…。前々から分かってはいたけどほんっと最低だわ)これはもしかして、大宝律令の前もあったりしますか?》
《ええ。流れは、
氏族制度→飛鳥浄御原令(689年)→大宝律令(701年)→養老律令(718年編纂、757年施行)
ですわ。それと男系男子派は、この女帝子亦同という文言について、言いがかりをつけてますの。
これは女帝が即位前に生んだ男系の子を指すだけで、女系継承の根拠にはならない、などと主張していらっしゃいますわ》
思わず突っ込んだ。
《え…?それ…めちゃくちゃ苦しいんじゃ…》
《無理がありますわね。まず、もし即位前の煌女の子を指すなら、煌女の子、と書くはずですもの。煌女は直王ではございません。
即位後の女帝の子も含むと読むのが自然ですわ。
それに、古代は父系・母系の両方を重視する双系的社会でしたので、女帝の子にも煌統を認めるこの文言は当時の社会と合っております。
男系男子限定の解釈は、毎度のことですけども後付けの論理に過ぎませんわ》
《本当に毎度の事ですが、男系男子派がいかに自分達に都合良くこじつけるかよっっっく分かりました》
《本当に…。それにしても、調世さん…古い時代の法律の、それも注釈にまで詳しいなんて…。益々、普通の方ではありませんわ》
彼の存在が、この物語の根幹に深く関わっていることを改めて感じるのだった。
新たな決意を固めた。
(これから私が…学んだこと、どんどん活かしていかないと)
(思いが君の心の中で、一つの形となったようだね)
言葉が頭の中に優しく響く。
(ええ、声様…!私、頑張ります!)
調世氏の態度に不審感を募らせながらも、彼の提供する情報の正確さと価値を認めざるを得ない。
忌み嫌っていた男系男子派との関わりは、今や知的好奇心を満たす、不可欠なものになりつつあった。
他にも、昼田氏とのやりとりは、煌室関連だけでなく、ごく他愛ない雑談に及ぶこともあった。
《そういえば、喪々さんはネット以外は何をしてるんですか?》
これには正直に打ち明けることにした。
《ネットしか無いんですよ。私、小さい頃から二次元の世界で生きてるオタクなんです。アニメやゲーム、漫画が大好きです》
すぐに返信が来た。
《そうなんですか!?(笑)あ、私はオタクとか詳しくないけど、某滅の刃は好きですよ。知ってます?》
《勿論です!映画行きたいです!》
《あはは。そうそう、某滅と言えば某系御祢家の長男が作成したポスターがコミックスの表紙を参考にしたのではと一部で話題になった事がありましたよ。あと、差し支えなければ好きな作品を教えてもらえませんか?》
少し考えた後、キーボードを叩いた。
《好きな作品は沢山ありますけど、特に好きなのが死紙、ハンター×狩人、攻撃の巨人です》
《それ3作品とも、何となく内容知ってます。あくまでその、私の何となくのイメージですが、どれも喪々さんの戦う姿勢を象徴するような作品群に思えますけどwww》
《えへへーバレましたか、この3冊を男系男子派と戦う上でめちゃくちゃ参考にしてまして…》
《!?詳しく》
《あ、これ、私独自の感覚みたいで。皆様に教えて貰った知識がありますよね。
で、男系男子派の書き込みを見かけると、この3冊のうちの文章が頭に浮かぶんです。台詞だったり、ナレーションだったり…。
3冊ともアニメになってるんで、自分がそのキャラとか解説になったつもりで知識を混ぜて書くだけです。
この感覚が、色んな作品のカップリング論争とか作品の設定考察でもめちゃくちゃ役に立ちましてね。
でも、オタク仲間にもあまり理解して貰えないんですよー。いやー皆様の知識と私のバイブル3冊が合わさって強力な武器になってる感覚です》
《あーーー…えっと、その…感覚ってのがその…厨二病ってやつって事になるんですかね》
《私に関しては、大体そんな理解でOKです》
《そう…なんですね。読む余裕が出たら…読んでみますよ》
《是非是非!》
声様が割り込んできた。
(漫画を読むように知識を得て、活用する為にアニメキャラと同化し、ゲーム感覚で男系男子派と戦っているのかと相当驚き、ショックを受けているよ)
慌てて反論しようとする。
(え!?そんな軽くないですよ)
(君の中に度々見慣れない者達が現れたのはそのせいなのだな…)
(あ。そう言えば声様の前では歴史の勉強ばかりで、オタ活してなかったですものね…。でも、私は真面目に…)
声様の声が続く。
(むしろ、その方がいいのかもしれない。君の戦いは、君にとってのゲームであり、遊びであり、そして生きがいなのだね。だからこそ、君はどこまでもタフでいられる。彼らが君を幾ら誹謗中傷しようと、あちら側の論理を振りかざそうと、君はただそのゲームを攻略することに集中している。その感覚で強くあれる)
