結末
そういえばあの時もそうだった、あの時も神様は私のこと避けてた、なんて思い出しながらべそべそ泣き暮らして、みんなから心配されているのはわかったけど、まだ現実を受け入れられなくて一日一日水の中をもがくように過ごしていた。
「カヤちゃん!!俺と結婚して!!」
「無理です」
突然、山田さんに両手を掴まれて懇願される。
「じゃあ、恋人になって!!」
「無理です」
目に見えて山田さんが萎れていく。
「じゃあ…ペットにして!」
「…無理ですって」
山田さんは完全に項垂れている。
「じゃあ、じゃあ、せめてデートでも!一回でいいから!!」
「…………じゃあ、今回だけ」
「やったぁ!!じゃあ明日10時に家に迎えに行くね!!」
嵌められたかも。と思ったけど、あまりにも無邪気に喜ぶので思わず、クスリと笑ってしまった。
山田さんは、そんな私を嬉しそうに優しい目で見つめる。
その目が神様を思い出してしまって、慌てて頭から弾き出した。
それより家に迎えに来られるのはマズイ。
役場集合にしてもらう。
「映画を観て、食事したりしようと思ってるんだけど…」
映画、食事と言われて私は眉をひそめる。
村にはもちろん映画館はない。デートにつかうようなレストランもない。
となれば、多分隣町の大型ショッピングモールに行くつもりなんだろう。
デートの定番といえば、その大型ショッピングモール。
男女がそのショッピングモールに遊びに行けば、100%デキてると思われてしまう。
娯楽もなければオシャレなものもない田舎町。
みんな休みの日になればショッピングモールに集まる。
夕方には村のみんなに、私と山田さんが出かけていたことがバレてしまうだろうと思うと恐ろしくてショッピングモールなんて行けない。
「あのっ。食事なら私が作りますから山田さんの家でもいいですか?
映画も…なにか、DVDとか借りてくだされば…」
とにかく人に見られたくないので提案してみると、山田さんはゴクリと喉を鳴らし、じっと私を見つめていた。
「あ、いや、えっと俺はカヤちゃんさえ良ければ…、うん、その…楽しみにしてる!」
そして、山田さんは顔を赤くしたままフラフラと机にぶつかりながら帰っていった。大丈夫かな?
次の日、スーパーに寄って買い出しをしてから役場に行くと、なんとなくくたびれた感じの山田さんが待っていた。
「…ちょっと昨夜から色々トラブルがあってね…」
「? 大変そうですね。今日はやめておきますか」
「いやいやいや!!大丈夫だから!!
ただ…、車の調子が悪くて、申し訳ないんだけどカヤちゃんの車に乗せてもらえない?」
どうやら朝から車が動かなくなってしまい、待ち合わせに間に合うよう慌てて走って役場まで来たらしい。
山田さんの家まで車で10分ほど。
仕方なく、私の車で山田さんの家まで行く。村の人たちに車が見つからないといいなぁ。
「…綺麗ですね」
山田さんの家は村の空き家を借りているので、かなり古い家なのだが、家具は東京に住んでいた時に使っていたものを持ってきたようでオシャレなソファやテーブルがあり、全体的に古民家カフェみたいになっている。
以前からあった家具も、オシャレにみえる。さすが東京の人は違う。
「いやいや、慌てて片付けたんだよ。
だから、棚が落ちてきたりして大変だったんだ」
照れ臭そうに山田さんは笑った。
「DVDさ、どんなのがいいか分からなかったから色んなの借りてきたんだ。どれにする?」
「えーっと、じゃあこれで」
観たいと思っていたけど見逃した恋愛映画をお願いした。
これって神様が好きそう。と考えて、慌ててDVDに集中する。
神様って結構映画とかドラマとか好きだったな。
井上のおばあちゃんに韓流ドラマ勧められて見てたし。
田中さんと一緒に大河ドラマも観てたな。
普段は穏やかに微笑んでいるのに、テレビを見ているといきは表情豊かだった。
笑ったり、顔を赤くしたり、顔をしかめたり、泣きそうになってたり。
神様
神様
神様
私じゃダメだったんですか
いつからダメだったんですか
なにがダメだったんですか
私にも穏やかに微笑んだ顔だけじゃなく、色々な顔を見せて欲しかった。
気付いたらまたポロポロと涙がこぼれていた。
「カヤちゃん……」
隣に座っていた山田さんが私の肩を抱き寄せ、顔を近づけてくる。
キスされる…?