その言葉が深く響いた。
(あぁ…やっぱり…推し活最高って事だわ…)
[※作中の表を修正したもの※]
●憲法
※欧米(特にイギリス)の立憲君主制
(欧米全体の王位継承は世襲(=男女問わず子孫)継承。現在は絶対的長子相続制に改正。
欧米の一部は男子優先長子相続制だが女性にも継承権有)参考。
・第1条:
天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
・第2条:
皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
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●皇室典範
※ドイツのプロイセン王国ホーエンツォレルン家の家法。王位継承に関してはフランク王国サリカ法(=家父長制的・絶対男系男子継承)、
※中国宗族制思想(父系・男系絶対重視)、
※日本の家制度(=戸主を中心とする父系家族制度(※婿養子可)・氏的継承観(※婿養子可)含む)参考。
・第1条:
皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。
・第2条:
皇位は、皇長子・皇長孫その他その子孫、次いで皇次子およびその子孫、さらにその他の皇子孫、皇兄弟およびその子孫、皇伯叔父およびその子孫の順に皇族に伝え、直系を優先し、同一系統内では長系を先にし、同世代では年長者を先にする。
(※補足:天皇 > 子(長男系統) > 孫 > ひ孫 … > 次男系統 > 兄弟系統 > 叔父系統)
・第3条:
皇嗣に、精神若しくは身体の不治の重患があり、又は重大な事故があるときは、皇室会議の議により、前条に定める順序に従つて、皇位継承の順序を変えることができる。
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●有名な三大神勅(※神勅とは神の命令。古事記、日本書紀に記載)
・天壌無窮の神勅
葦原の千五百秋の瑞穂の国は是れ吾が子孫の王たるべき地なり。宜しく爾皇孫就きて治らせ。行け。宝祚の隆えまさむこと、当に天壌と窮まり無かるべし。
(天照大神が瓊瓊杵尊に授けたとされ、皇統が永遠に続くことを示すとされる)
・宝鏡奉斎の神勅
この鏡を吾と思え。常に共に斎き祀れ
(※三種の神器の一つである鏡を祀るよう命じた)
・斎庭稲穂の神勅
高天原の斎庭の稲穂を以て、吾が子孫に授ける
(※稲作を子孫に伝え、国を豊かに治める使命を示した)など。
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●養老律令(※古代の法律)の継嗣令(※全4条)
※中国律令(特に唐律令の中の永徽律令・開元律令)参照。
※日本独自の皇族制度(親王・諸王の区分、五世までを皇族とする規定など)
※日本の氏族制度
・第1条:皇兄弟子条
天皇の兄弟・皇子は皆親王とす。女帝の子もまた同じ。その他は皆諸王とす。親王より以下五世は王の名を得といえども、皇親の限に在らず。
(※天皇の兄弟や皇子はすべて親王とする。女帝の子も同じく親王とする。それ以外は諸王とする。親王から数えて五世までを王とするが、それ以上は皇族の範囲に含まれない。)
・第2条:継嗣条
三位以上の継嗣は、みな嫡子これを相承す。嫡子なきとき、また罪疾あるときは、嫡孫を立つ。嫡孫なければ、嫡子の同母弟を立つ。嫡子に同母弟なければ庶子を立つ。庶子なければ嫡孫の同母弟を立つ。嫡孫に同母弟なければ庶孫を立つ。四位以下はただ嫡子を立つ。
(※三位以上の者の跡継ぎは嫡子(正妻の長子)が継ぐ。嫡子がいない、または罪や重病がある場合は嫡孫を立てる。嫡孫がいなければ嫡子の同母弟、さらに庶子、庶孫へと順に継がせる。四位以下は嫡子のみを立てる。)
・第3条:定嫡子条
五位以上の嫡子を定むるにあたりては、治部省に陳牒し、太政官に申す。その嫡子に罪疾あれば、あらためて立つを許す。
(※五位以上の者が嫡子を定める場合は治部省に届け出て太政官に申告する。その嫡子に罪や重病があれば、改めて別の者を立てることができる。)
・第4条:王娶親王条
王、親王を娶ることを許す。臣、五世の王を娶ることを許す。ただし、五世の王は親王を娶ることを得ず。
(※王が内親王を娶ることを許す。臣下が五世の王を娶ることを許す。ただし、五世の王は内親王を娶ることはできない。)
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