「…っいやっ!!」
「痛っ…!?」
「駄目だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
目の前に神様がいた。
「駄目だ、カヤ。キスは許さん!!」
「…え?神様?なんでここに?」
「…って何で照明の紐が切れるんだ!?ってお前誰?鍵がかかってたはずなんだけど…!?」
「へ?紐?」
山田さんの膝には照明の紐が落ちている。先にはちょっと大きめの丸いプラスチックがついてるやつ。
さっき山田さんが痛いっていったのは、それが切れて頭に落ちたからっぽい。
「鍵は壊れていた。
カヤ、男と二人きりになったら駄目だ。というより、やはりデートは駄目だ。」
「…なんで?神様は私のこと振ったくせに。山田さんと付き合えっていったじゃない!神様の言う通りにしたのになんでダメなの!?」
「振ってない!!
カヤが何を思おうがカヤは私の嫁だ。私が選んだ、私が唯一愛する嫁だ。
少しくらいなら我慢しようと思っていたが、やはり駄目だ。
カヤ
カヤ
私はカヤとずっと一緒にいたいのだ。私を捨てないでくれぇぇぇぇぇぇ」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」
神様は私の腰にしがみつき、わんわん泣いている。
どういうこと!?
いったい何が起きているの!?
ってこれ誰!?なんか泣いてるんだけど!?縋り付いてくるんだけど!?
私の名前を呼びながら、すがりつく神様を見てなぜか胸がキュンとする。
「神様、神様、泣かないでください。
最初に神様が私のこと振ったんじゃないですか。山田さんと付き合えっていったんじゃないですか。
私は神様のことが好きで好きで、早く結婚して欲しいって言ってたのに」
「…………すまない。私は神で…今の時代には必要のない神で…カヤは私の元に来た時に後悔するのではないかと思って…」
『神』って評価マイナスなの?
神様に嫁ぐって将来安泰な気がするんだけど。
「誰も神様を必要ないなんて思ってません。村が平和なのは全部神様のおかげだって皆思ってます。
…私は神様のことが好きですから、結婚を後悔することはないです。」
それにたとえ皆が神様のことを必要ないと言っても私だけは必要だ。
…まぁ、誰も言わないだろうけど。みんな神様のこと大好きだから。
私だけの神様になってくれたら一番いいんだけど。
「カヤ……」
「神様……」
「あの…、ここ俺の家なんですけど。
勝手に現れて勝手にヨリ戻して見つめ合ったりしないでいただけませんか?」
あ。ここ山田さんの家でした。
***
それからほどなく私と神様は結婚した。
仕事は続けることにした。仕事を続けたいと言ったら神様はちょっと寂しそうな顔をしたけれど、許してくれた。
そしてなぜか愛の巣である神社には山田さんが入り浸っている。
「なぜお前がここに来る?」
「俺だってカヤちゃんに会いたいし。神様がカヤちゃんのこと泣かせてないか心配だし」
「ぐっ。泣かせてなどいないっ。いい加減カヤのことは諦めろ!!」
「だって神様、戸籍ないでしょ?てことは事実婚ってことじゃん。
まだまだ入り込む隙間がありそうなんだよね~」
ないと思うけど。というか最初からないよ。
と思うけど、神様は山田さんには村人にむけるような顔ではなく素の感情の顔をみせている。
なんだかんだいって楽しそうにみえるし。
友達…みたいな感じ…かな?
「カヤも!!なぜニコニコしている!!」
「二人とも仲が良くていいなぁと思いまして」
「「仲良くない!!!」」
ほら。仲がいいと思うんだ。
私は神様の服の裾をつんつんと引っ張る。
「神様、山田さんばかりじゃなくて私のことも構ってくださいね?」
「……っ、カヤ!!!山田はさっさと帰れー!!!」
神様に振られたと思ったけれど、今はとても幸せです。
最強チョロイン降臨
「なぁなぁ!神様、あのデートの前日と当日何かしただろ?」
「…………(目をそらす)」
「なんかおかしいと思ったんだよな。神棚が落ちてくるわ、水道の蛇口がとれるわ、コーヒーに虫がわくわ、腹下すわ、なんか小さな嫌がらせみたいなことがいっぱい起きてさー」
「………少々呪いを……」
「呪い!?」
「……カヤの前で無様をさらけ出し、カヤに嫌われればよいと……」
「…こわっ、神様こわっ」
「……すまぬ。お前にはお前にぴったりの可愛くて夢見がちな女性を紹介してやるから」
「………いらないけど、誰?」
「康子はどうだ?この前、連れ合いを亡くして元気がないからの」
「康子…?って井上のばーちゃんじゃん!!いらねーー!!!
カヤちゃん頂戴!!俺はやっぱりカヤちゃんがいい!!」